第24話 勇者と休日出勤(サービス)
そして翌朝――
リィィィン! リィィィン!
「うん……?」
この音は、俺のスマホの着信音か――?
あえてレトロな電話のベルの音にしてある。
「うう……何だ、誰だよ……?」
俺はスマホを充電器から取り上げて、通信の相手を確認した。
『会社』と表示されている――
「……ああ、そう言えばそうだよな――十年向こうにいたが、こっちじゃ一日も経ってないんだよな」
つまり俺は異世界で勇者になって魔王を倒して来たが――そんな事に関わりなく会社にはまだ籍があるのだ。
そして世間ではゴールデンウィークの三日目の今日だが、普通にブラックなうちの会社は普通に休日出勤なのだ。
無論、休日出勤の手当てなどはない。完全なるサービス休出ってやつだ。サービス残業の更に格上の概念である。
「どうした? それで離れた奴と会話できるんだろう? しないのか?」
と、アルマが不思議がっていた。
「うーむ……」
ちなみに今は10時だ。出勤時間を完全に過ぎている。
俺が来ないから呼び出しの電話なのだろう。
十分な金のある今、ブラック企業の社畜を続ける気はない。
これからの俺は、働かずに好きなように生きるのだ。都会的スローライフだ。
このまま出ずにスルーしてもいいのだが――
一応退職手続きだけはちゃんとやっておこうか。
あんな社畜共の厩舎のような会社でも、十年も経てば懐かしい気持ちにもなる。
仲のいい同期もごく僅かながらいるし、顔を見に行ってみるのもいいだろう。
金銭的余裕からか、今の俺はとても心が広いのだ。
金持ち喧嘩せずとはよく言ったものだ。
「まあ、出てみるか」
俺はスマホの通話ボタンを押す。
「はい。有沢です」
「バカも~~~~ん! 貴様何をやっとるかあぁぁぁぁ~~~~っ!?」
いい年したオッサンの全力の怒鳴り声がスマホから鳴り響いた。
「うわっ!?」
「な、なんだ……!? うるさいぞナオ、びっくりするだろう」
「いや俺に言うな、向こうが叫んでるんだよ――」
「今が何時か言ってみろ!? わかっとるのか、あぁ!?」
「えーと……十時ですね」
「ああそうだ! 休日だろうと出勤は九時までにと決まっとるだろうが! まさか三年目にもなる君にこんな事を言わねばならんとはなぁ、社会人として失格だ貴様は! たるんどる!」
ああそうだったそうだった――
これは犬養課長と言って、うちの会社でもかなり有名なパワハラ上司だった。
このオッサンのおかげで辞めて行った社員は数知れず。
別名人を壊す機械、もしくは黒い犬である。
しかしこっちでは一日経っていないが、俺の体感は十年だ。
十年も経つとこのオッサンの扱い方を忘れてしまった。
だからついつい、一言返してしまった。
「どうせ何の手当ても出ないサービスの休出じゃないですか。だったら――」
「貴様仕事を何だと思っとるんだ!? そういう問題じゃあない! 金が出だの出ないなどよりも、大切な事があるだろう! 任せれた仕事をやり切るという、社会人としての心構えの事だ! それを何だ、半人前のくせしてまず出るのが金の話か!? あぁ!? そういうのはやる事をやっている奴が言う事だ! 分かったか!」
いやいや、金も出ないのに会社に行く事自体あり得ないだろう。
心構えの事を言うならば、まず先に労働には対価を払うという根本的なルールを守れと言いたい。
ブラック企業には、こういうオッサンが未だにゴロゴロいるものだ。
この手の奴らは会社への滅私奉公を当たり前に強要してくるからな。
価値観が古すぎる。終身雇用と年功序列の時代はそれで良かったのかも知れんが。
普通に労働基準法だからな、それ!
だがこんな環境の会社でも、東証一部とかではなく新興市場のほうだが、一応株式を上場しているという事実!
株式を公開してるから、企業内の文化がまともなんてわけはないのだ。
労働基準法なんかガン無視でも株式公開できるのだから、法律とかルールとは何ぞやって気分にさせられるな……
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