第21話 ハイエルフと猛獣
数個の宝石でこの値段なら――
持って来たものを全部合わせれば、やはり10億位は行きそうである。
10億あれば一生暮らせるな、俺達の未来は明るいぞ。
これからもちょこちょこ小出し換金して行く事にしよう。
「じゃあ、これで買い取りお願いいします!」
俺は上機嫌でそう言い、315人の福沢諭吉とこんにちわさせてもらった。
普通にこれだけの額の現ナマを持ち歩くのって、初めてだな――
100万の束の存在感が凄いぞ! テンション上がるわー!
宝石買取の店を出ると、俺はアルマに話し掛ける。
「よっしゃよっしゃ、予定通り現ナマに出来たなあ。さぁ、じゃあ昼飯にでも行くかね、アルマ君? 何でも好きなものを食っていいぞ♪」
「おお上機嫌だな、ナオ。ひねくれた性格のお前が、そんなに機嫌がいいのは珍しいぞ」
「ははは、何とでも言うがいいさ♪ やっぱ懐のゆとりは心のゆとりってな♪」
そこからアウトレットモール内のレストランに行き、メシにしていると――
『お客様にお知らせいたします。現在近くの動物園より猛獣が脱走し、捜索中です。この付近にも猛獣が現れる可能性があります。十分ご注意ください』
そんなアナウンスが流れたのだ。
ざわざわざわ――
レストラン内の客が口々に不安がって、ざわめきが広がっていた。
早くここを離れたいのか、食事を途中で切り上げる者が続出していた。
「猛獣が逃げてここらをうろついていると――? どんな強いモンスターなんだ? 魔王が飼っていた魔獣ゲーリュオン程か?」
「いや、そんな一晩で街一つ壊滅させるようなレベルのもんじゃねえよ。せいぜい、世界樹の森にいたファングウルフ程度だな」
「なんだ、そんなもので大騒ぎするのか、ここは」
「ああ。普段そんなもの出ねえし、こっちは平和だからな」
俺達だけはそう会話した程度で、動じず食事を続けていた。
すると――
「ら、ライオンだーーーーー! 駐車場にいるぞ!」
外からそんな声が聞こえて来た。
「……行くぞアルマ。もう腹も一杯になっただろ?」
「何だ助けてやるのか? それは勇者のする事ではないか? 辞めたんだろう?」
「俺は帰るだけだぞ。駐車場に邪魔なのがいたらぶん殴るかも知れんが」
「ふふん。素直じゃないやつめ。だがまあ、お前のそういう所は嫌いではないぞ。私は」
「う~ん、もっと大人なお姉さんに言われたら嬉しいんだがなあ」
ぽんぽん、と頭を撫でてやる。俺からの反撃である。
「お前――子供扱いするなと何度言えば……!」
「ほら行くぞ、付いて来いよ」
「ふん……! ああ分かった」
というわけで俺達は、ショッピングモールの駐車場に戻った。
するとそこには――確かにライオンがうろついていた。
立派なたてがみの雄ライオンで、それがグルルル唸りながら俺達の乗って来た車の側をうろついていた。
「何だ、もっと凶悪なのを想像したが――あれでは少々大きな猫だな」
アルマは全く動じない。
もっと凶悪なモンスターが普通に存在し、それを普通に倒す世界の住人なのだから、ライオン程度では動じないだろう。
「で――アレをどうするんだ?」
「ああ。目隠しにするから霧を出してくれ。周りに野次馬が結構いるからな」
止せばいいのにライオンの様子を遠巻きに眺めている野次馬達が結構いるのだ。
目立ちたくないこちらとしては、ライオンよりそいつらの存在の方が厄介だ。
ライオンを取り押さえる事は簡単だが、その様子をスマホで撮影などされて、動画を拡散されたりしたら面倒である。
さま〇うよろいスタイルでも正体は隠せるが、目立ちまくる。
見えないように目隠しして事を済ませるのが一番だろう。
「分かった任せろ」
とアルマは頷き――一拍置いて首を捻った。
「うん……? おかしいぞ、ナオ。魔法が発動しないんだが――?」
マジか。それはどういう事だ……?
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