第2話 古代種ハイエルフ
「……まだ何か?」
「あなたの氏名と住所と電話番号も念のため教えておいて下さいっ!」
「あー……」
ちなみに勇者として覚醒した俺は、異世界で十年を過ごしたが見た目は殆ど変わっていなかった。
社会人三年目の二十四才で異世界に召喚されたが、ほぼその時のままである。
邪悪と戦うべき勇者はその力を長く保つために、老化が普通の人間より遅くなるそうなのだ。
どこぞの戦闘民族みたいな設定だが、まあ悪くない体質だ。
というわけで俺自身は見た目は変わりなく帰って来ているのだが、実際今は何年何月だ?
十年経っているのか? 街並みを見る感じ、そんなに変わっていなさそうなのだが――
俺が愛用している牛丼の吉松屋もそこに見えるし、行きつけだったゲーセンも見える。
「あの、変な事をうかがいますが、今何年何月何日ですか?」
「201×年の4月2×日ですが?」
「うわ! そのままかよ……!」
大守さんが言ったのは、俺が異世界に転移した当日の日付だったのだ。
ちょうど世間はGWに入った初日だった――
こっちの世界的には、ほぼ転移した直後に戻って来たことになる。
という事は、一人暮らししてる家もスマホの電話番号もそのまま使えるなこれは――
異世界に行ってスマホの電池はとっくに切れてしまったが、充電したら使えるはずだ。
その時着ていた服も併せて、ずっとアイテムボックスに保管しておいた。
「あの、それがどうかしましたか?」
「ああいや、名前は有沢直です。住所と電話番号は――」
と、ここは素直に教えておいた。
「それじゃ失礼します」
と、今度こそ彼女は俺を引き留めなかった。
よしよし――時間軸がそのままなら苦労はない。
とりあえずメシでも食いに行くか。
久しぶりの日本の外食産業が生み出した量産品の味! 楽しみだ。
しかし、ギャラリーの中を通り過ぎてメシに行こうとする俺の袖を誰かが掴んだ。
「おい待て」
「うん……?」
見るとそこには――如何にもファンタジーなひらひらしたドレス風の衣装を纏った、十代前半の少女がいた。十三、四歳の中学生という所だ。
エメラルドグリーンの髪色に恐ろしく整った顔立ちで、耳の先は尖っている。
エルフ――の中でも古代種と言われるハイエルフである事を俺は知っていた。
ハイエルフの寿命はエルフよりも更に長く、見た目は少女だがこう見えても数百歳にはなる。
「私を置いて行くな、ナオ。右も左も分からないんだ」
「アルマか!? お前ついて来たのか!?」
異世界では世話になった、よく知る存在である。
俺は勇者修行のために『世界樹の修練場』という場所で修行をしたのだが――そこの管理人がこのアルマだった。
数年の修行を終えてからも同行してくれたので、異世界では最も長い時間を共に過ごした存在だろう。
「ああ。転移の大魔法が発動する直前、魔法陣に滑り込んだ」
「お前なあ――戻り方なんて分からねえんだぞ?」
「構わんさ。別にあちらの世界に未練はないしな。お前と一緒に行く方が楽しそうだ」
にやり、とアルマは笑みを見せる。
「ふう……まあ来ちまったもんは仕方ねえな。取り合えずメシでも食いに行くか?」
「ああどこでも構わん、連れて行け。しかし、ここは凄まじく賑やかだな。色々と面白そうだぞ」
アルマの目は好奇心に輝いていた。
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