第19話 ハイエルフとアパレル店員
「で――おまえどういう服が好みなんだ? 好きなものを選んでいいぞ」
「ふむ……そう言われてもな、服の好き嫌いなど意識したことがないんだが……?」
「まあ確かにな――」
向こうの世界のアルマは勇者の修行場である『世界樹の修練場』の管理人だった。
そこに入れる勇者が現れる事自体、数百年に一度の事らしい。
それ以外の時は、外から隔絶された秘境の奥の奥の異空間で、ひっそりと時を過ごし続けていたわけだ。
そんな環境で人に見られる事を意識したり、着飾る事に楽しみを見出せるはずもなく。
アルマが着ていたのは『世界樹の修練場』の管理人の装束で、世界樹の祝福を受けたものなのだそうだ。まあ、こちらの世界で言えば巫女装束のようなものか。
「ナオ。お前はどんな服がいいと思う? 選んでくれ」
「俺がか?」
「ああ。私はその……お前が気に入った服がいいからな」
「……うーんそうだな。俺もファッションセンスに自信があるわけじゃねえが……まあ店員に聞きながら選んでみるか」
今は何も服がない状態なので、数も結構揃えなければならない。
店員さんに選ぶのを手伝ってもらうとしよう。
「じゃあ取り合えずそこに行ってみるか」
「ああ」
とりあえず手近な店に入ってみる事に。
「いらっしゃいませ~」
アパレルの女性店員のテンプレ的な、鼻にかかったような挨拶が飛んでくる。
「すいませーん。ちょっとこいつの服を一式見立ててやってくれませんか」
「あ、はーい分かりました! わぁ~可愛い子ですねえ、髪の色も気合入ってるし! すごいキレイに染めてらっしゃいますねえ」
「染める? そんな事はしていない。これは自分の……」
「えぇっ!?」
「ああいや何でもないです! じゃあよろしくっ!」
割り込んで誤魔化しつつ、念話でアルマに釘を差しておく。
(アルマ。お前の緑の髪の色はこっちじゃ自然発生しないんだ。染めてることにしとけ)
(なるほどな――分かったそうしよう)
(耳も聞かれたら作り物って事にしとけ)
(了解だ)
「それじゃあ、こっちに来てくださいね~」
店員がアルマを連れて服を見繕いに行く。
俺はそれを眺めて、暫く経って――
「はい、出来ました。出ますね~♪」
店員に伴われてアルマが試着室から出て来た。
「おお。へ~いいんじゃないか、似合ってるぞ」
出て来たアルマは、ショートパンツにタイツのスタイルになっていた。
活動的なイメージにしたいのか、シンプルなロングだった髪型までポニーテールに変更されている。
完全に店員さんの趣味なのだろうが、これはこれで――だな。
「そ、そうか……? 似合っているのか? よく分からんが――」
「どうでしょう? 気に入って頂けましたか?」
「ああいいっすね。じゃあ全部下さい。それから、別パターンも一式お願いします。今度はスカートで行ってみますか」
「はい分かりました! それじゃあもう一度――」
再びアルマ達が服を見繕いに行く。
そして、次に試着室から出てきたアルマは――
「おー次はこうなるわけね」
ふんわりしたフレアスカートとニットの組み合わせ。
髪型は可愛らしさ重視なのかツーサイドアップに変更されていた。
クール寄りで小憎らしい性格をしているアルマが、今はお嬢様っぽい印象だった。
ファッション次第で大分変わるもんだな。結構見ていて楽しいかも知れない。
中学生程度の子供の見た目とは言え、相当な美少女であることは確かだ。
「こ、今度はどうだ――」
「ああ、いいんじゃないか似合ってるぞ」
「そ、そうか――」
「じゃあこれも下さい。あと普通のパンツスタイルと、ワンピースとかのも一式お願いします」
ここの店員は付き合いがいいし、このままこの店で大人買いしてやろう。
「はーい。ありがとうございます!」
店員はアルマを連れて再びコーディネートへ向かった。
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