第16話 ハイエルフと社会問題
「……それはあれだぞ、こっちの世界の三歳児とかがやって喜ぶやつだぞ。何百年も生きてるハイエルフ様がそれでいいのか?」
「か……構わん! 物珍しくて童心に帰っているという事にしておこう」
「ほんとかよ、お前の場合それが素だろ」
「うるさいな、そうではない!」
ブーーーーッ! ブブブーーーッ!
後ろから、全力のクラクションの音が鳴り響いた。
「ん!?」
「な、何だ……あの後ろのやつが鳴らしたのか!?」
「ああ、そうみたいだな」
アルマの言う通り、こちらの車のすぐ後ろに黒の乗用車がいた。
車間距離をぶつかりそうな程ギリギリまで詰めて、ぴったりくっついて来ている。
今は道が空いているし、俺達は走行車線を走っている。
こちらが遅いと言うなら、追い越し車線に行って抜いていけばいいのだ。
こんな事をする必要は全く無い――わざとやっているのだ。
これは社会問題化している煽り運転ってヤツか。
「何だこいつは――わざとやっているのか?」
「だろうな」
「何のためにこんな事をする?」
「単に嫌がらせだな。世の中、こんな事をやって憂さ晴らしする奴もいるんだよ。普段よっぽど嫌な事がいっぱいあるんだろうぜ」
「こんなに便利で飯も上手い世界でか? それは我儘ではないのか?」
「見た目ほどいい世界でもねえって事だろ。人間がつくる社会である以上、その中で踏みにじられる奴が出てくるのは必然ってわけだ」
「ならば、こいつのこれは許されるべきだと?」
「いんや、俺は許さんぞ。あんまり調子に乗りやがったらぶっ飛ばす」
「……ならばいい」
俺は暫く、我慢してそのまま走行を続けた。
向こうはそのまま後ろからクラクションを鳴らしまくっていた。
暫くすると飽きたのか、今度は真横につけて幅寄せだ。
それを見ていて、アルマは段々イライラしてきたらしい。
「……おいナオ。こちらは何もやり返さないのか? 何なら私がやってやるが?」
「何をするつもりだ?」
「魔法で攻撃するぞ。あれくらいぶっ飛ばしてやる」
「止めろ、こっちが警察に捕まる。そのうち飽きてどっかに行くだろ、放っとけ」
「むう……悪いのは向こうなのに――ケイサツとは正義ではないのか?」
アルマは不満そうに頬を膨らませている。
「そりゃお前、向こうの世界の国の騎士団が正義ばっかりだったか?」
「ふむ……そうでもなかったな」
「だろ、そういう事だ。こっちも大差ねえよ」
「む……前に回ったぞ?」
アルマの言う通り、向こうは俺達の前に出て、そして減速して道を塞ごうとした。
こっちを止めるつもりか――。
仕方がないので、こちらもそれに合わせて車を減速した。
向こうは完全に停車をしてしまう。都合、俺達もそうなってしまう。
すると、向こうの車のドアが開き中から人が下りて来た。
年齢は30歳くらいの目の細い男だった。
手には、金属バットのようなものを持っていた。
何か意味の分からない事を喚きながら、こちらへ向かってくる。
「本当にこういう事が自分の身に起こるもんなんだなぁ――」
俺はそう呟く。これはもう、ニュースで見た事があるような煽り運転からの傷害事件のパターンではないだろうか。
春になるとおかしな奴が多くなるな、本当に。
普通の人ならば、こんな理不尽に見舞われたらどうしようもないだろう。
まあこちらは普通の人間ではないのだが――これでも異世界帰りの勇者である。
「やれやれ……車に傷つけられてもかなわねえし、ちょっと大人しくさせるか」
ただし、そこらの監視カメラなどに映されて身バレするのも嫌だ。
また変装するか――あれに。
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