第12話 ハイエルフとワンルーム
駅前での騒ぎから逃げ出した俺は、アルマを伴って一旦家に戻ることにした。
俺の家は西新宿にあり、駅から徒歩で二十分程はかかる位置のマンションの一室だ。
マンションの一室などと言えば聞こえがいいが、実際は極小のワンルームだった。
俺のしょぼい給料では、これくらいの条件でないと生活が成り立たないのである。
何故新宿なのかと言うと、会社に近かったからだ。
もう少し広い間取りに住みたければ、もっと遠くの相場の安い所に住むしかない。
そうなると通勤時間に一時間も二時間もかかる。
それは勿体ないので、俺としては狭くても構わないから近場を選んだのである。
「ここが俺の部屋だ。狭いし小汚くて悪いが、まあ入ってくれ」
「ああ。世話になる」
俺は鍵を開けて部屋へと入った。
「ただいま――」
当然応じる者は誰もいないのだが、俺は部屋に向かってただいまを言う派だった。
狭いワンルームには安いベッド、安いテーブル、小型の液晶テレビ、本棚、ゲーム機、デスクトップのPC等々、安物だが一通りのモノが揃っていた。
この部屋にとっては今日出かけて行った主が今日戻って来ただけなのだろうが、俺にとってはこれは十年ぶりの再会だ。
部屋の様子がこんな風だったのか一目では分からず、一瞬他人の部屋のように見えた。
「……」
だが、段々と思い出してくる。
テーブルの上に出しっぱなしのゲームの箱は、買って来たばかりでまだやっていなかった事。本棚に並んでいるフィギュアのコレクションには、新しいメンバーを迎える予定だった事。そう、それを買おうと思って出かけた時に異世界に召喚されたんだよ。
ああやはり確かにこれは、俺の部屋だ――なつかしい――
こんな小さな部屋だが、ここが俺の帰るべき場所ってやつなんだ。
こんな気分になるのは初めてだ――しみじみとした感動が、俺を包んでいた。
「何だ本当に小汚くて狭いな」
と、浸っている俺を真後ろからバッサリ斬って来る奴がいた。
「うるせーな淡々と事実を述べるな! 俺にとっちゃあ十年ぶりで懐かしくてジーンと来てたんだよ!」
「ほう。お前にもそういう人並みの感情があるんだな」
「いやお前俺を何だと思ってんだよ……」
「しかしこのように窮屈な所に住まわされるとは、こちらの世界でお前は奴隷か何かだったのか?」
「いや、奴隷とか物騒なもんはこっちの世界にはないんだが――」
だが、社畜と言う現代式の奴隷のようなものは存在するが。
まあそのあたりをアルマに言っても仕方がないので、言わないでおく。
「ただこのあたりは東京って言って、世界でも指折りの都でな。人がとんでもなく多いから、その分家の賃料も高いんだ。俺の給料は安かったから、こんな暮らしが限界でな」
「そうか――お前はこちらの世界でも苦労していたんだな」
「どうかな。体感的にはもう十年前の事だからな、忘れちまったな。まあその辺座れよ」
テーブルの側に座布団を置いてやり、アルマを促す。
「ああ。邪魔をする」
「狭くて悪いが、まあ少しの辛抱だ。早速もっと広い所に引っ越しをしよう」
せっかく異世界で得た資金があるのだ。
まずは快適に住める場所を手に入れるべし。
それも賃貸ではなく分譲で。そうすれば一生そこに住める。
その上で残った金を計算し、いくらかを投資に回して職業は無職ではなく投資家という事にしておこう。社会的ステータスというやつだ。
どこか人通りが多い所に小さな土地を買い、自販機コーナーとして商売し実業家と名乗るのもいいだろう。名乗るだけならタダだ。
実際買った土地に自販機を置いているだけで儲かるものなのだろうか。試してみたい。
いずれにせよもう働きたくないので、不労所得を得つつ社会的には無職ではない感じで生きて行こうかなと思っている。
後は金が無くならないように適宜増やしつつ、だらだら毎日ゲームやったりネットしたりラノベ読んだり野球見たりして過ごそう。
好きなように時間を使って、好きな事をやるぞ!
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