第10話 勇者と全身フルアーマー
そして、俺がアイテムボックスの中から取り出したのは――
ミスリル銀製で、非常に緻密に装飾を施された全身鎧である。
これは銀騎士の鎧という装備品だ。
見ての通り美術館に飾れそうなくらい見栄えがする。
これも高く売れそうな金銀財宝の一部という認識だったが――
完全に顔まで隠れるため、着てしまえば中身が俺だとバレる心配はない。
しかもこの鎧には、特殊効果を発揮する魔法がかかっている。
いわゆるマジックアイテムの一種でもあるのだ。
その効果は――
「鎧よ! 俺の身を覆え!」
俺の指令に鎧が自らパーツごとに分離し、俺の身体に纏わりついて来る。
この銀騎士の鎧の特殊効果は、自動的に着脱できることだ。
全身鎧をわざわざ手動で着脱するのはとんでもなく手間である。
その手間の時点で、冒険に持って行くには実用性が皆無となってしまう。
銀騎士の鎧にはそれを補う自動着脱機能が備わっているため、勇者時代の俺も防御力を特に重視したい場合はたまに使用していた。
今は身バレを防ぐための変装用だ。
白昼堂々全身フルアーマーは恐ろしく怪しいが、背に腹は代えられない。
俺は鎧を身に着けると物陰から飛び出す。
そして、もはや自重せず強く足元を蹴った。
流石に見殺しと言うわけにも行くまい。
瞬きする間に外の刃物男の前に到達。
途中邪魔なガラス窓は、俺が突進する勢いで勝手に割れていた。
ガシャアァン! と小気味いい位に粉々に割れたガラスが、俺の突進の速度を物語っていた。当然だが、ガラスを割っても俺には傷一つ付いていない。
「おいやめとけよ、何か嫌な事があったのかも知れねえけどさ」
俺は婦警の彼女を吊り上げる手に軽く手刀を落とす。
「がああぁぁぁっ!」
その勢いで男の腕はガクンと曲がり、大守さんを下に落とした。
「ああああああああ!」
邪魔をした俺に男は掴みかかって来る。
「ふむ……やっぱり人間の力じゃねえな」
とは言え、キャリア十年の勇者を倒すにはまるで足りないが。
俺は足払いを放ち男を仰向けに転ばせる。
すかさず上から鳩尾を踏みつける。
「がああぁっ!」
「……これで悶絶しねえのか。痛みも感じなくなってるんだな」
それに微弱な瘴気のようなものも感じる――
ひょっとしてとは思うが――俺は軽く魔法を詠唱し、足元で暴れている男に放った。
俺の掌から放たれた光は、天使の輪に似たリング状になる。
リングが転がる男を拘束するように締め付けると、一瞬全身がポワンと輝き光が消失。
そうすると――男の顔つきが平静を取り戻した、穏やかなものに戻っていた。
意識が途切れたか、そのまま眠っているように静かになった。
これは、アンデッド系のモンスターが嫌う光のリングを発する魔法だ。
バニッシュリングという魔法で、直接当てればアンデッドへのダメージになる。
また瘴気で正常ではなくなった人間を元に戻す効果もある。
「……効きやがったか。どういうことだ?」
この魔法には、ハイになっている通り魔の心を和らげる効果もあるという事か?
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