第1話 帰還三秒の人身事故
新連載! こちらはちまちまゆったりやって行こうと思います。
おとぎ話の最後によくある『末永く幸せに暮らしました、メデタシメデタシ』
のメデタシメデタシをヽ(・∀・)ノで表現してみました!
林立するビル街に、その下を忙しなく行き交う人々――
彼等の立てる足音や、近くのドラッグストアから聞こえる宣伝。道を行き交う車のエンジン音。
それぞれが交じり合って、都会の喧騒というものを生み出していた。
暖かい陽気のはずが、足元のアスファルトが無駄に熱を持つせいで、無駄に暑い。
排気ガスの匂いや、道端でオッサンが吸っているタバコの匂いすら懐かしい。
「おお――マジで帰って来たか……」
俺が声を上げた瞬間――
キキイィィィィーーー! ドカアァァン!
「おうふ……っ!?」
俺は背後から衝撃を受け、錐揉み回転して吹っ飛んだ。
そのまま道脇のガードレールに衝突! 物凄い衝撃音がした!
どうにも、俺が出現したのは思いっきり車道のど真ん中だったらしい。
そうなると、轢かれるのは当たり前だ。
「うぐぐぐ……そ、そういえばそうだったな――」
もう十年も前になるか――俺が異世界転移する直前は、トラックに轢かれそうになったのだ。
トラックに轢かれて異世界転生したのかと思いきや、単にその直前に転移しただけというフェイントだった。
で、恐らくその場所に戻ったのだろう――すると普通に車が走っていたと。
まあ、こうなるのも当然か――車道だからな。
「きゃああぁぁぁっ!? だ、大丈夫ですか!? ごめんなさい、ごめんなさいぃぃぃっ!」
悲鳴を上げながら俺に駆け寄って来る人影が。
うん? 制服? うわ、婦警さんだ。まだ二十少々の新米な感じである。
とんでもない美人なのはいいが――警察は面倒だな。
まさかパトカーに轢かれるとは――
彼女は半泣きで俺を介抱しようとして来る。近づくとふわっと甘い香りがした。
「お、御怪我はありませんか!? い、いやあんな当たり方したんだから絶対大怪我していますよね!? とにかくすぐ救急車を――!」
「いや! ちょっと待った……!」
と、婦警さんを止めて俺は立ち上がる。
首を捻って肩を回し、二、三度跳躍。
うむ……これは――さすが勇者だ、なんともないぜ。
異世界で身に着けた強さはそのままのようだ。想定通り、能力引継ぎで戻って来られた。
これでも俺こと有沢直は、異世界で十年間ほど勇者をやっていたのだ。
鍛え上げたその装甲は、車に轢かれたくらいではビクともしないぜ。
魔王サマの放つ、一発で山をも吹き飛ばすような攻撃に耐えて来たんだからな。
「よしよし……あ、特に怪我してないんでお構いなく。それじゃ」
「待って! いけません、そんな事! あれで怪我していないはずがないじゃないですか! とにかく病院に行きましょう!」
「いや大丈夫ですって」
「そんな筈がありませんっ! 我ながら見事過ぎるくらいに人を撥ねたんですから……!」
「……」
隙あらば隠蔽しようとか、揉み消そうとか、そういう気配が無いのは生真面目で結構なのだろうが――
俺にとっては逆に面倒臭い。不真面目な奴の方が助かったんだが……
「えーと――そうだ、俺実はスタントマンやってましてね。条件反射で大げさに吹っ飛びましたが、実は大した事なかったんですよ。ほら見て下さい」
バク転、バク宙、ムーンサルト! まあこの位のアクロバットは余裕である。基本の体術と言っていい。
「え……ええっ!? 怪我してるのにそんなに動けるなんて――!」
婦警さんが目を見開く。何事かと集まっていたギャラリーからも拍手が起きた。
「違いますよ。怪我してないから動けるんです」
「ほ、本当なんですねっ!? 信じますからねっ!?」
「ええ。信じて下さい」
「よ、よかったぁ~……わたし、警察官なのに大変な事をしちゃったと思って――」
「初めから大丈夫だって言ったじゃないですか。それじゃ失礼します」
「あ、待って下さい! 今は大丈夫でも後から痛くなる可能性もありますから、何かあったら連絡を下さい! 出来る限りの事はさせて頂きますから!」
名刺を渡された。逃げ隠れはしないという意思表示なのだろう。
今俺を放っておけば、連絡先も分からないし逃げられたのにな。
そうしてくれてよかったのに。変に真面目な娘だな――
いやそれが普通なのかも知れないが、ロクでもない奴等ばかり見て来たから新鮮だった。
名前を見ると大守都と書いてある。
ふーん、警視庁の交通執行課か……まあ興味はないが。
「どうも。じゃあ失礼します」
「待って!」
まだ食い下がって来る。しつこいな。
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