73話 庭の狭間の死闘
飯田家の門は開かれていた。
俺らは何も語らずに門をくぐり、館の入り口へと向かっていった。
今の所は誰かに襲われると言う気配はないが……
すでに俺らはこの里で殺傷をしとる。
向こうから襲ってきて返り討ちにしただけとは言え、実際に人を殺めている。
そやから、いつ襲われてもおかしくない状況なんや……
しかし依然として俺らを襲ってくる気配はない。
……やがて館の入り口へと辿り着いた。
「……お香、気ぃ引き締めえよ?」
俺は館の玄関を見詰めながらお香にそう言った。
「分かってるよ趙雲」
お香が茶化してそう言う。
「うるさい」
俺はそう言うと玄関の中に入り込んだ。
中はシーンとしとる。
「……二郎、人の気配しないね……」
お香も玄関の中に入るとそう言った。
確かに館から人の気配がせん。
……そんな筈は無いのに、なんで?
そう思った時やった。
「二郎!!」
お香が声をあげた。
後ろから気配を感じる。
振り返ると門から武装をした男連中が十人以上おって、こちらへと向かってきとる。
「お香!逃げるぞ!」
俺はお香の腕を掴み、土足のままに館の中に入り駆け出した。
お香も素直に従い俺に付いてくる。
……くそ!どういう事や!俺はどうやら完全に命を狙われとる。
どうも俺が与右衛門を殺した事になっとる……
どういう事やねん!!
俺はお香と共に必死になり土足のままに廊下を駆け抜けた。
後ろからドタドタと音がする。連中が俺らを追い掛けとるようや。
「こっちや!!」
俺は縁側に続く障子の戸を開ける事なくぶち破った。
お香も俺に続き障子の戸をぶち破っとる。
そして俺らは縁側から庭へと出た。
明智光秀の首実検をしたあの庭である。
「二郎……」
お香がそう呟いた時、俺らを追う連中が雪崩れ込むように館から庭に続々と現れた。
「葛原!!待てぇ!!」「葛原ぁ!!」「待たんかい!!」
連中は俺に向けて怒号を放っとる。
続々と館から出てきとる。
その数はおおよそ二十人はおるぞ。
「お香……逃げるぞ……流石にあの人数は無理や……」
俺は連中を見詰めそう呟いた。
「待って二郎……太刀持ってる奴いんべ?」
確かに数人は刀を手にしとるが……
「何すんねん……この人数相手やと無事じゃ済まんぞ」
「ここじゃあね、だけんど狭い場なら勝てるべ、例えばさ……」
そう言うとお香がチラリと庭の奥を見た。
館と垣根に挟まれた狭い場がある。
あそこでなら勝機があると言う事か。
「……おい!!貴様らぁ!!どういうつもりか知らんが俺らはここへ来たばかりやぞぉ!!何を勘違いしとるんやぁ!!俺は何もやっとらんぞぉ!!」
俺は二十人以上の集団へ向けて、そう怒鳴り付けた。
怒鳴り付けたが、連中は槍や刀、鉈などの武器を持ち徐々にこちらへ向けて距離を縮めてくる。
「囲まれたら終わりだよ、一旦退くよ二郎!!」
お香はそう言うと庭の奥へと駆け出した。
俺もすぐにお香の後に続く。
「待てぇ!!」「葛原ぁ!!」
後ろから怒号が聞こえる。
……なんで俺が小栗栖で命狙われなあかんねん……
そう思いながらも必死に庭を駆け、館と垣根の狭間に来た時やった。
「……あ……」
館の窓を見ると……
音羽がじっと俺らを見詰めていた。
むしろ俺を……
「音羽!!」
俺は立ち止まり彼女に向けて声をあげた。
「…………」
音羽は何も言わんとじっと俺を見詰めとる。
「どういう事じゃ!!音羽!!」
「…………」
彼女は何も語らずにじっと俺を見詰めとる、無表情のまんまに。
そうしていると男どもが武器を構えて駆け付けてきた。
しゃあない……殺るか……
俺は槍を構えた。お香も俺と同じように槍を構える。
「覚悟せえ!!」
男の一人がそう怒鳴り付け、俺に向けて槍を突き刺してきた。
俺は身を交わし、突きだされる槍を左手で掴むと右手に持つ槍で男の喉を突いた。
お香にも槍を突いている男がいたが、お香もさっと身を交わすと男の胸を槍で突いている。
俺は男から槍を抜くと再び連中に向けて構えだした。
お香も瞬時に男の胸から槍を抜き、構えている。
うおおおっとわめき声をあげながら三人程が俺らに突撃をしてくる。
しかし狭い場なのでまとめてかかって来られずにいる。
「二郎!太刀持つ奴狙って!!」
お香がそう叫びながら突進してくる男の槍を払っている。
あちらも警戒し、突進するのを止め一歩下がりだした。
館と垣根に挟まれた場ではせいぜい三人が並ぶのが限度。
俺らに対峙する三人の内二人は槍を構えとるが、一人は刀や。
「葛原ぁ!!覚悟せ……」
槍を持つ一人がそう叫んだ時やった。
お香が瞬時に動き、その男の胸を突いた。
それにより相手側に一瞬の隙が出来たようや……
俺もさっと踏み込むと刀を持つ男の首目掛け、飯田の黒く重い槍を突き刺した。
その動きは我ながら素早く感じた。
その動きはお香に数日習ったあの踏み込みと摺り足の反復練習の賜物やろうと思う。
槍は男の喉を貫いた。
男の首と口から血が溢れ出す。
手にしていた刀はポロリと地に落ちている。
俺は男の腹を思い切り蹴飛ばすと同時に男の首から槍を抜いた。
蹴られた男は後ろに吹っ飛ぶ。
その瞬間お香が地に落ちた刀を拾い、さっと一歩後ろに下がると槍を捨て両手で刀を持ち構えだした。
「…………」
お香から放たれるピリピリとした殺気が凄まじい。
隣におる味方である俺ですらも怖じ気付く程やった。
俺らに刺された二人の男の代わりに後ろにおった別の男二人が眼前に現れた。つまり三人の男が俺らに向けて槍や刃を構えている。
スパンッ……
以前に聞いた事のある空を切る音がした。
お香が一瞬で対峙する男に近付き、肩から胸に掛け一太刀あびせている。
そして真横に刀を振るうともう一人の男の首が吹っ飛んだ。
更にお香は足を踏み込むと渾身の力で真横に刀を振るっとる。
シュンッ……
刀が空を切る。
咄嗟にその攻撃を腕で防ごうとした男の両腕を切断させていた。
「……え……」
腕を切断された男が小さくそう呟いた時……
お香は刀を振り上げ、一瞬で男の胸を深く、えぐるように斬っていた。
そしてまた一歩後ろに下がり刀を構えている。
対峙していた三人の男全員があっと言う間に絶命をしてもうた。
速すぎる……全てが一瞬過ぎて俺の出る幕があらへんかった……
「…………」
後ろで武器を構えている連中が唖然としとる。
「二郎……気を抜いちゃあ駄目だよ……」
刀を構えたままのお香は連中を睨み付けながらそう呟いた。
「……あぁ……」
俺はそう呟き、槍の柄を握り締めて連中を睨み付けた。
館の窓からは、まだ美少女の音羽がじっと俺を見詰めている…………




