63話 晩飯
米俵を運んでくれた一行は夕方前に帰って行った。
庭に置かれた米俵には幾重にも布が掛けられていた。雨対策の為やろう。
そやけど大雨でも降ればすぐに米が傷むから明日、全部倉に運ぼうとおとんが言うとった。
今は夕方を過ぎ、外は暗くなっていた。
俺達家族一同は居間で食事をとっている。
俺の前に置かれた飯は塩の掛けられた赤飯に、煮た大根の入った味噌汁に大根の漬け物やった。
赤飯は俺が無事に帰ってきた祝いの為らしい。
つい最近も赤飯を食ったばかりな気がするが……
それは久をここに連れてきた時の事。
久……元気にしとるんやろか……
「元気ねえな、お酒飲みなよ」
隣のお香がそう言い俺に酌をしとる。
「あぁ……」
「ほら、あんたもおらに酌してくんせ?」
そう言い猪口を俺に突き付けてきた。
俺は徳利を手にし、お香の持つ猪口に酌をした。
お香は酒が満たされると、それをグビリと口に運んどる。
……尼さんが酒飲むんかい……ええんかよ……
俺は若干呆れ気味に彼女の横顔を見詰めた。
彼女の頬は少し赤らんどる。
頭には黒頭巾を巻いたままに。
「仏門入っとるもんが酒飲んでええんか?」
俺は隣に座るお香にそう尋ねた。
「特別だ、今日はね、だけんどいつも隠れて飲んでるんだ」
「ええんかい、そないな事して」
「なんのバチも当たってねぇし良いんでないの?」
そう言い更に酒を口に運んどる。
大雑把な尼やなぁ……
「でさ、逃げたおなごってさ、おめさんのお嫁?」
お香がそう聞いてくる。
「いや、まだ結納はしとらんかった。京で知りおうて連れてきただけやってん」
「ふーん、嫁でねえんだ」
「あぁ、まだな……いずれは、とは思うとったんやけど」
「京のおなご?」
「紀州言うとった、紀伊の国や」
「紀伊……田舎だね」
お香がそう呟いた。
「お前が言うなよ」
俺はそう言い笑いだした。
「はぁ?!武州馬鹿にすんでねぇ!関東は大国だ。むしろ丹波の方が田舎だべ!二郎、あんたの方がおらより余程田舎者だ!」
「じゃかあしいわ……阿呆……」
俺はそう呟き酒を口に運んだ。
「……そんでさ、明日発つの?ここ」
お香が話題を変えてそう言う。
「どないしようかなぁ……天気にもよるし……気分にもよるが……」
「明後日にしねぇ?ここ居心地良いね」
そう言いお香が居間をぐるりと見とる。
俺の家族がくつろいで食事をしとる。
「厚かましいのう」
「良いべ?おら普段、寺に居て息詰まる生活してたんだ。こんなくつろげるのは久々だに」
「ほんなら尼やめて故郷帰ったらええやん」
「だから勘当されたんだ。父の館内で人殺めたからね」
「なんで殺してん」
「……別に……」
彼女が俺から視線を逸らし小さくそう呟いた。
……なんか事情あんな。
「そない言いたくない事か?」
「もういいべ、そんな事……」
「気になる」
「……おらに姉いたんだけんども……」
お香がポツリとそう呟いた。
俺は黙ったままに彼女の横顔を見詰めた。
「そいつが姉に酷い事してたんだ……」
「…………」
「その瞬間におら、太刀持ってそいつ斬った」
そう言うお香から嫌な気が発しだされた。
それは陰を含んだ殺気である。
「……あぁ、そ、そうなんか……」
「……あいつ……」
そう呟くお香から殺気と怒気が発せられる。
「ま、まぁええわ、酒飲めや」
俺は慌ててお香の猪口に酌をした。
「はぁ……」
お香は息を吐きながら酌を受けるとグビリと酒を口に運んだ。
「……だけんどさ、おめさんのいごきなから速いよね」
「えぇ?何?」
「おめえさんのいごきなからはええよ。だけんど太刀掴むんはぐらだんべえ」
「……田舎の言葉は分からんわい」
「はぁ?いしの方が田舎者だろ?!この!」
そう言い俺の背中をパチンと叩く。
痛い……こいつでかいから力強いねん。
「痛いわ阿呆!手加減せえ!」
「うるせえ田舎者!」
「阿呆め」
「あんたの動き飛んでもなく速いねっつったんだ、仮想のあの試合でさぁ」
「あぁ……」
枝で戦ったあれか。
「仕留めたと思ったのにすぐに身を交わされたべ、あんた何者?」
「……知らんよ、咄嗟やった」
「おら思うんだけど、その身のこなしのおかげで秀吉公から御褒美頂けたんでねえかなって思うだ」
「……どうやろな……」
俺はそう呟き、塩の掛けられた赤飯を口に運んだ。
「またおらと手合わせしてね?」
そう言いお香も赤飯を口に運ぶ。
「……それよりお前の太刀捌き教えてくれんか?多分俺はいずれまた戦に呼ばれると思うねん、次男やからな。今後の戦で役立たせたい」
「……別に良いけど……直ぐには会得出来ねえよ?」
お香が俺からなぜか目を逸らす。
「あぁ、そやろな、あの太刀捌きは数日では無理や」
「ずっとおらと一緒にいる事になんべ……」
そう言いお香が頬を染めだしとる。
「……ぷっ!ははははは」
その様子が可笑しく見えて俺は吹き出してしまった。
「何笑ってんのよ!」
パチンとまた背中を叩かれた。
……痛い……
「痛いんじゃ!手加減せえ大女が!」
「うるせえ!笑うな!」
「田舎者!」
「おめえがだろ?!」
そう言いまたお香が俺の背中をパチンッ!と叩いてきた。
強い痛みが背中を襲う。
俺は苦痛に顔を歪めた。
側にいる兄貴とお円さんは、そんな俺らを見て呆れ笑いを浮かべていた…………




