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本能寺の足軽  作者: 猫丸
第三章 小栗栖
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48話 御印

「二郎さん……」


 添い寝をする音羽(おとは)が俺の名を呼びながら胸を(さす)る。

 俺は天井を見詰めながら彼女の手に右手を添えた。


「……音羽さんそろそろ……」

「音羽でよろしおす……」

「……音羽、そろそろ戻り?まだ昼時や」

「うちまだ二郎さんとおりたい……」


 音羽がそう言い俺の手を握り返し甘えてくる。

 強い性欲に襲われるが俺は身を起こした。


「まだ昼間やからな、もう戻りぃ」


 俺は音羽をじっと見詰めてそう告げた。

 音羽は俺の目をじっと見詰めたが身を起こし着物を羽織り出す。


「また夜に」


 音羽はそう言うと頭を下げ部屋を出ていった。

 彼女が部屋を去った後、一息ついて部屋の窓の障子を開け、外を見詰めた。

 窓からは松と梅と桜であろう木が丁寧に植えられた庭が見える。

 梅も桜も季節外れで、ただ緑の葉が繁っているだけやった。

 俺はそれらの木々を見詰めながら今後の事を考えた。

 肩の傷の糸取ってもらったらここを去るか……

 ずっとここに居続ける訳にはいかん。


 しかし音羽の事は気になった……


 すでに二回関係を持ったから。

 そして今宵も明日も関係を持ちそうな気がしたから……




 俺は廊下を歩き(かわや)へ向かっていた。

 すると使用人のお姉さんがたまたまおった。

 この人は先程昼食の時に与右衛門に酌をしとったお姉さんや。

 彼女は俺を見るとぺこりと頭を下げてきた。


「与右衛門さんの様子はどうなんや?」


 俺は彼女にそう尋ねた。


「お休みにならはれてます」

「そうか、ほんなら徳二はどこにおるんや?」

「……とくじ……」

「俺ともう一人連れて来られた奴や」

「……あぁ……あのお若い方……それでしたらご案内します」


 お姉さんが先を歩こうとする。


「先に厠行かせてくれ、その後お願いします」


 俺はそう言い廊下の先の厠へと向かっていった。

 厠で用を足し、お姉さんに連れられ俺はある部屋に来た。


「こちらどす」


 お姉さんがそう言う。

「どうも」と、俺がそう言うとお姉さんは頭を下げて去っていった。

 俺は息を吐くとそっと扉を開けた。


「…………」


 部屋の中では上半身に布を巻いた徳二が茶碗を持ち飯を食っていた。

 側には音羽の姿がある。


「おう徳二、どないや?体の具合は」


 俺はそう言いながら部屋の中に入り、徳二の側に腰を下ろした。


「あぁ……何とか大丈夫や。それより……」


 徳二が箸を止める。


「あんた随分ごっつい手柄あげたんやってな……」


 光秀を討った事か。


「成り行きでな、そうなっただけや」

「いや大したもんや。俺は……ずっと寝たきりで……情けのうてな……」

「気にすんな、それよりゆっくりと休んで傷治すのが先や」

「あんたも大怪我負っとると聞いたで、音羽さんに」


 ちらりと脇の音羽を見てそう言う。


「大した事あらへん、お前の方が大怪我や。ゆっくり休め」

「…………」


 徳二は何も返事をせずに茶碗の飯を見詰めとる。


「…………」


 俺も黙り込んだ。


「……情けのうてな、あんたは手柄を立てて俺は……」


 徳二がぽつりとそう呟く。


「そんなもん気にすんな、俺らはただの足軽や。俺らは元々明智の兵として山崎で……」

「うるさいねん!!」


 徳二が俺を睨み付ける。


「…………」

「不甲斐ないねん!俺は!」

「徳二さん……」


 音羽が徳二を心配して声を掛ける。


「……俺が光秀討ったんもたまたまの事や、無理に連れてかれたんや捨て駒としてな、俺は運が良かっただけや。お前が不甲斐ない訳ちゃうから」

「……すまん、部屋戻ってくれんか」


 徳二が(うつむ)いたままにそう言う。


「……無理せんようにな、ゆっくり休んでくれ」

「…………」


 徳二は何も言わんかった。

 俺はそっと立ち上がり徳二の部屋を出ていった。


 それから何刻経ったんやろうか。

 部屋で寝転んでいると廊下から男の声がした。


「二郎殿、よろしいか」

「……どうぞ」


 俺がそう言うと障子の戸が開かれた。

 使用人の男が頭を下げた後俺を真っ直ぐに見詰めてこう言った。


惟任(これとう)光秀殿の御印が見付かったとの事で今こちらに運び込まれました」


 御印とは、首の事やろう。

 明智光秀の首がこの館に運ばれたと言う事や。


「惟任光秀殿の御姿を拝見なされたのは二郎殿以外におられませんのでご確認の程よろしいでしょうか」


 使用人の男がそう言いじっと俺を見詰める。


「……ああ……分かりました……」


 言うて俺は一度しか、いや二度か。

 御所とあの藪で見ただけや。

 しかも御所ではちらりと、そして藪では薄暗い中一瞬確認しただけや。

 そやけど……はっきりと覚えとる。


 明智光秀の顔を。


 俺は立ち上がると廊下に出た。

「こちらへ」と使用人が先を歩く。


 あんまり生首など見たくはないがしょうがない。

 俺はふぅと息をつきながら廊下を歩いていった。


 明智光秀の首の検分をする為に…………

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