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本能寺の足軽  作者: 猫丸
第二章 山崎の戦い
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38話 修羅場

 鬱蒼とした森の中……


 右肩がズキンズキンと痛むが傷の手当てをする暇もない。

 今は走るのを止めてトボトボと歩いとった。


 ここはどこやろ……

 山崎付近の森と言うのは分かるが……道も何もない。

 突然逃げ出して駆け込んだ森ん中やけど俺みたいな足軽一人に対して本気で追い掛けてくる奴は誰もおらん。

 もう追われんやろ……さすがに。


「はぁ…………」


 安堵感に包まれる。

 少し休もうか。


 肩もごっつい痛いし……


 出来れば川辺にいって水飲んで傷の手当てもしたいがここは薄暗い森ん中。

 小川もなんもあらへんかった。


 ただ……とりあえず休もう……

 俺はそばの桑の木に歩みより腰を降ろすと幹に(もた)れ掛かった。

 はぁと一息つく。


「ふっ……」


 生き残ったったぞ……最前線に連れられた俺やけど……

 生き残ったったぞ……


 ざまあみろ羽柴秀吉…………

 ざまあみろ明智光秀…………


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 阿呆臭い世や……何が悲しくて見た事もない(やから)と殺し合わなあかんねん……


 ズキズキと肩が痛む。

 見ると右肩から出た血は鎧も赤く染めていた。

 鎧も……いらんわこんなもん。

 鎧を脱ぎ捨てようと思った時……

 ガサガサガサと音がした。


「おったぞぉ!!あいつや!!」


 男が俺を指差していた。


 ……嘘やろ?


 鎧は着ていないが槍や(なた)を持った男ども四人が俺の元にやってきて武器を構える。


「……はぁ……」


 俺は息をつき立ち上がった。

 三十代四十代ぐらいの男達四人が桑の木を背にした俺に対し武器を構え取り囲みだす。


 ……万事休す……かな。


 槍を捨ててきたからこちらは素手や。

 修羅場とはこの事やろか。

 そやけどとりあえず事情を説明しよう。


「ちょっと待ってくれ、俺は足軽や、亀山の農家の子やねん」


 俺は敵意が無いことを伝える為に両手を少し上げそう伝えた。

 男らは何も言わずに俺を見る。


「あんたら足軽ちゃうんやろ?どっかの村の人やろ?俺ただの農家の子やから、亀山の村の子やねん」


 ……反応はない。


「見逃してくれんか……」


 俺はそう呟いた。


「お前の首を差し出したら銭になるんや、はした金程度やろうけどな」


 男の一人がそう言う。


「な、なんでやねん!足軽やぞ俺は!金なんかなるかい!」

「それがなるんじゃ!お前の兜と甲冑(かっちゅう)があればな!」


 別の男が声をあげる。


 ……はぁ、最悪や……


「兜も鎧もやるから見逃してもらえへんやろか」

「兄ちゃん甘い事抜かしとったらあかんで?わしらも必死……」


 隙が出ている……


 こいつら盗賊臭いな。


 今行くか…………


 俺は一瞬の隙を突くと『甘い事抜かしとったら』とか言っとる男の槍の柄の下部分をパンッと蹴飛ばした。

 槍はクルリと回り男の手から離れる。

 俺はその槍を掴むと男の腹を思いきり蹴飛ばした。

 そして腰を落とし槍を構える。

 伊賀流の槍の奪い方や、多分……


「殺すぞお前ら……」


 そう言い相手を威嚇するが相手は警戒するだけやった。


「お前ええ!!」


 蹴飛ばされた男が立ち上がるなりそう言うが隙だらけ。

 俺は素早く男の腹を槍で刺した。

 そして、ひるんだ瞬間に首を突き刺す。

 瞬時に首から槍を抜き又槍を構える。


「俺の相手するんやったらこうなんぞ……去れ!!」

「お前ぇぇ!!」


 俺が警告するのに男の一人が(なた)で斬りつけてきた。

 槍の柄で円を描くように男の腕を払うと同時に隙の出来た脇腹に槍を刺す。

 それと同時に側にいた隙だらけの男の太股にも槍を突き刺す。

 (かま)を持っていた男は脇腹を押さえ込んでいる。


 ……その隙が命取りな事を知らんのか。


 情けは今は掛けられん。

 殺らんと殺られる。

 足軽の俺はその事を充分に分かっとる。

 俺は無情に鉈の男の喉を突くと、立て続けに太股を刺した隙だらけの男の喉にも素早く槍を刺した。

 そして瞬時に最後の男に向け槍を構え一歩二歩三歩と後ろに引き間合いを取る。


 俺に刺された男二人はバタリバタリと順番に倒れ込み喉を押さえ痙攣をしだしている。

 喉からは血が勢いよく吹き出していた。

 最後の相手の男は槍を構え無精髭を生やした……三十半ばぐらいの男。


「逃げろ……去れ……殺すぞ……」


 俺は殺気を放ち男を睨み付けてそう言った。


「すぐ逃げんのなら殺す……俺も死にたないからや」


 俺がそう言うも男は何も言わん。


「去らんかい!!」


 興奮した俺はそう叫んだが逆に男を興奮させたんかも分からん。


「じゃかましいわガキがぁ!!」


 くそ……なぜ逃げへんねん……


 男は槍で俺を突き刺そうとしてきた。

 俺はパンッと男の槍を俺の槍で払い除け、一瞬の隙を見逃さず男の太股を突き、槍を肉から抜くと瞬時に男の喉を刺した。


「……はぁ……はぁ……」


 男の喉から槍を抜くと男は前のめりに倒れ込み喉を押さえて痙攣を起こしている。

 地面は生臭い血の海である。


 ……くそが……なんでこんな所でまで命奪われかけるんや……


 肩が痛む。全員退治したと同時に肩の傷が痛みだした。


『観音様……すまん、どうか俺が(あや)めた奴らの事頼みます…………』


 鬱蒼(うっそう)とする森の中、死体の転がる森の中で天を見上げ俺はそう願った…………

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