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本能寺の足軽  作者: 猫丸
第二章 山崎の戦い
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35話 山崎の戦い

 円明寺(えんみょうじ)川を挟んで織田信孝勢か羽柴秀吉勢と対峙したまま夜となった。

 敵と向かい合ったまま、川の側の草むらで横になりぼーっと夜空を見上げていた。

 さきほど食料も全員に配られた。朱色の(はかま)を着た年の頃、十三、十四、十五ほどの少女達が俺ら足軽に笹の葉に包まれた握り飯を配ってくれていた。

 嫌な顔もせず一人一人に声を掛けながら。

 無理矢理やらされとるのは分かるから若干不憫に感じたが……


 握り飯を食い終えた俺は眠気に襲われていた。

 円明寺川を挟んだ敵方の方にも松明(たいまつ)がいくつか灯されていて何となくやけど様子は窺えたがシーンと静まり返り、到底突然襲ってくる気配は無かった。


 俺はぼーっと仰向けになり夜空を見詰めていたがやがて眠りについてしまった……




 翌日早朝に目が覚めたが相手方が動く事は無かった。

 周りの足軽兵も戦はまだ始まらんと分かっとるんか川辺に行き顔を洗ったり水筒に水を汲んでる者も多々いた。

 俺も水筒の水をごくごくと飲み干すと円明寺川の川辺に行き冷たい清らかな水で顔を洗い水筒に水を入れた。

 敵方は、というと滑稽な事にあちらも対岸で顔を洗ったり水を汲んだり小便をしている者もいた。

 ほんまにこいつらと戦するんか?ほんまに殺し合いするんやろうか……

 全く実感が湧かんかった……その時は……

 その時だけは……




 昼が過ぎまた朱色の袴を着た十三、十四ほどの若い女の子達が俺らに笹の葉に包まれた握り飯を配ってくれている。


「どうぞぉ」


 可愛らしいあどけない顔をした少女は俺にそう言い握り飯を手渡してきた。


「えらいおおきに」


 俺が礼を言うと真っ白で極細やかな頬をした少女はニコッと微笑んどる。


 可愛らしいのう……


 俺はそう思いながら笹の葉を剥がした。

 中には四つの握り飯が入っていた。

 俺はその一つを手にすると夢中で頬張った。

 ただ米を握られただけで具などはないがうまく感じたのはこの戦場(いくさば)におるからかもしらん。



 昼飯を食い終わるも未だに何もなく時が過ぎゆく。

 上空に黒い雲が広がり辺りが薄暗くなり始めた時、ポツリポツリと雨が降りだしてきた。

 一雨来るな……そない思った時……


 パンッ!パンッ!パンッ!


 鉄砲の音が辺りにこだました。

 音のする方、俺から見てずっと右側の方を見ると足軽兵が川を渡り敵方に攻撃を仕掛けとった。


「貴様ら立てえ!!我が斎藤勢の力見せえい!!」


 侍か足軽大将かが大声で叫んどる。


「敵!!羽柴秀吉が首討ち取れえい!!かかれええ!!いけええ!!」


 うおおおおおおおお!!!


 周りの足軽達が叫び声を上げ、先程鉄砲の音が聞こえた右側の方へとみんなが行進してゆく。

 それに比例し雨が強まり出した……


 ……いよいよか……いよいよ戦が始まりよる……


 こうなったらもう……


「やるしかあらへん!!」


 俺は槍の柄を強く握った。




 少し進むと俺ら斎藤軍とはまた別の仲間の部隊が川を渡り敵方と交戦をしとった。

 もう鉄砲の音は聞こえんかったが、わあああああっと殺し合いの叫び声がずっと聞こえてくる。

 俺ら斎藤利三軍もその交戦の場に到着すると雪崩れ込むようにその場に押し寄せた。


「かかれえええ!!!」


 足軽大将が軍配を持ちそう叫んどる。

 俺らは円明寺川の浅瀬を渡り敵方に向け駆けていった。

 川を渡ると同時に槍を持った男が俺に向け突進してきた。


 人を殺すんか……

 ふとそう言う実感が湧き躊躇(とまど)いを感じる。

 人を……


「おおお!!」


 男は叫び声を上げて俺に向け槍を突き刺してきた。

 が、動きが鈍すぎる……


 すまん……


「ふんっ!!」


 俺は男の槍を払うと男の喉を槍で突いた。

 槍の先は男の喉の奥にまで突き刺さっている。

 すぐに槍を抜くと男は前のめりに倒れ込んだ。

 そして喉を押さえジタバタと暴れている。


「すまん……」


 雨の降る川辺に紅色の血が広がっていく。


「うおおおお!!」


 また別の男が俺に向け槍を構え突進してくる。

 ただ、動きが遅すぎる、隙がありすぎる。


 パンッと男の槍を俺の持つ槍の柄の部分で払うと同時に俺はまた男の喉を瞬時に鋭い槍で突き刺した。

 喉から槍を抜くと先程の男のように喉を押さえ、のたうち回って苦しんでいる。

 そしてまた地に血が広がる。


 すまん……


 また次々と槍を持つ男達が俺を殺そうと駆け寄ってくる。

 周囲も殺し合いをしている。


 これが戦や、これが……


 俺はこの空気がたまらんくらい嫌やったんや。


「コラァァァ!!ガキィィ!!殺すぞおおお!!」


 俺に対峙し槍を構えた男がそう怒鳴っとる。


「…………」


 俺はただ無言で槍を構えた。

 安土で出会った伊賀のお結さんから教わった腰を低く構え相手の足元と上半身の脇辺りを両方見ながら槍を構えるという基本の動作を……

 さっと男の足が動いた瞬間、俺は素早く槍を突き出した。

 俺の突いた槍は男の喉元を貫通していた。


『やばい……』


 力が入り過ぎた。

 俺は咄嗟に男の喉から槍を抜こうとしたがなかなか抜けない。

 周囲は敵だらけや。

 今襲われるとやばい。

 しかも男も即死してへんから槍を掴んどる。


 ()らな()られる……情けなどかけてられん。


 俺は刺した男の腹を思いっきり蹴飛ばした。

 男が後ろに倒れると同時に槍も抜けた。

 それと同時に別の敵兵が俺に襲い掛かってきた。

 俺は槍で相手の槍を弾くとまた腹に蹴りを食らわせた。

 倒れ込んだ兵の太股に槍を突き、隙が出来た瞬間兵の喉に槍を突く。

 突くとすぐに槍を抜きまた身構える。

 敵方は無数におる。

 いつまでこの殺戮(さつりく)を繰り返さなあかんのやろう……

 また俺に突進してくる相手の足軽がおる。

 ただ動きが鈍い。

 全員動きが中途半端やねん。

 突進してくる隙だらけの男の太股に槍を刺した。

 男はその場に前のめりに倒れ込む。


「ふんっ!!」


 俺は槍で男のうなじを突いた。

 男は手足をジタバタさせながら俺の刺した槍を掴もうとする。

 俺はさっと槍を抜くと再び強めに男のうなじに槍を突き刺した。

 そして瞬時にまた槍を構える。


「絶対死なんぞ俺は……絶対死なんぞ……」


 俺に掛かってくる奴は全員殺したる!

 全員殺したる!

 絶対に生きて帰ったる!!

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