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本能寺の足軽  作者: 猫丸
第二章 山崎の戦い
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22話 小休止

 ざっざっざっざっざっ……


 大枝山を越え、京へと向かう街道周囲は(かや)の野原が広がっている。

 三十人程度の部隊の足音が小刻みに耳に響く。


『ついさっき通ったばっかやんけ』


 辺りを見渡すと溜め息が出る。

 昨日久と共に歩んだ道……


 あまりにも時が経ってへんから何とも言えん虚しさに襲われる。

 久……心配しとるやろな……


「ひさ……」


 俺は小さくそう呟いた。

 日は傾き西の空に落ちて行こうとし、雲は赤く染まっている。

 街道は昨日までの雨のせいでまだ水溜まりがたくさん出来ていた。

 俺ら足軽の草鞋(わらじ)はすでに泥まみれになっとる。

 ざっざっざっと行進は続く。

 誰一人と口は開かん。

 無言のままにどんどんと歩んで行く。


 近江まではまだまだやな。

 安土にはいつ着くんやろ……

 京の都が遥か遥か遠くにうっすらと見えた頃、兵を引率しとった大将の男が、

「休憩!休憩!」と俺らに伝えた。


 辺りは徐々に暗くなってゆく。

 三十人程の兵達は道の脇に歩み腰を下ろしている。

 俺も同じように道の脇に腰を下ろした。

 側には小川が流れている。

 少し離れた所には地蔵達が見える。


 あれは……

 久と休憩取った所やんけ。


 俺は無言でその地蔵を見詰めていたが竹の水筒を取りだし中の水を口にした。


「……ん?」


 ぬるい……俺はペッとそれを吐き出した。

 中はいつ入れられたのか分からんぬるい水が入っていた。

 俺は竹の水筒の中身を全て捨てた。

 そして側の小川に水筒を浸し中に水を入れるとそれをゴクゴクと飲み出した。


「……あぁ……」


 保津川ほどちゃうけどうまい。

 喉を潤す。


 俺の行動を真似てか他の連中も竹の水筒の中身を捨て小川の水を汲んでいた。

 俺はそれをちらりと見ながら水を口に運んだ。


 と……


「お前えらいごっつい着物着とるの」


 大将の男が俺の元に来て俺の隣に座り込んだ。


 三十……半ばぐらいやろか。

 俺の親父よりは若く見えるからそれぐらいやろ。

 男がそう声を掛けてきた。

 ちなみにこの少数部隊を率いてるのはこの男とあともう一人の少し若めの男の二人だけやった。


「あぁ……えぇっと……まぁ……」


 俺は返事をする事もなくしどろもどろとした。


「どないしたん?盗んだんか」


 鋭い目で男がそう言う。

 盗んだ……か、確かにそうやな。


「まぁ……そうです」

「どこで?」


 隣に座る男の目は鋭い。

 こいつ……武士か?ただの足軽大将やんな……


「……本能寺で……」


 俺は警戒しながらもそう答えた。


「ほーう?まさか織田の信長様からか?」

「いいや、ちゃいます!信長様の家臣か……なにかの少年から」


「…………」


 男は何も言わず俺を鋭く見る。


 なんかこの男怖いんやけど……


「どなたや?」

「よう分かりません。ぼうまる言う名しか聞いてません」


 俺がそう答えると男は少し表情を緩めた。


「ぼうまる……森可成(よしなり)様の子やろか」


 もりよしなり?


「…………」


 よくも分からず俺は黙ったままでおった。


「……まぁええ、お前ほかの連中と空気ちゃうから声掛けただけや!ゆっくりと休んどってくれ!」


 男がそう言い立ち上がると俺の側から離れていった。


「…………」


 なんやったんや。

 何か問い詰められんのかと思ったが何にもあらへんかった。

 少しだけほっとする。

 辺りは日は暮れ落ちかけていて薄暗くなりだしていた。

 今宵は野宿か。

 今宵どころか、しばらくはずっと野宿か。

 俺は水筒の水をガブガブと飲み干すと再び小川の水を水筒に入れた。


 小川にはメダカがたくさん泳いでいた……

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