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本能寺の足軽  作者: 猫丸
第二章 山崎の戦い
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21話 再びの出兵

 家を出て半刻(一時間)もせん内に兄貴と俺は村外れの野々神の広場に到着した。


 ちらほらと二十人程の若者達もすでに集まっている。

 俺や兄貴の顔見知りが何人もおり、声を掛けそいつらと話をしていたが、時が進むにつれてこの広場に集まる人数がどんどんと増えてゆき、それと共に知らん顔の連中も増えていった。

 隣村か更に遠くの村から呼ばれた奴等やろう。

 やがて広場は二百人を越える程の集まりとなった。


 日が暮れる前、武士の連中四名と庄屋のじいさんら数名がやってきた。

 顔見知りと話してた兄貴と俺やったが武士どもが現れると口を閉ざした。


「今より!具足類配る故に前に取りに来られよ!」


 広場の前方で大きな箱を十ほどが運ばれる。

 広場に集まる者達がその箱へと群がる。

 俺らも前に向かい箱から具足類を手に取った。

 鉄製の陣笠(じんがさ)のような兜に銅板の鎧、籠手(こて)や。

 槍は箱に入らんかったのか箱を運んできた武士の従者らしい兄ちゃん達が直接手渡しで配っていた。


 更に握り飯の入った紙袋、竹の水筒も手渡しで配っている。

 俺らはそれを受け取り、具足を身に着けると元あたりの場所に戻った。


 やがて……ちゅうもーく!!ちゅうもーく!!と前方から大声が上がり、やがて侍からの説明が始まった。


「各々方!!此度(こたび)はよう集まられた!!日向守(ひゅうがのかみ)様による直々なる御意志により各々方を招集した!!」


 武装した足軽兵達は誰一人と私語をせず、じっと侍を見詰めている。

 もちろん側におる兄貴も俺も何も語らず前の侍を見詰めて、その声を聞いていた。


 日向守様によると……日向守様は……

 と、しばらくの間、侍は明智を誉め称える演説を続けていたが、俺があくびをしかけた頃、ようやく具体的な話に言及しだした。


「まず長男衆!!前へと参られい!!」


 長男衆?長男の事か?

 兄貴をちらりと見ると兄貴はじっと俺を見詰めた後、


「死ぬなお前、絶対亀山帰れ」


 俺に一言そう告げ前へと向かって行った。

 今この野々神に集まる二百人を越える兵の内の大部分が広場の前方へと向かわされていた。


 つまり……今この広場にいた殆んどの兵は、農村の長男が集められとった言う事や。


 非常事態と言うんか……なんや切羽詰まった空気を感じる。

 明智勢がそれ程までに焦っとるんやろか。

 兎に角、兵を集めなあかんような状況なんやろう。


 広場の前方に集められた長男連中は侍どもから何らかの説明を受けているが後ろの俺らの元には何にも声が聞こえん。


『兄貴……何言われとるんやろ……』


 俺は槍を持ちぼうっと前方の兵達を見詰めていた……



 しばらくすると前に呼ばれた兄貴を含む歩兵隊は後方の俺らを残し先に京へ向かう大枝山(おおえやま)方面へと行進して行った……



「前へ!!前へ集まれぃ!!」


 侍の横におる男どもが今度は残りの俺らに対して声を張り上げた。

 俺らはぞろぞろと広場の前に立つ侍どもの前へと向かってゆく。

 さっきはおおよそやけど二百人はいた集団やったんが今は三十人ぐらいしかおらん。


 長男すらもあれ程呼ぶ今、次男三男坊なんかはもうとっくの昔に兵として呼ばれとるんや。

 今ここにおる残りの兵は訳有りの連中なんやろう。


 俺の場合は本能寺行った後に解散命令受けて京の都をぶらついて帰ったんやけどそんなもんは稀やったんやろう。

 俺と同じように本能寺を襲った別の隊は解散されずにまだ戦に駆り出されたままなんやろう。

 俺はまだ運が良い部類やったんかもしらん。

 自分で勝手にそう解釈する。


「各々がたぁ……」


 侍のおっさんの声は枯れとった。

 さっきからずっと声張り上げとったからやろ。

 心なしか若干疲れとるやんけ。

「…………」

 俺は黙って聞いていた。


「各々方、先ず日向守様に必要とされとる事を肝に命じぃ!」


 侍がまた建て前を叫んどる。


 ……侍はしばらく明智光秀の為に尽くせと、しつこく話をした後ようやく本題に入った。


「各々方へは近江へ赴いてもらう!日向守様がおっしゃられるには一番厳しい場になる言う場所や!!」


 ……要するに一番の激戦区言う場所か……


 そやから次男坊をはじめとする俺らはそこに連れていく言う事か。

 農村では長男以外の子の命は軽く見られよるからな。

 俺ら命の軽いもんは一番厳しい戦があるやろうと推測される場所に連れてかれるんや。


安土(あづち)や!!上様が敵、織田信長が住んどった安土の城へ向かう!!上様の御命令や!!!」


 ……安土?

 ……どこやそれ……


 近江の安土……聞いた事あるような気もするがよう分からん。


左馬助(さまのすけ)様の御力として合流してもらう!!」

 侍は俺らにそう叫んどる。


 ……兄貴達はどこ連れてかれたんやろ……




 しばらくすると俺ら三十人程の少数部隊は京へ向かう大枝山方面へと向かわされていた。

 京へ向かうその道は昨日の雨のせいでかなりぬかるんでいた。

 昨日、久と雨宿りをした大きな桑の木が遠くに見える。

 ……久、大丈夫や俺には御守りあるし。

 それに兄貴に散々鍛えてもらっとるからな。

 死なへん程の槍の手捌(てほど)きをな。

 俺は固い木の槍の柄を握り締めた。


 ……近江、安土か……


 どんな戦が待ち受けとるんかも分からんが、やるしかない……

 厳しい戦が待っとる言う近江国へ向けて俺は昨日久と歩いた道を歩み京方面へと向かっていった……

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― 新着の感想 ―
[良い点] マイナー武将マイナー武将って焼き畑農業のように武将が消費されてるなろうですが、これだけ下の視点からのは始めてな気がします。
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