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本能寺の足軽  作者: 猫丸
第六章 濃尾
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117話 玄蔵の錯乱

「承知致しました!」


 俺はそう告げると頭を下げた。秀吉様は更に話を続ける。


「ほんでな、三法師様美濃の岐阜城まで御守りしてくりゃあて、な?その後によ、無事岐阜まで三法師様を御届けした後によぉ」

「……はい」

「坂本来てちょ?わしらの方からも兵出すけどよ、雑魚どもウジャウジャおるかもしれんでな、おみゃあの力も頼みてえんだわ」

「はっ!」

「ひょっとしたらおみゃあ来る前に雑魚ども殲滅(せんめつ)しとるかも知れんけど念のためにだわ」

「承知致しました!」

「わし、もう清須出るでな?おみゃあ美濃行って坂本来た後に京のわしの元にまで来やぁあ。無事にわしの言う事聞いてくれたらよ、又おみゃあに褒美やるでよ」

「あ、ありがとうございます!」


 俺はそう言い畳に額を付けた。


「そう言う事だわ、もう下がってええがや」

「はっ!失礼致します」


 俺は秀吉様に頭を下げた後にこの重苦しい部屋を後にした…………







「二郎!」


 部屋に戻るとお香が声をあげ俺の腕にしがみついてきた。


「ふふ、大丈夫やって……」


 俺は秀吉様にお会いした緊張がまだ抜けず、若干声を上ずらせながらそう言った。


「大丈夫だった!?」


 お香が強く俺の腕を掴む。本気で心配してくれてるようや。


「だ、大丈夫やで、ふぅぅぅ……」


 俺は先程の緊張を和らげる為に大きく息を吐きながら座布団に腰をおろした。お香はまだ俺の腕を掴みじっと俺を見詰めている。


「何言われた」


 左隣の玄蔵が俺の横顔を見詰めてそう言う。

 ふぅ……と息を吐いた後に俺は、


「美濃に行けって言われた」


 俺は真正面を見詰めたままにそう言った。


「美濃?」


 玄蔵がそう呟く。


「美濃に……三法師様の護衛に行け言われた。ほんで美濃行った後に坂本へと、その後京に、と」

「……京か」

「秀吉様が京に戻るんやと、ほんで明智の残党の話あったやろ?坂本に集まっとる言う話」


 玄蔵はじっと俺を見詰める。


「秀吉様はその事知らんかったらしいわ、そやけど俺は一旦美濃の岐阜城言う所行けっておおせられて、その後に坂本行けって言われた」

「……そうか、ふぅぅぅ……」


 玄蔵が深く息を吐く。


「ほんでなお香、お前の名も挙げられとったわ。三法師様と御仲宜しいようやから俺と一緒に美濃まで行けってな」

「……ふふ、そう?」

「大丈夫?」

「おら二郎とどこまでも一緒に行くつもりだったし丁度良いよ」


 お香は不安さえ見せずに笑っとる。

 ずいぶんと余裕あるんやなぁ……

 そない思った時やった。


「秀吉様いつ出るんや、まだおられるんか?」


 玄蔵が真剣な眼差しで俺にそう尋ねてきた。


「え?いや、いつ出られるかまでは知らんけどまだおられると思う……」

「二郎、俺を秀吉様がおる部屋に連れていけ」

「え?」

「すぐに連れてってくれ、頼む」


 そう言い玄蔵が俺に向けて頭を下げた。


「……え?そんなん急過ぎるやろ……何すんの?」

「お前らは美濃行くやろ、俺は……」


 俺は玄蔵をじっと見詰めた。玄蔵は真剣な眼差しで俺を見詰めながら、


「坂本に行く……行って……残党ども……全て葬る…………」


 え?俺は彼の目を見詰めてそう思った。

 何ゆえに?何の為に?


「な、何でやの?」


 俺は玄蔵にそう尋ねた。


「俺の…………私怨じゃ……ふふふふ」


 私怨?


「どないしたんや?そんなんせんでも秀吉様が討伐するとは言うとるで?」

「…………」


 玄蔵は何も言わず真っ直ぐ前を見詰めとる。

 俺は彼の横顔を見詰めた。若干の殺気を放っとる。


「信長や…………」


 彼は真っ直ぐ前を見たままにそう呟いた。


「のぶなが……」


 俺はそう呟き玄蔵の横顔を見詰めた。お香も黙ったままに玄蔵の横顔を見詰めとる。


「アホらしいかもしれんがな……織田信長を討った明智光秀すらも憎いんや」

「…………」

「俺がこの手で殺したかったもんを…………」


 そう言う玄蔵から強い殺気が発せられる。


「そ、それはあの……」

「明智光秀はお前が討ったらしいのう二郎!お前が羨ましいわ!俺の腹の虫は依然収まらん!俺は信長を殺してやりたかったんや!その信長を横取りした光秀も許せんのや!!」

「ちょっと……」


 玄蔵が興奮をしだしとる。

 こんなに理性を乱して感情的になる人か?


「お前には分からんやろう!!妻と子を殺された恨みをなぁ!!!」


 物凄い殺気を宿した眼差しで大声をあげて立ち上がり、玄蔵がじっと俺を見詰め錯乱しとる。

 俺はギョッとし何も言えなかった。お香は体をのけ反らして怯えている程やった。


「秀吉ん所案内せえ二郎!!明智の者共全て葬ってくれるわぁ!!」

「ちょっ……」


 余りの気迫と殺意で俺の体が震えてくる。

 何と言えばええのか……

 気の強いお香すら黙ったままである。


「と、とりあえず落ち着きましょ?」


 俺は立ち上がり興奮する玄蔵の肩に手を置いてそう言った。

 玄蔵はふぅふぅと息を荒げとる。


「ま、まぁ座りましょ?」

「……ふぅ……ふぅ……」


 玄蔵がそっと座布団に座った。少しは落ち着いたようやが、


「まぁとりあえず落ち着きましょうよ玄蔵さん」

「ふぅぅ……二郎、とりあえず秀吉様の御部屋に連れて行ってもらえんやろか」


 ええ……嘘やろ……


「ええ……ほんまに?」

「ほんまや」


 玄蔵がじっと俺を見詰める。

 嘘やろ?嫌や、もうあの部屋行きたくない……秀吉様ん所行きたくない……


 俺はチラリと右隣のお香を見た。

 お香の表情は依然と強張ったままやった。

 玄蔵はまだ少し息を荒らげながら俺を見詰めていた。


「連れて行ってくれや二郎」


 玄蔵はじっと俺を見詰めそう言った。

 俺は無言のままに玄蔵を見詰めていた…………

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