♥ 依頼場所 2 - 4 / 廃神社 3 / 退魔師という仕事 6
衛美
「 …………それを言われちゃうと……ねぇ?
──ところで、肝心の古井戸は何処にあるの?? 」
厳蒔弓弦
「 そうだな。
古井戸を見に来たのだったな 」
玄武
「 古井戸は裏手にある。
淀みだけでなく、腐敗臭も酷いから気を付けろ 」
衛美
「 は?
腐敗臭って…何で?? 」
玄武
「 呪具の効果だな。
結界を張っても臭い迄は防げない。
マスクを持参するべきだったな 」
衛美
「 玄武ぅ〜〜〜!! 」
玄武
「 怒るな衛美。
呪具の回収は式神にさせる。
離れた場所で弓弦と見ていればいい 」
衛美
「 本当に?
離れてていいの?
変なのに襲われたりしないでしょうね?
私は見えないんだからね! 」
玄武
「 安心していい。
衛美と弓弦には結界を張っておく。
結界の中から出なければ安全だ。
此方からは攻撃が出来る。
弓弦に任せればいい 」
衛美
「 玄武…… 」
玄武
「 そんな顔をするな。
煽っても式神は靡かないぞ 」
衛美
「 はぁ?!
煽ってないし!!
──もうっ、さっさと古井戸に行きなさいよぉ!! 」
玄武
「 弓弦、衛美を頼む 」
厳蒔弓弦
「 任せてくれ 」
──*──*──*── 裏手
神社の裏手に着くと、確かに古井戸がある。
随分と歴史を感じる年期の入った古井戸。
古井戸には蓋がされていて、塞がっているみたい。
弓弦さんと私を残して、玄武は1人で古井戸に向かって歩いていく。
かなり離れているけど、確かに臭う…。
鼻が曲がりそうなぐらい酷い臭いじゃないのは、古井戸から離れているからだと思うんだけど…。
明かりのない真っ暗な廃神社なのに井戸がちゃんと見えるのは、玄武のお蔭だったりする。
衛美
「 ……本当に古井戸の中に呪具があるのかしら……。
呪具を回収したら “ 呪われた家 ” の居る悪霊が弱くなると思いますか? 」
厳蒔弓弦
「 あの家と古井戸との関係性は分からないが、玄武が言うならそうなのだろう 」
衛美
「 …………どんな呪具なのかしら… 」
弓弦さんの隣で玄武の様子を見ているけど、生憎と後ろ姿しか見えない。
玄武は何をしてるのかしらね??
衛美
「 ……夜の廃神社って不気味ですよね?
昼間でも不気味だと思いますけど…。
何も出て来ませんよね…… 」
厳蒔弓弦
「 それは分からないな。
仮に出て来たとしても結界から出なければ安全なのだから、ジッとしていればいい 」
衛美
「 …………ですよね… 」
私は余計な事を考えるのを止めた。
玄武は古井戸の口を閉じている蓋を取ったみたい。
古井戸の様子は玄武の姿で隠れていて見えないけど、もしかしたら敢えて見えないように立ってくれているのかも知れない。
玄武の優しさなのかしら??
古井戸から何かが出て来てるみたい??
何処からか「 ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛── 」なんていう喉が潰れたような気味の悪い声が聞こえて来る。
何の声なのかしら??
衛美
「 ──弓弦さん、この気味悪い声って何なんでしょう… 」
厳蒔弓弦
「 声?
私は何も聞こえないが? 」
衛美
「 えっ?
でもでも、今、何処からか『 ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛── 』って声みたいなのが聞こえてるんですけど…… 」
厳蒔弓弦
「 そう…なのか?
…………………………。
済まない衛美……、どうやら私には何も聞こえないようだ… 」
態々耳を澄ませてくれた弓弦さんは、首を左右に振りながら声が聞こえない事を教えてくれた。
弓弦さんに聞こえない声……。
どうして私には聞こえるのかしら…??
厳蒔弓弦
「 ──見えない衛美にしか聞こえない声か…。
何か意味があるのかも知れないな。
後で玄武に相談してみるといい。
玄武なら理由を知っているかも知れないからな 」
衛美
「 …………はい。
そうしてみます… 」
何時まで聞こえるのか分からない不気味な声は両耳を塞いでみても聞こえて来る!
まるで頭の中に直接響いているみたいな感じ??
頭の中で声が聞こえなんで最悪な気分!!
此処って玄武が張ってくれた結界の中よね?
何とかしてほしい!!
今、直ぐにでも 結界から出て玄武に思いっ切り抱き付きたいぐらい!!
助けてほしいっ!!
頭の中に響く不気味な声に耐えられなくなった私は、立っていられなくなって、近くの木に背中を付けて凭れた。
早く呪具の回収を終わらせてぇ!!
玄武
「 ──予想外に戸惑った。
衛美,弓弦──大事はないか? 」
厳蒔弓弦
「 玄武、私は何ともないが、衛美が参っている状態だ 」
玄武
「 衛美がか?
──どうした衛美 」
衛美
「 ……玄武………… 」
私に声を掛けてくれた玄武に抱き付いた私は、声を上げて泣いた。
泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて──、大泣きした。
弓弦さんが近くに居るのにお構いなく、まるで駄々をこねる子供みたい泣きじゃくった。
もっと心配そうな声で名前を呼んでくれてもいいのに、玄武は通常運行な声で私の名前を呼んで「 どうした? 」って聞いて来る。
そんなの私にだって分からない!!
玄武が優しく背中を擦ってくれるから少しだけど落ち着いて来たかも知れない。
漸く泣き止む事が出来た私は小声で「 玄武… 」と呟いた。
厳蒔弓弦
「 玄武、衛美は大丈夫なのか? 」
玄武
「 さぁな…。
ワタシにも分からない。
泣き疲れたのか眠ってしまったな。
──弓弦、衛美は何か言っていたか? 」
厳蒔弓弦
「 あぁ……『 声が聞こえる 』と言っていたな。
私には何も聞こえなかったが、衛美には声が声が聞こえていたらしい 」
玄武
「 ──声か…。
それがどんな声だったか衛美から聞いてないか? 」
厳蒔弓弦
「 言っていたな。
確か──── 」




