♥ 登校中 3 / in玄武
玄武
『 衛美……何故、触らせなかった? 』
衛美
「( 嫌よ!
また酷い目に遭わせる気だったんでしょ!
境戸君をどうしようとしてたの? )」
玄武
『 どうも… 』
衛美
「( 玄武!! )」
玄武
『 ………………言わないと駄目か? 』
衛美
「( 大体の想像は付くけど、教えなさいよ )」
玄武
『 言いたくない 』
衛美
「( 玄武!!
私にも知る権利はある筈よ )」
玄武
『 …怒るだろう? 』
衛美
「( 怒るわよ。
内容によるけど…… )」
玄武
『 ………………嫌いにならないか? 』
衛美
「( 私が玄武を??
……なれないと思うけど? )」
玄武
『 ……臓器を体内で破裂させようかと… 』
衛美
「( はぁあ? )」
玄武
『 衛美は、騒ぎになると困るのだろう?
ならば騒ぎにならぬようにと思っての配慮だ。
体内で臓器を破裂させれば、壁も天井も窓ガラスなども壊れたり、汚れたりしないだろう?
エコな方法だ。
ああ…でも、口から少量の血が出るだろうから廊下は汚れてしまうな…… 』
衛美
「( ……体内で内臓を破裂させる──って…。
霊能力で其処まで出来るっていうの?! )」
玄武
『 式神は万能ではないが、大抵の事は出来る。
ワタシは特別だからな、人間の臓器を破裂させるなどは朝飯前だ 』
衛美
「( ……なんて…事なの… )」
玄武
『 霊能番組で見るだろう?
手を翳した霊能者が空気中に遊在する霊波を他人の身体へ注ぐ場面を。
気功とか言ったか? 』
衛美
「( ああ…そう言えば見るわね。
気分の悪い人や痛みを訴える人に手を翳したり、手で擦ったり、触ったりして、元気にさせる人。
名前は覚えてないけど…。
確か…その人は気功じゃなくて “ 手翳し療法 ” って言ってたわ。
あれって、自分の霊能力を使うんじゃないの?
陰陽師は紙人形に霊能力を注いで式神を馬車馬のようにコキ使ってたのよね? )」
玄武
『 ……コキ使っていたわけではないが、身の回りの世話や雑務をさせていた事は事実だな。
人件費も掛からず、食費も掛からず、術者には従順だからな。
──確かに自分の霊能力を他人の身体へ当てたり、注いだりしている者もいるが、あれば当人の勘違いだ 』
衛美
「( 勘違い??
どういう事? )」
玄武
『 抑、自分の霊能力を他人の身体に当てたり,入れたする事は出来ない。
霊能力の使い過ぎで、身体が重くなったり、えらくなったりするのは事実だがな。
実際にはだ、この空気中に遊在している霊気,霊波等と呼ばれている神佛のお力である神力を動かす為に、自分の霊能力を使っているに過ぎない。
目に見えない不思議な力を目に見えない霊能力を使い動かすのだから、疲れて当然だな 』
衛美
「( 霊能力を力んで溜めてから使う人もいるわよね?
あれも同じなの? )」
玄武
『 同じだ。
普段の霊能力は垂れ流し状態だ。
その垂れ流されている霊能力を1ヵ所に集めて使うのは極て賢い方法だ。
誉めてもいい 』
衛美
「( ふーん…そう、なんだ。
…………垂れ流しになってるって事は、私の霊能力もなの? )」
玄武
『 衛美の霊能力は、ワタシに流れているぞ。
衛美の霊能力の貯蔵庫になっている──と言えば解るか? 』
衛美
「( 貯蔵庫…ねぇ )」
玄武
『 貯蔵している衛美の霊能力を使う時は霊能力に変換して使っている。
霊能力ではないから、他人の身体の中を弄る事も容易く出来る──というわけだ 』
衛美
「( そ、そうなの……。
嬉しそうな顔して話さないでほしいんだけど… )」
玄武
『 血液を沸騰させる事も出来る。
血管を縮めたり広げたり、脳をゲル状に溶かす事も、臓器を腐らせる事も出来るぞ。
再生不可能に骨を粉砕させる事も出来る。
何でも出来るぞ。
──吹っ飛ばすのもいいが、次からは体内で済まるか? 』
衛美
「( だ・か・ら、嬉しそうに言わないで!
お願いだから )」
玄武
『 衛美に迷惑は掛からない 』
衛美
「( そーゆう問題じゃなくて……。
兎に角、そういう物騒な事も “ 禁止 ” だからっ!! )」
玄武
『 え〜〜〜…。
ワタシは衛美の為に… 』
衛美
「( 正当化する為に私を使うのは止めて! )」
玄武
『 してない… 』
衛美
「( 認めなさいよ!
私が何も知らないとでも思ってるの??
小学生じゃないんだから、誤魔化されないわよ )」
玄武
『 誤魔化してない… 』
衛美
「( 肩が触れただけとか、手が触れただけとか…そういう些細な事で、私の霊能力を使うのは止めて! )」
玄武
『 無理だ。
それは出来ない 』
衛美
「( どうしてよ……。
ちょっとよ?
ほんの少し!
ガッツリ触ったわけでもないのよ?
どうして駄目なの?? )」
玄武
『 契約…だからな 』
衛美
「( どういう事?
何なの契約って… )」
玄武
『 ワタシを実体化させたがった娘がいてな…、その願いを叶える為に交わしたものだ 』
衛美
「( 玄武の実体化を望んだ子がいたの? )」
玄武
『 ああ…。
契約を交わしたからな……、娘が望む度にワタシは実体化しなければならなくなった──というわけだ 』
衛美
「( それで──、今に至ってるって事? )」
玄武
『 そうなる 』
衛美
「( ……玄武は実体化したくないの? )」
玄武
『 そうだった──というべきだな。
当時は慣れなかった事もあり、不便だったからな。
現在はそうでもない。
慣れてしまえば大した問題ではないからな 』
衛美
「( 問題はあるのね… )」
玄武
『 少なからずな。
何事にも問題は付いて回る。
実体化する為には、貯蓄してある大量の霊能力を使わなければならない。
変換した霊能力を使うが、それだけでは足りない。
実体化すると、維持させなければならない。
その為に更に大量の霊能力が必要となる。
尽きない霊能力があればいいが、尽きない霊能力ない。
何処かで霊能力を調達しようにも不可能に近い。
──其処でだ、娘とワタシは契約を交わした。
契約の恩恵を受ける事によって、実体化する為に必要な霊能力が、極少量で事足りるようになった。
実体化を維持させるにもだ。
貯蓄している霊能力が、ゴッソリ消化されなくなり、ワタシは嬉しい限りだ 』
衛美
「( …………そんなに実体化するのって大変だったの? )」
玄武
『 ワタシは並の式神ではないからな。
余計に霊能力の消費が激しい。
それに娘は──自分に見えているワタシの姿を他の人間にも見せたいとも言っていたしな…』
衛美
「( ???
──えと、それじゃあ…今、私に見えている玄武の姿は、その子の目に見えていた姿…なの? )」
」
玄武
『 そうなる。
ワタシ自身も実体化をして、鏡なるものを見るまでは、容姿の把握はしていなかった 』
衛美
「( そう…よね。
実体化すると鏡にも映るものね。
初めて自分の容姿を見た時は、どんな感じだったの?
どう思ったの? )」
玄武
『 「 ああ、これが… 」と思ったぐらいだ 』
衛美
「( は?
それだけ?? )」
玄武
『 そう──…いや、そうでもないか。
「 銀髪だな 」とも思ったな 』
衛美
「( ……そ、そう?
随分と冷静な反応だったのね… )」
玄武
『 日本人は黒髪で黒眼なのに対し、ワタシは銀髪で紫眼だった。
当時の人間の背と比べてもワタシの背は高かった。
人前に出る時は日本人らしく黒髪,黒眼に変えていたし、背丈も必要に応じて変えていた 』
衛美
「( でも、どうして日本人離れした容姿を想像したのかしら?? )」
玄武
『 月と鼈だ 』
衛美
「( …は?
何?? )」
玄武
『 ああ…月と亀の間違いだ 』
衛美
「( ますます分からないんだけど…… )」
玄武
『 ワタシは四神の 一神である玄武だ。
──実際は神ではないから四神と呼ぶのも、一神と数えるのも間違いなのだが……今は横に置いとくとしてだ──、人間が思い描いた玄武の姿は亀と蛇が合わさった姿だろう?
「 色的にも容姿的にも月を象徴しているように見えた 」と言っていた 』
衛美
「( ……それで銀髪に紫眼ってわけなのね。
ちょっと、その子と会ってみたかったかも!! )」
玄武
『 千年以上も時が過ぎているからな。
とっくに何処かの誰かに生まれ変わっていると思うぞ 』
衛美
「( 記憶を持って生まれ変わっていたりしないかしら? )」
玄武
『 どうかな。
それは神佛が必要に応じてなされる事だ。
ワタシには検討も付かない 』
衛美
「( そっか……残念かも。
──現代に生まれ変わっていて、玄武を見る事が出来るくらい霊能力が強かったら──、今の玄武を見てどう思うだろうね。
玄武に守護られている私に何を思うのかな…… )」
玄武
『 衛美……考えるな。
会えない方がいい。
会えない方が幸せだぞ 』
衛美
「( …………そう、なの? )」
玄武
『 そういうものだ。
過去は過去でしかない。
後戻りも変える事も出来ない。
嘆かれてもワタシには何も出来ない…。
出来る事ならば、出会わないでほしいとワタシは願う 』
衛美
「( 玄武……。
──じゃあ、この話は此処でお仕舞いね!
話がかなり脱線しちゃったから戻すけど──って、何の話をしてたんだっけ?? )」
玄武
『 思い出さなくてもいいぞ 』
衛美
「( はあ?!
ちゃんと思いだすわよ!!
昼休み迄には思い出すから、覚悟しときなさいよ!! )」
玄武
『 …………………………はあ… 』
衛美
「( 何で溜め息吐くのよ?? )」