仕切り直し
「アポカリプトモードか。悪魔の卑しい猿知恵など」
猿知恵とは酷いことを言ってくれる。
俺は腕を組み、余裕な出で立ちでアポカリプトモードとなったスフレを見た。
と言っても、羽が大層になり、やや露出が増えたくらいなのだが。
スフレはスフレで余裕を演出し、にやりと笑みを浮かべている。
能力的にも微々たる上昇を見せているが、ほんとに大差ない。時間ばっかり食う。なんだこいつ。
「猿知恵かどうかはこれを見て決めてほしいもんだな。スフレ!」
「あいっす」
この大空に翼を広げて、何が起きるか。
誰も分かっちゃいない。誰も信じることはできない。誰も願えない。
大空はいつだって力強く無力だ。
俺たちも変わらない。堂々と、俺とスフレは大空に逃げた――
あんなものに勝てる気がしないし、福音だか祝福だかのせいで瞬間移動が使えない。
アポカリプトモードで一時的強化状態のスフレなら話は別だったという話だ。
スフレの翼の中で手を揃えながら考える。実に参った。
フィーネやアゼル、リエンだけならどうにでもなった。それがこれだ。
天使――
わけのわからない存在の登場が、俺の計画を見事へし折ってくれやがった。
神も居るし天使も居るし。宗教って怖いね。
一神教で、神で、キリスト教。勘弁してくれ。
そうこうしているうちに、目的地である地獄に到着した。地獄が目的地って、俺も大分染まったな。
全てはここから始まった、ってね。
「さて、座れ座れ馬鹿どもが」
椅子にぞろぞろと座る俺とスフレとそして呼んでおいたレーザム。
いつまでも寝ているネラは……まあ一応聞いてもらっておこう。
古民家近く再生した我が家には美味しいお茶がいっぱいある。上に行く度に色々と手を回すから。
「はあ……どうしよ」
開口一番、俺の言葉は情けなさ満点だった。
「地獄の王よ、天使が現れたというのなら、我々はいよいよ外に出るわけには参りませんね」
「そうっすよ。でも、ツバキっちが世界の修正に乗り出しているせいでそういう気づかいも無駄っぽいっすねぇ」
「どういたしますか? あの天使がやろうとしているのは間違いなく浄化。悪魔を抹殺する事です」
「それだけならまだ良い。抹殺した挙句に復活した魔王を倒せないだろ、あいつら」
「まあそうっすねぇ。魔王ですし。地獄の王の百万倍強いっす」
じゃあ間違いなくあの天使が魔王を倒すことは無理だな。祝福に守られているとは言え、アポカリプトモードのスフレで何とか逃げ切れたわけだし。
そもそもだが、天使ってなんだ。
「あ、お決まりの傾向と対策タイムっすね。天使は悪魔を殺せる程度の上位種で欠点は無いっすよ」
「詳しいな。お前ら天使の存在を俺に今まで隠していたってか?」
仲間すら簡単に裏切るのが悪魔だ。己の利益のために。
もうそれをとやかく言うつもりはない。
俺は地獄の王。悪魔を理解し、支配する。
一々部下のやることに目くじらを立てていては中間管理職すら務まらん。
ここは穏やかで冷静に話し合わなければいけない。そのつもりはないが。
「天使とは神の戦士ってのは理解した。逆に、だから俺たちが被る害は?」
「魔王の復活。しっかしご主人は悪魔助ける道理なんてないんすよ。この世界の人間でもないし」
「寝覚めが悪いし俺だって悪魔はどうなったっていい。今さら元の世界に帰る気もない」
「ぶしつけながら、地獄の王よ。あなたのモチベーションはどこに?」
「決まってるだろ。生きたいんだ。お前らだってそうだろ?」
「悪魔は死なない。楽しむだけ」
「私とてまだ死にたくはありませんし、あなたと違って同胞に情が厚い」
随分な物言いだが、目的は一致している。
俺たちの目的はシンプルだ。生き残りたい。
その後? そんなもの、聞きはしないし言いはしない。
一度死んでここで蘇ってわけのわからない地獄に叩きつけたやつを殺したい。
「それじゃあ対策といこう。第一に、天使を殺すにはこれしかないんだろう?」
テーブルに聖冥の剣を叩きつけた。
悪魔の武器では殺せない。じゃあ、これしかない。
「第二に、倒せるかどうか」
「天使は強い。勇者もあと四人は居るっす。どうするんすか?」
「敵が多すぎます。一つを狙えばその背中を一つが狙うような状態ですよ?」
「良いこと言うな。その通り。これに乗じて騒ごうとするならそれもまたよし。今殺さねばならないのは、天使とガリュネイだ。それ以外を殺す必要もない」
「それじゃあ、甘い甘い地獄の王に従うとして、まずは誰を?」
「ああそうだ。まずは甘い甘い言葉を聞き入れてくれそうな人にしよう」
パチン――