いさかい
「天使……スフレ」
「っすよ。あいつは天使っす。それも、ヨハネスん時に見た顔っすね。名前は確か――」
「ラファエルだ。ゴミクズどもが」
アゼル、もとい、ラファエルが俺たちに手を向ける。
まばゆい光と頭が痛くなる音が響き、気がつけば吹き飛ばされていた。
マジかこいつ――
背中を木に強か打ち付けながらも、俺は立ち上がった。
「俺は……地獄の王だぞ……! こんな、こんなことでやられるってのか? ああ?」
「ご主人、基本的に自分より強い相手にはいつも大体ぼろ負けっす」
「るせえ」
「地獄の王、か。誰が決めた? ゴミクズども。貴様ら纏めて殺してやろう。消毒しなくては」
相当な力を持っているのは間違いないし、こいつは悪魔を殺せる。
今まずいのは、ツバキ、レーザム、ネラをこいつに殺されること。いいや違う。
こいつ、主語に何度か我々と言っていた。複数人いるのか。なんだこのくそ悪魔ども。
ああいや、天使か。
「天使が居るとは思いもよらなかった。だが、神様の存在なんて、信じられんな」
「居られる。神は今も我々の行動を見て下さっている。だからこそ、薄汚いゴミである貴様らを排除するのが私たちの仕事だ。私たちは神の戦士なのだから」
「ああそうかい。だがな、そのゴミを創り出したのもまた神だぞ。どうだ? この矛盾」
「考えない。神は常に正しい。間違えは全くない。つまり、私は正しく生まれた貴様らを正しく始末するのが仕事だ。だが……面倒だ。貴様らの道具もあると聞く――」
その時、止めておけばいいのに、暗部兵士がラファエルの腹に短刀で一撃加えた。
白い服に赤い染みが広がっていく。
「汚らわしい、人間風情が」
ラファエルは短剣を抜くと、暗部兵士の頭を掴み、また焼ききる。聖なる炎というか、光で。
何のことはないが……こいつ、こいつも、普通の武器では死なないのか。
やれやれまずいことになった。聖冥の剣も知っているのなら、どうする?
どのみちこのみち、剣なしでも殺せるあいつの方が何枚か上手だ。
「人間も殺すのか。人の保護者だろ。神の祝福は、ご加護は」
「知った、ことか。神の愛を金で買おうとする連中だっているんだ。汚らわしい。人は全く不完全なものだ。なのに、神の御寵愛を受けている。祈れば許され、神の御胸に抱かれる。我々が守る必要もない。良き人間ならば神のみもとに行くだろう」
「それで、勇者という器に乗り移って世直しを始めるのか? 手始めに、悪魔の武器が氾濫する帝国を国ごと焼き払うか」
「それも良い。しかし、勘違いもあるな。勇者は私たちの器になるために生まれたんだ。天使の武器を使え、福音に守られる特別な人間。その対価として、我々の器になってもらう」
「なるほど。勇者でも厄介だってのに、天使かよ。しかもお前ら、弱点もないんだろう?」
「神は自分に似せ、人間を作る前に完璧な天使を作った。貴様が持っている聖冥の剣、あれは天使の物だ」
「なら、お前も殺せるのか。それは良いこと聞いた。だが、残念なことに今は」
俺は黙示録を取り出し、ページを捲って掲げる。
時を同じくして、スフレが漆黒の翼を広げた。
「……貴様」
ラファエルはスフレに何か言いたげだったが、知ったことじゃない。
「アポカリプト」
今はもう、逃げるしかないのだから。