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天使

「止めとけ。その、祝福を受けた……福音だっけ? どっちでもいい。その武器で俺は殺せるが、可能ってだけで出来るわけじゃないんだ。矛盾しているだろう?」

「やってみるさ。私は、帝国騎士、勇者だ!」


 相も変わらず若い戦い方でアゼルが襲い掛かる。乱暴だが、今の俺に素早さはない。

 圧倒的力を、剛を柔で制すのは不可能だ。切っ先に目をやり、避ける。避け続けるしかない。

 が、また念力が俺の体を引っ張り、動きを遮る。

 それだけならまだ良いが、アゼルの猛攻のせいか念力のせいか、剣の先がおぼろげになって見えない。

 避ける事そのものが、かなり難しい。

 それに――


「つ……中々痛いじゃないか。その剣は」

「神の御加護だ」

「私のは、神でも悪魔でもない。私の力そのものだが」


 胸糞悪い汚らわしい言葉をアゼルが吐いた後、リエンが炎の剣と共に参戦した。

 こっちもこっちで炎を纏わせているせいで剣の本体がどこにあるかわからない。

 成程。お勉強してきた様だな。

 だが――


「つ――」

「ぐ――」


 アゼル、リエンが飛ばされ、近場の木に背をぶつける。

 俺はシャツの首周りを指で伸ばして、首を何度か曲げる。


「おい、俺は地獄の王だぞ。正々堂々戦って勝てる相手じゃないが、二対一でこれかい。あとな」


 振り返り、迫っていた暗部兵士の後頭部を掌で押さえ、腹に剣を差し込んだ。

 深々と刺さり、兵士は絶命する。ご苦労さん。


「俺を殺すために背後とるんなら、もうちっと分かりにくいやつでやれ」


 俺を、あまりに甘く見過ぎだ。

 作戦が上手くいかず、顔をしかめる二人を見てがっかりする。この程度で、あらゆるリスク、メリットと相殺して俺を敵に回したのか。お粗末だな。


「なあ、どれ程命を無駄にする。地獄は悪しき命の掃きだめだが、ここには、新鮮で、尊い命が幾つもある。お前らの都合でどうこうしていいもんじゃないだろ」

「悪魔の言葉なぞ、聞きはしない!」


 アゼルが突貫してきた。

 今度は短剣で受け、腹に拳を打ち込んでやる。

 が、その隙を狙われて横腹を蹴られた。すかさず脇で挟み、かなぐり捨てる。

 アゼル、地面に手を付け、素早く体勢を立て直すと、低い体勢から逆袈裟。

 顔面を狙う剣を短剣で弾き、散った火花の奥に、さっきを迸らせるリエンを見た。

 手を払ってアゼルを吹き飛ばし、リエンのも掌を向け、叩き落す。

 力は全力だが、この程度しか使えないか……勇者とは、何者なんだ。


「ちっ……攻撃が通らないか。だが――」


 リエンが地面に剣を刺し、火の渦を巻き起こす。

 何をやるつもりか知らないが――

 真夜中に場違いな炎の槍みたいなものが飛んできて、俺のすぐそばを掠めていく。熱い……。

 あの女……新技を考えついたか。


「はあ……どうするつもりだ? このままやって、勝ち目あるか? 体力の限界があるだろう。その点俺は寝なくとも平気だ」

「しかし数の差はある。貴様は死なんのだろうが、無敵でもなければ不死でもない。私が、貴様たち悪魔に、鉄槌を下す」


 俺は指を鳴らした。

 すると、まだ俺の配下かつ、死んだところでどうでも良い悪魔が十数人現れた。死んだって構いやしない。こいつらは尋常ではない人殺しだ。俺の言うことも聞きやしないし。


「話の分からんやつ選手権の頂点に立てて満足か? お前ら全員殺してやる」

「いい加減に、してください。アゼル卿も、リエンも、彼は――」

「味方だとは言わせませんよ、姫様。こいつはただの悪魔。それも地獄の王」

「まことに。私が、悪魔を根絶やしにします。姫様はお下がりください」


 話にならない。まとまりもない。こいつらに期待した俺が馬鹿だったようだ。


「帰る。興が醒めた。閃光、必ずお前は俺が殺そう」

「貴様……! な……」


 踵を返そうとしたその時……アゼルの体から、白い光が溢れ出た。

 衝撃と光量に目がくらむ。あまりに突然すぎて、俺は本能のままに畏怖した。

 その神々しいほどに光々しい光を前に、恐怖を覚えてしまった。

 数歩下がり、近くに控えていたスフレに目をやる。なんと、真面目腐った顔をしていた。

 そうとう……まずいのか。


「スフレ!」

「もう遅いっす。やつは、そこにいる」

「やれやれ……薄汚い悪魔が二匹、か」


 すっかり様変わりし、白いローブに白いパンツ、白い靴を履いたアゼルが、俺の前に立っていた。

 この、一瞬で服装を変える技は俺だけのものと思っていたが……どうやら違うらしい。

 より閃光のアゼルらしくなった。だが、力はより絶大だ。

 試しに、悪魔どもをけしかけた。


「汚らわしい」


 アゼルは、一瞬で悪魔の背後に移動して、掌を頭に押し付けた。


「消えろ」


 激しい光と共に、悪魔の体が一瞬で焼け焦げた。

 更に、移動を続け、今度は悪魔二人の頭に手を置き、同じように焼ききる。

 いとも簡単に。全くの、躊躇も容赦もなく、一瞬にして。


「お前は誰だ」

「アゼルだ。正確には、アゼルの器を借りている者に過ぎないが」


 アゼルは俺を見やると、何かに気づいたように首を傾げた。


「貴様は……そうか、地獄を仕切っているのか。黙示録と、聖冥の剣を持っているな」

「だったらなんだ」

「ヨハネスの後釜に座ったようだな。まあ良いさ。これで契約は不履行だ。我々は、悪魔を掃討するとしよう」

「おい、あのクソ親父と何の契約を交わした」

「魔王を殺す。だが失敗したんだろう? ならば、貴様たちに生きている価値はない。嫌だが、我々が地獄に行くとしよう」


 アゼルは随分と淡々としていたが、口ぶりから察するに、もうアゼルではない。

 なら、もう一度問う。


「お前はなんだ」

「天使だ」

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