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当事者会議

「姫様、こんなところにいらっしゃいましたか」


 先の戦を終え、フィーネは陣幕の中層に居た。敵の攻撃は退けたが、残党がどのような動きに打って出るかわからない今、残存戦力を前線に置き続ける必要があった。

 間もなく夜が濃くなるが、気を抜く訳にはいかない。幸いにも、リエンの部隊がここを見張っているから少しは安全だが。


「アゼル卿。見事な働きでした。同盟軍の様子は、いかがですか?」

「密偵の情報によると、惨敗した同盟軍はまた別の国と同盟を組み、更に勢力を伸ばす動きがある、と」

「となると……まさか、本当の同盟国という国になるつもりですかね」

「ええ。他の諸国全てが同盟になれば、帝国と規模が同等に。遠征に向かっている勇者たちは、本格的に交戦しなければいけない。戦争が大きくなります」

「……アゼル卿、部隊を引き、この先の村の住民を避難させましょう」

「? いかがなさるおつもりですか」

「敵にここを渡します。その交渉を進めて下さい」

「しかし姫様、ここは亡き皇帝陛下の領地ですぞ。お父様の遺産をお守りしたいのでは?」

「皇帝陛下が残してくださった遺産は国民です。その国民が我々に牙を剥き、生活費を裁いてでも殺し屋を雇った。この国に見限りをつけたのです」


 そう、フィーネにとって、守るべきは国民だった。そのために、危険を冒し続けている。

 アゼルにとってもそれは同じなようで、フィーネは安心していた。アゼルは頼ることが出来る人間だ。

 それは間違いない。皇族に忠誠を誓う真の騎士なのだから。


「皇族に反旗を翻した国民を守ると?」

「そうではないのです。反旗を翻させた我々に問題があるのです。元凶は、大臣。しかし私は無力であると信じ、何もできなかった。なにもせず、帝国の腐敗を見逃した」

「……姫様、惧れながら、貴族や皇族とは、そういうものです。腐敗というシステムが日常になり、誰も違和感を覚えない。しかし、姫様は違う。あなたなら、この国を変えられると、私は信じております」

「そうか、んじゃあ変えようじゃないか。だが、お前ら二人だけじゃない。俺も入れてくれ」


  †


「まあ、座って話そうじゃないか。スフレ、椅子」

「はいっす」


 俺はスフレに椅子を持ってこさせ、夜のとばりがおりた空の下、ふたりの前に座った。


「どうした? 遠慮するな」


 三つが向かい合わせになるように、スフレは椅子を並べていく。よく働く従者で俺は嬉しい。

 二人は全く何が起きたのか理解できず、呆けた様子でお俺を見ていた。いい加減、非日常に慣れろ。

 そして次の瞬間、アゼルが牙を剥いた。


「貴様よくもぬけぬけと……! 悪魔が!」

「おいおいまた喧嘩するか? あの時のことなら気にしてないから取り敢えず落ち着けって」

「どの口がしゃあしゃあと!」

「アゼル卿、少し待ってください。彼の話を、聞きましょう」


 フィーネはゆっくりと、椅子に座った。


「あなたは、何をするおつもりですか? 人をたくさん殺して」

「その話は聞き飽きた。過去は過去だ。これから未来の話をしようじゃないか」

「……では、これからさらに人を殺すと?」

「お前ともあろう人間が随分と早計だな。まあ聞け。この先、あの良く分からん同盟が負け続けると――」

「その話は済みました。対応も、いたしました」

「お前らのことだ、ここ渡して妥協案を提出っていうんだろ? まあそれでいい。となれば、だ。次は内政だろう? 一緒にガリュネイを殺そう。お前らは心が荒んで止み切った国民を助けるためには、ドラマが必要だと思ってるんだろう? 暗殺ではなく、国民が、見ている前で、無残に、殺したい。だろ?」


 成程図星か。可愛い顔をしてえげつないことを考える。

 あの閃光のアゼルも、潔癖な割には悪に対して容赦がない。かなり自己満足的な行動と自己正当化、自己欺瞞が目立つ。傲慢の塊みたいなやつだな。


「だから、どうするというのです?」

「手伝ってやろう。かなりセンセーショナルな死にざまを用意してやる」

「見返りは?」

「要らん。大臣が死ねばそれで良い。強いて言えば、これ以上俺に関わるな」

「なるほど、貴様、地獄の王と言ったな。そんなお前が恐れるものがなんであるか、私はずっと考えていた。だが、今見つけた」

「なんだ閃光様、いってみろ」

「お前は大臣を恐れていたんじゃない。大臣がやろうとしていた、悪魔の補充。いや、違う。地獄の扉を開くことを恐れていた。だが、聞く話によるとお前は扉を開いている。つまり……地獄に、お前を倒す鍵があるわけか」


 こいつ……見た目だけで成り上がった様じゃないようだな。面倒くさいやつだ。

 それじゃあ、後々殺そう。


「まあそゆこと。俺も立場そのものは危ない。じゃあ、取りあえず契約といこうか」

「勘違いは、困ります」


 アゼルが剣を抜き、さっきから近くに身を潜めていたリエンが炎を迸らせる。

 ああ、なるほど。


「交渉は決裂か? なら帰るよ」

「申し訳ありませんが、そうはいきません。あなたに勝手なことをしてもらうと困るのです。悪魔封じの中に、入ってもらいますよ」

「ああそうかい。お優しい姫様そうなんだろうが、そこの、本日の英雄セットは殺す気満々だ」

「悪魔は許さんと言った」

「貴様は、いずれ障害となる」

「……あーらら、俺って嫌われてるな。まあ……アポカリプスモードで逃げても良いが、逃げるのは性分じゃない」

「どの口が言ってるんすか、もー。帰りましょーよー」

「ああ。こいつらを、殺したらな」

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