さんすくみ
「さて、どうするかな……」
「呼んどいてそりゃないっすわ。どーするんすか? うちら今、劣勢なんっすよね」
「決めるのは早計だ。しかし、まあいろいろあって、こちらが不利だ」
「じゃないっすか。もー、だからさっさと殺せって言ったのに聞かないんすから」
そう、スフレの言う通り、さっさとやはり殺しておけばよかった。
いや、殺そうとはしたんだけど、どいつもこいつも運よく生き延びやがって……。
最終的に俺の邪魔ばかりしやがる。
フィーネも、その対象に入っているよ。ばっちりと。
「ていうかまずー、やりたいことはっきりしましょーよ」
「……まあ、お前やツバキ、レーザムと楽しくやってけりゃそれで良いよ」
「あれー。どうしたんすか、まーたお悩みっすか?」
「……そうだな。お前、最初に俺を拷問したから知ってるだろ。俺はここの人間じゃない」
「知っとりますよー。そんなことのたまってましたねぇ。まあ、悲鳴の方が心地よかったんで話半分でしたが」
「ああ。だが、俺は帰る目的を忘れかけている。なぜかはわからないが……俺は……今が楽しければいいと思っている」
「……ああ、まあ、いいんじゃないっすかね。スフレは今、前の王が帰ってきても、ご主人につくっすよ。スフレはご主人が好きっすから。あ、もちろんお望みなら筆おろ――」
思いっきり頭をぶん殴ってやった。ご褒美だ。
さて……ここに唯一ついてきてくれる従者と、気が向いたらついてくれる同志と、腹黒い参謀が揃った。まあ、諸般の事情によりこのアホ従者しか使えないわけだが。
「さて……まずどうなってんだろうな、今の勢力図」
「えーっとですね、レーザムからもらった資料がここにたくさん」
「まとめろ。ナウ」
「え、あ、はいっす…………ええと、帝国の大臣が地獄の門を開けようとしていて、大臣がその時間稼ぎの間に勇者を連れてきたは良いけど勇者はフィーネ姫となんかあるらしくって、姫も姫で勇者が戻ってきたところを狙って内政を手掛けようとしたところ、運良く悪く、王国と中央が同盟を組んで宣戦を布告。今の流れですと、あの勇者が取り敢えず余った戦力を一応掻き集めて打って出るそうっすよ。となると大臣の城に兵はほとんどないっすけど、ここへきてあー、悪魔が幾人か守ってますっすけど、ちょっと戦力補給が必要っすね」
「なるほどな。大臣は戦力補強のために地獄の門を開ける、と。勇者は悪魔を根絶やしにするつもりかな」
「どうするんすか? どこつついても蛇っすよ。じゃじゃじゃじゃーんっすよ」
「俺とお前しかいないしな。大臣を殺そうとするのが一番早いが、そうなるとあの馬鹿勇者がしゃしゃり出る。最初から勇者を殺そうとすればフィーネが出る。フィーネを殺そうとしたら勇者が出る。なんだこれ」
八方ふさがりだな。
取り敢えず考える時間が欲しかったから、地べたに座り込んだ。
さてさて……あの三つ巴というか、三すくみを潰すにはどうするか。というか、まあ敵が良い感じに決まってくれたわけだし……そうだな。
「んじゃいくぞ、スフレ」
「スフレがお連れしましょうっすか?」
「いや、良い。向こういっても男食うなよ」
「スフレ、童貞とショタ好きっすからね」
パチン――
†
「……リエン」
「ここに」
戦争は既に始まっている。敵軍勢はこちらを遥かに凌ぐ数であり、既に国境沿いに陣を敷き、いつでも交戦可能な位置にある。
まったくもってセオリー通りの攻撃の受け方だ。一応フィーネも内部に命令を出し、国民の非難準備はさせているが、有益とも思えない。
大臣が動いていない以上、恐らく城が最も安全な場所と言える。
「アゼルは今何処に?」
「全兵士に招集をかけていますが、こちら側は集中勢力を地方に分けておりますので、帝都均衡勢力はおおよそ三〇〇。私も招集をかけられました」
「地方軍閥に密偵を出してください。自衛を第一に、と。大臣の息がかかっている諸侯たちは無視します」
「それで、どうしますか。私は、どうすれば良いのですか」
「当座はアゼルが守ってくださるでしょう。しかし……私もいつまでも守ってもらうつもりはありませんわ」
フィーネはその手に杖を持った。スフレ曰く、破壊の全てを集約したような、破壊の象徴。
最早副作用もなにがあるか全くわからない代物だが、どうだって良い。
前、と言っても最近、地獄の王が言っていた。自分が命をなげうつのは勝手だが、その命を命懸けで守ろうとしている人も居る、と。
しかし、それはそちら側の言い分だ。
フィーネだって、自分が命を懸けて守りたいものがある。そしてそれは今、蔑まれ、蔑ろにされている。
許されることではない。この状況は。
「戦いましょう、リエン」
「……かしこまりました、姫様」