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勇者の帰還

「ガリュネイ大臣。なぜ、私に皇帝が身罷ったことを伝えなかった。私は、いいや、我々勇者は皇帝直属の騎士にして、領地統帥権を持っている総督とほぼ同等の権力を持っているのだぞ」

「いえ、先程アゼル卿が戦われていたあの悪魔が邪魔をし、密偵をことごとく殺して回っていたため、連絡が届かなかったようです」


 ガリュネイは平気で嘘を並べた。

 よもや、この勇者を呼び戻す羽目になるとは思わなかった。

 最高にして最悪の騎士。

 閃光のアゼル。

 かつてアカデミアを首席で、それもスキップで卒業し、初陣の遠征では後方支援であったにもかかわらず前線に出向き、無双の活躍を見せたという。

 卒業後の初任務が重要な遠征であるだけで快挙なのに、それ以上の働きを見せた。

 ガリュネイにとってはアカデミアに居る時代から、このアゼルは気に入らなかった。それが戻ってきてしまった。あの悪魔どものせいで。

 しかし、収穫もあった。悪魔の武器は非適合者を殺すが、天使の武器はただの武器になるだけで人を殺さない。上手く悪魔の武器とかけ合わせれば、死んだアイリンヒの代わりもなんとか埋められる。

 まあ、情報を殺し屋集団にリークして殺させたのはガリュネイ本人であったわけで、ガリュネイとしても殺し屋集団を一掃できれば一石二鳥であったが、それは欲だ。

 ガリュネイは自分を無欲であると自負している。無欲であるからこそ、成功をおさめ、生きていられるのだと。

 女を一度に抱くのは五人まで、腹はいつも八分目。ここまで我慢を重ねているからこそ、自分は成功を収めるはず。

 しかし、結果はこれだ。まったくおへそで茶を沸かしてしまう。


「ふん。まあ良い。帝国の一大事と聞き、遠征を彼女に変わってもらった」

「彼女……ですか。なるほど。しかし今や皇帝代行は私に――」

「いいえ、大臣。皇帝代行はまだ私。執政権も、私にありますよ」

「……フィーネ姫殿下」

「殿下、お久しぶりでございます」


 アゼルは膝をつき、フィーネの前にかしこまる。

 跪くアゼルを前に、フィーネは早々に顔を上げるように告げた。その凛とした顔。腹の虫がおさまらないとばかりにガリュネイは口を堅く結んだ。


「お久しぶりですね、アゼル。帰還を待ち侘びていましたよ」

「光栄の至りです、姫殿下」

「さて、大臣。ここで勇者も揃ったことですし、有耶無耶になっていた帝国の執政権及び、次期皇帝についてのお話を致しましょうか」


 このメギツネが、何度も何度も私の邪魔を、と、ガリュネイはふくよかな笑顔の裏で拳を固めていた。

 思った以上にフィーネが死なないことが奇妙ですらあった。最初は暗殺。二度目は王子。全く死なない。それどころか、関わった方が死んでいる。

 王子の件にしても、最後は化け物になり、暗殺者のひとりを殺して死亡。

 最悪の結果だ。


「お待ちを。アゼル卿は遠征より帰ったばかり、ここは夕食を挟んで――」

「必要ない、大臣。私は大丈夫だ。さて、姫殿下。今、皇帝代行はあなたが?」

「そのはずです」

「姫殿下は王子との婚姻が進んでいたため、政治から一度退いていただいておりました。しかし……王子が亡くなったとあっては、王国との外交もより一層密にしていかねばならず、長男であられる姫様の弟気味こそが代行としてふさわしいかと」

「それは、あなたが摂政として政治を担うことが前提の話ですよね」

「その通りにございます。姫君は後に皇位を継承成されるにしても、今はまだお勉強をすべき時、ここは政治の中核を担ってきた私が扱う方がよろしいかと」

「しかし、アゼルも見たでしょう。この国の有様を。本気で変えるのならば、ここで――」

「申し上げます!」


 突然大きな扉を開け、兵士のひとりが叫びをあげる。


「王国、中央が同盟を組み、帝国へ宣戦を布告しました!」


 ほう……と、ガリュネイは唸りを心の中で上げる。

 王国は兎も角、中央も宣戦布告するとは思いもしなかったが、好都合だ。

 血気盛んな勇者はこれで、政治の中から消えてなくなる。フィーネも皇女として黙ってはいまい。

 つまりこれは……ガリュネイにとっては大きなチャンスだった。


「……ガリュネイ、私が来たからには、この帝国の膿は排除する」

「ぜひそうなさってください。暗殺者集団の存在も明らかになっておりますゆえ。そして姫……あまりお外に遊びに行かれては困ります。何をしているのか存じ上げませんが、今一度姫としてのご自覚をお持ちください」

「ガリュネイ……」

「姫、あなたは私と行動を共にしていただきます。戦地へ赴くことはございませんが、宣戦布告し、戦争となれば、今は皇族の人間が必要なのです。あなたをこのような、道具のように扱ってしまい、このアゼル――」

「いいえ、かまいません。行きましょう」

「では、私は外交使節を派遣します」


 ほう、これは、これは。

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