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答える義理はない

「地獄七魔将――

 地獄が始まった時、各地域を治めていた最初の地獄諸侯。

各々地獄の王に匹敵するほどの力を持っているものの、王と血の契約を交わしていることから絶対服従を誓う。

しかし彼らはそれぞれ欲が強く、王の政権交代時に何度も反抗を起こしている悪魔の中の悪魔。力が異常に強いせいで王はその度に四苦八苦。

今も虎視眈々と王の命を狙い続ける地獄最凶の悪魔たち……っす!」

「説明ありがとうよ。ったく、じゃあ俺には無理だ」

「私の質問に答えろ、お前は誰だ」

「安心しろ、答える気はさらさらねえ」


 聖冥の剣を袖から出し、片手で構えた。

 体重移動を意識しながら、少しでもリーチが伸びるように体の向きを横にする。

 なんでこんなこと覚えたかって? バイトだ。いろんな道場、ジムのインストラクター。


「それは……まさか貴様……地獄の王を殺したのか!」


 彼女が消える。

最後に見えた怒りの瞳が残像を残し、俺の前から完全に姿を消す。

目視不可能、そして――


「つ、う……へえ、やるじゃぁ、ないの」


 肩口をなにかに斬り裂かれ、血が噴き出す。

 開いた左手で圧迫止血を試みながら、俺は努めて笑みを浮かべる。

 この勝負――相手に格下だと決めつけられたら殺される。


「次は外さない。命を貰うぞ」


 背後に居たはずなのに、カチッという音とともに、今度は目の前少し距離が離れた位置に居た。まるで手品師だ、全く見えない。

 それに今度は外さない? 絶対的優位を俺に見せつけたいのか知らないが、誤りだ。

 向こうも俺の実力をまだ把握していないから決めあぐねている。今が好機。


「まあ待ちなって」


 覚えたての治癒力を、さも普段から使っていますよとばかりに軽く使って傷を癒す。

 読み合い――圧倒的に少ない情報から、互いの情報を引き出す消耗戦。


「あんた、名前なんて言うんだ?」

「答える義理はない」

「ああそうだ、ないね。だが俺は、地獄の――」

「私は認めない」

「話は最後まで聞けっての!」


 今度は左足を斬られた。

 ある程度、彼女の視線をよく見て予測していたが、やはり早い!

 おそらく刃物を構えるであろう瞬間を狙って腕を出したのに掴んだのは地獄の淀んだ空気だ。

 消えている――瞬間移動の類か? いや、もしかすると……


「な――」

「無駄だ、お前は遅い」


 超加速で不意をつき、時を飛ばし、それでも彼女を捉えられない。

 それどころか……背中を真一文字に切り裂かれた。

 熱い。斬られた箇所が焼かれたように熱いが、すぐには治癒せず、受け身を取って山に背後を向ける。

 これで後ろからの奇襲はない。

この俺が……背中を斬られた上にこんな小手先を使うとは――!

落ち着け、と顔の半分を手で覆う。

 戦いにすら持ち込めないなんて、なんだこいつは……。


「地獄七魔将っす。地獄最凶の悪魔の一人」

「わかってるなら助けろ」

「無理っすよ。だってほら」

「ああ?……お前……わざとだろう!」


 完全に組み伏せられ、頬をヒールで踏まれて喜ぶスフレが横向きに俺を見ていた。

 なに一瞬で制圧されているんだあの変態悪魔、全く役に立たない。


「一人では勝てぬとみて、このような下級悪魔に助けを求めたか」


 凛とした声で痛いところをつかれた。拙いな、彼女の中で俺はもう……戦うに値しない。

 焦りが募るがここで大いなる野蛮な一歩を踏み出せば確実に返り討ち。

 かといってこのままここで突っ立っていれば不可視の一撃が来る。

 ……そうだ!


「契約によって汝らを使役する、ガーゴイラ、タウラス!」


 翼を持った山羊、そして三つ目の熊を召喚する。

 これが、黙示録の力、契約執行――

 契約を結んだ者を好きな時に召喚し、使役する。これなら少しは――


「無駄だ、と言った」


 カチン――

 軽快な音が鳴り、彼女が腕を横に振り、コートをはためかせた瞬間……ガーゴイラ、タウラスは見るも無残に散り散りになった。

 二頭の魔物だった残滓は光となり、再び黙示録へ戻った。死んでも時間がたてば回復するが……こうも呆気なく倒されるか……想定通り。


「へへ、さすが地獄最凶の悪魔。俺が苦労した二頭を瞬殺か」

「あのような程度の低い魔物で私を倒せるとでも? 片腹痛い。やはり貴様は、地獄の王などではない!」


 また消えた。透明人間も真っ青な見事な消失。

 俺は辺りに気配と視線を放り投げる。どこの網にかかっても探知する。

 そのはずだったのに、次の瞬間には腹を切り裂かれていた。


「治癒はさせない」


 腕を切り落とされるが、聖冥の剣を脅威に思ったのか、左腕は無事。

 すぐさま超加速で時を飛ばし、加速中に治癒を図る。

 人間土壇場になると随分無理が出来るらしいな。加速終了後、いきなり右側から背後を斬られた。カチン、都子気味の良い音が鳴った次の瞬間、今度は左背後だ。

 縦横無尽に飛び回り、消えながら俺を切り裂いていく。まさにかまいたちだ。

 血を吐いて地面に手をついた。視線が自然と、俺たちが争って抉られた地面に向く……


「地獄の王を名乗るにはまだ早かったな。貴様では私に及ばん」

「そりゃあ、俺が苦労した魔物を一撃だもんな。あんた強いよ」

「貴様が弱いだけだ」

「それで地獄の王だ」

「私は貴様を認めないと言った」

「それでも王だ」

「王位の簒奪など、私は認めん!」


 消える――だが!


「だったらどうするよ!」

「貴様を殺す! その魂ごと!」


 聖冥の剣を下に振るう。

 がちり、と、金属同士がけたたましい音を立ててぶつかり合った。刃物を通して音と衝撃が震えを伴って腕を通る。

 ようやく捉えたぞ、最凶の悪魔!


「……貴様」

「やっぱりな、あんたの能力、俺の目が見極めた」


 下瞼を指で下げ、ベロを出す。最高の馬鹿にしたポーズだとは思わないか。

 彼女は未だに信じられない物を見るような瞳で俺を睨みつける。今まで自分が信じてきた絶対の能力が効かない、いや、見破られたかもしれない。

 微かな焦りはその証拠に彼女から次の行動を奪っていた。とりあえず様子を見るしかない、そんなふうに理性が働きかけている。

 さあ、反撃開始といこうか。

 なんてったって俺は、地獄の王だ。


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