天使の武器
「さって。疲弊しきって悪魔の手を借りなきゃどうにもならん帝国に来たぞ」
「あーらら、もう城の前に姿を現しても兵のひとりも出てこない。籠城策っすかねー」
「その必要は、ない」
俺、スフレ、そして数人の悪魔の前に、一人の男が姿を現した。
刹那的に。
颯爽と。
そしてなぜか爽やかに。
金髪。青い瞳に、銀と金を基調にした制服。嘗めた野郎だってのは大体わかるよ。何だこの爽やか野郎は……
「お前こそ必要ない。やれ」
悪魔が喜び勇んで男を殺そうとする。
あいつら、死なないのをいいことにその暴力を以て殺しを楽しむんだから、ほんと悪魔は性質が悪い。
そう思っていた。今までは。
「私に寄ろうとするな、薄汚い悪魔が」
地鳴りを思わせる音が爆ぜたと思えば……悪魔が男に弾かれた。
まるで、見えない力によって妨げられたかのように。
馬鹿な……なにかのまじないか?
俺は聖冥の剣を出した。
「……ご主人、私にアポカリスモードを」
「は? なんだよそれ」
「速く黙示録の力で私を解放するっす てか、早くしないと逃げきれないっす!」
「なんだってんだ、アポカリプト!」
チェーンでジーンズに繋がれた黙示録を取り出し、スフレの力を解放する。
ていうかこいつの力解放したところで大して役に立たないんじゃないのか?
悪魔の翼をより大きくし、ツインテではなくポニテに。心なしかバストアップし、更には服の露出も増えた。うん、エロいな。ガーターベルトだし。
「で、次はどうする」
「全力で逃げるっす」
「なんでだ!」
「遺言は、それだけか、悪魔ども。まさか、本当に居たとは思いもしなかった」
「るせえな、誰だ手前は」
「私の名は――」
「聞いてない。やれ!」
不意打ち奇襲に殴り込み。これぞ悪魔の美学。
さっきの攻撃で弾かれた悪魔どもが物陰から一斉にかかる――
だが――
「私の前を阻むな!」
腰に結わえた剣を抜き、悪魔三人の喉を一気に、真一文字に書き切った。
瞬間……聖冥の剣と同じように、稲妻を迸らせ……死んだ。
ばさりと倒れ堕ちたそれは、確かにただの死体だった。
有り得ない……悪魔が死んだ?
「スフレ!」
「あれ、あれは祝福っす! 悪魔を殺せる神の力」
「じゃあ何か? あれは神か? ざけんなちーだろうが」
「だからそれの、祝福を受けた人間、勇者っす!」
「はあ!」
勇者が襲い掛かって来る。
西洋刀と聖冥の剣のせめぎあい。わかんねえ。これが、悪魔を殺せる武器だというのか?
「おぞましい悪魔、その存在そのものが罪なんだ、消えろ!」
また、さっきの衝撃波が来る――
弾かれるが、瞬間移動で即座に背後に回……れない!?
近くまで行ったが、コントロール……違うな、能力が途中で掻き消えた。
「そこか!」
上段――
切っ先が俺の頬を掠め、地面を指したところで切り上げ。
これが勇者……そんでもって、帝国の持つ最強兵士か……!
随分と乱暴な戦い方をする。
「ち!」
掌を返して吹き飛ばそうとするが、なんか子供がままの袖を引っ張ってねだる程度の力しか出ない。
どうなっていやがる……!
「祝福の力がご主人の能力を弱めてるんすよ。ですから早く逃げるっす!」
「逃げられるかよ。どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがって!」
懐に飛び込み、そのまま腰にまとわりついて倒す。
マウントポジションを取ったところで、顔面を――
「げっほ……!」
背中を蹴られ、俺が背中を地面に叩きつける羽目に。
ちっ……指を弾いて殺せない相手が居て、瞬間移動も効かない……こりゃピンチだな。
「私の力を受け止めろ!」
「するかよ!」
とびかかりざまの攻撃を剣で弾き、押し返す。
膂力だと、普通の人間相手じゃ俺には勝てん。
「おいあの武器、もしかして……!」
「聖なる武器っすかね……おえ、聞いただけで吐き気が」
「その様な名前で呼ばれるのは迷惑だな。私の剣、天使の剣を」
「おいおい、天使って居んのか? この世界」
「神も天使も居ないっすよ、いたらこんな痛ましいこと起きてないっすもん」
「でもあれ……」
「いやいや、そんな天使の武器とか見たことも聞いたことも無いっす。あんたそれ、ほんとに天使の武器って名前なんすか?」
「……これは白銀の剣、勇者でなくては使えない剣。確かにお前たちの言う通り、天使は居ないかもしれん。だが、悪魔が居るのなら、私はそれを屠る、神の名において」
「汚らわしい言葉を吐くな、ゴミが」
剣で腰を捉える。
確実に斬り裂いた筈だったが……避けられた。
こいつ……普通に出来る……!
それよりも、マジでやばい。悪魔を殺せるなら……レーザムもツバキも、この勇者に近づけさせない。
ていうか……あの野郎……!
「一度退くぞ。ここで悪魔封じでもされたら面倒だ」
「だからそう言ってるっす! 逃げるっすよ」
漆黒の翼に包まれる。