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王子の錯乱

「持ってるが、なにに……」

「アルベルトー、ベルの方はもう、やっちゃうからねー!」


 刹那の爆発。何が起きたのか良く分からないが、暗殺者たちがん外まとまりがないことは分かった。

 その後アルベルトは、気品高そうな女性にナイフを奪われ、どちらを助けに向かうか悩んだ様子を見せた挙句、ベルと呼ばれた元気な少女の方へ向かった。


「おやおや、三人仲良く殺し合いの構図ですね」

「お前は何もしていないだろうが」

「雑魚は黙れと言っただろうが!」


 触手が飛び交う。

 レーザムには見えるが、ミリカには捉えきれていないのだろう。

 この少女、強くはあるのだろうが、超上戦闘においてまだまだ子供だな、とレーザムは再び陰に逃れる。


「隠れたつもりか、ゴミ悪魔が」


 しかし、なにもかも見えているらしいアイリンヒの触手に迫られる。

 これといった武器を持たないレーザムは手で弾き、職種に腕をついてくるりと反転。


「ちょこまかと」

「それがチャームポイントにございます」

「貴様も、それで隙をついたつもりか!」


 せっかくレーザムが隙を上手く使えず、ミリカは触手に捕らわれる。

 苦悶の表情を浮かべながらも抵抗を試みる。刀を逆さに持ち、両手で触手に突き立てた。

 機械の割に痛覚でもあるのか、触手はひるんでミリカを話す。

 随分と長引きそうな予感を、レーザムは覚えていた。


「私も本気を出すとしましょう」


 職種に近寄り、腕で掴み、そのまま足蹴にする。

 今までにない轟音が響き、触手の一本がいとも簡単にへしまがった。


「な……」

「なんだと……!」

「私、悪魔ですので」


 レーザムを脅威と認識したアイリンヒは触手を呼び戻し、それぞれに剣を持たせる。

 今度は当初の予定通りレーザムを刻んでしまおうという魂胆が見え隠れする。


「お前……、さっさと本気を出しておけ」

「おや、汚らわしい生き物である私に助けをお求めですか? レディ」

「お前……次あったら刻んでやる」

「私もあなたのことが好きですよ」


 同時多数方向から来る攻撃を、二つはミリカが弾き、二つをレーザムが粉砕する。


「鋼の剣など。こっちは青銅が見つかるよりも前から存在しているのですよ?」

「そうか。そうだよな、そうだよな! お前に見せなければいけまい、私の本気を! 王国の王であることの意地を!」

「余計なことをして……」

「私の情報が確かならば、あなたはすでに王位継承権を剥奪されているはず。戦争を起こした張本人とされていますからね。よって、あなたは王を名乗れない。あと、戦争を起こした張本人は私の主です」

「止めろ、それ以上――」

「こまで――」


 その時、アイリンヒは、震える体を必死で抑えるように、頭を手で掴む。

 怒りの奔流が見て取れる。

 多くの聖人君子を激怒させてきたレーザムにとって、造作もないことだった。


「どこまで私を、虚仮にする!」


 ローブを脱ぎ去り、右手に何かを噛ませた。

 篭手のようだが、化け物の口をそのまま腕に巻きつけたような形状だった。


「悪魔の武器をふたつも……死ぬおつもりか」

「死んだって構いやしない、私は、私の国を、この手に掴む!」


 腕を掲げた瞬間、紫色のおーざが腕を呑み込み、その形状を……鋏へと変えていく。

 まるで甲殻類が持つそれに変容した腕を持ち、ぎらついた瞳のアイリンヒがよだれを垂らした口でニヤリと笑んだ。

 次の瞬間、爆発的な瞬発力で地面を蹴り、レーザムにタックル。

 悪魔の強化×2を喰らい、なすすべなく吹き飛んだ。


「つ……人間風情が、この私に?」


 口の端から滴り落ちた自らの血を手の甲で拭い、その拳で地面を殴る。

 先程ベルが鳴らした物とは比べ物にならない轟音が響き渡る。

 そして、レーザムは眼鏡を取り、握り潰した。


「……おい、見えるのか」

「伊達だ、黙ってろ薄汚いメス豚が! 人が下手に出てりゃ調子に乗りやがって!」


 怒りを露わにし、自らの本性をむき出しにしたレーザムは、化け物となったアイリンヒへ突貫をかける。

 こぶしと鋏の打ち合いに、ただの人間でしかないミリカは入ってこれない。

 両者が打ち合う度に、衝撃波が部屋を部屋で無くする。

 これが、恐らく人類史上初の、悪魔と人類の激しい頃試合になるだろう。

 大量虐殺はすでに地獄の王がやってのけているから。


「ははははっ! 悪魔の武器の力、これが、私の力!」

「図に乗るな、なにもかも思い通りにしようとして、結局お前は何も手に入れられない! そのまま消えてなくなれ!」

「それがどうしたという! これからだ、これから、私は私となる!」


 さらに、アイリンヒは短剣を取り出した。

 もう一つ、悪魔の武器。

 小さなナイフだが、刃が大きく沿っている。銀色と黒色の輝きは時代の変遷を描いて居るようだった。


「これは持っているだけで力を有するものだが、今の私なら――」


 アイリンヒは自らの体に、ナイフを突き刺した。

 瞬間、アイリンヒの心音が徐々に、少しずつ、確実に、大きなものになっていく。

 獣の咆哮、アイリンヒの叫びがこだました。

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