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烏合の暗殺者たち

「おやおや、ぽっと出の殺し屋集団に、クズ王子にそして悪魔。これはものすごいことですよみなさん」

「黙ってほしいな、悪魔。君を殺せはしないが、粉みじんにして動きを止めることは出来るんだ」

「やってみてくださいな。悪魔の武器を持った程度の人間に、この私が倒せると?」


 レーザムの一睨みで、場が一瞬にして硬直した。

 最近は人間がつけあがって困るものだ、とレーザムは溜息を吐く。

 ここに集まった中で顔を合わせた事があるのは、どこか憂鬱というか鬱っぽいアイリンヒのみだ。だからこそ、レーザム、いいや、悪魔の恐ろしさを知らない人間にとって、レーザムはただのどこでもいる紳士。

 怖くもなんともないのだろう。


「勝手に人の家に押し掛けたかと思えば、どうでもいいことで喚きたてるな、ごみどもが」


 ゆらり、とアイリンヒは立ち上がる。フードの奥から覗く瞳は酷く血走っていて、人というよりはすでに獣の域だった。

 レーザムにとって、多くの聖人君子が人でなくなるところなど見飽きたと言えるレベルだった。

 まあ、アイリンヒは元より人ではなくその道から外れた外道であったが。


「どこから来た。いや、どうやって来た。ええ? どこのリークだ」

「確かな情報筋さ」

「もう止めろ、アルベルト。こいつを斬ってさっさと帰ろう」

「どうかんですわ。こんなところで時間を潰しているのは愚行です」

「にはは、さっさとやっちゃおーよ」

「皆さんやる気ですよ?」


 アイリンヒは溜息を吐いて、座っていた椅子をわざと音を立てるように引き、捨てる。


「五人まとめてかかってこい」

「おっと、私をこのような汚らわしい連中と一緒にしてほしくないですね」

「君の方が汚らわしいじゃないか。薄汚い悪魔め」

「お褒めに預かり光栄ですよ。しかし、あなた方にとっては千載一遇の好機。幸運にも私も主の命にてそこの外道を殺害しなければなりません。つまるところ、私たちの目的は同一。つまり、私に任せてさっさとおかえりなさいな」


 レーザムは眼鏡の山をくいっと指で押し上げた。

 暗殺者集団、レーザムの情報によると、彼らの名前はサタンスロープ。おかしな話だった。

 地獄の王の手の者にサタンが主と名乗る一味とは。


「いや、僕らは僕らのやり方でやるよ」

「話は済んだか、お前ら、たかが人間とたかが悪魔風情が、私の前を、平気で、立っているなよ!」


 ローブの中から触手に似た機関が伸び出てきた。

 歯車同士が噛み合うような駆動音。機械でできた獣の咆哮に似た軋みを感じ、レーザムは影の中へ逃れる。


「散れ!」


 アルベルトの声で、四人が狭い中散って跳ぶ。


「貴様らにわかるか、あと少しの所で、私の夢が、潰えた、その気持ちが!」

「外道の気持ちなどわからん。確かに言えることは、今日お前はここで私に斬られる最初の化け物だ」

「同じ穴の貉が、偉そうに講釈垂れるな!」


 名前は知らない少女に向け、機械の触手が飛ぶ。

 しかし、刀を抜いた瞬間、少女が消える。いいや、あまりの速度に普通の人間では視認できなくなる。


「それがどうした!」


 が、アイリンヒの触手はそれでも少女を捉えているようだ。

 少女の刀に触手がガリガリと嫌な音を立て、食い込んでいく。

 悪魔の武器の性能もピンキリ。いや、どれも大量虐殺に向いていることに間違いはないが。

 それでも、悪魔の武器同士が当たれば、どちらかが必ず死ぬだろうと、悪魔は話している。

 あくまで、全く先頭に介入していないレーザムの情報ではあるが。


「離れろ、ミリカ! 迂闊に出るんじゃない!」


 ミリカ、そう呼ばれた少女に向かった触手を、アルベルトが大きなナイフで弾く。

 悪魔の武器に頼り切った戦い方をしている少女とは違い、アルベルトはそもそも戦闘に心得があるよだ。


「知らない。私が、全て私が切り刻む!」

「やれやれ、暗殺者集団も所詮は烏合の衆ですか。あなたは戦わないのですか?」

「私は近づかなければ力が通じません」

「ほう。それはまた難儀な。難儀ついでに、どうやら王子は奥の手を用意しているようですよ」


 レーザムが後ろを指した瞬間、壁が崩れ、中から二人ほどの人影が見えた。


「新手……つ……ベル、ハーミット!」

「あいあいさー!」

「やれやれ、ですね」


 可哀想なアルベルト。仲間を分割しなければ、ここは決着しない。

 送粉での分割であろうが、明らかに分が悪いのは事実を超えて結果に至る。


「アルベルトさん、ここは私に任せ、お二人を援護なさった方がよろしいかと」

「悪魔の戯言など――」

「事実を言ったまで。あなたの作戦は途中まで良かった。あの王子はもう普通じゃない。四人同時でかかり、戦闘役であるお二人ないしお三方が攻撃を敢行、最後にあの女性が接近してとどめ。しかし、あの王子をお二人。それも、接近戦しかできないあのお方がお一人をお相手に。分が悪いでしょう。もっと頭使ってくださいな」


 レーザムのもっともな意見に、アルベルトは随分と悩んでいるようだった。

 確かに、ここは信用できない悪魔よりも、生かしては置けない王子の打倒の方が先決。

 レーザムにはわかる。揺れ動くアルベルトの心が。


「……いけ、アルベルト。私は一人で良い」

「な……ミリカ」

「こいつと二人にしておけない。悪魔が味方共的ともわからん状況でな。それより二人を」

「……わかった」


「アルベルト。あなた、ナイフをもう一本持っていません? あれは……私が殺します」

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