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地獄の王の

「おいおい、呼び出したかと思えばこれかよ。なんのようだ、フィーネ」


 今は、今は会いたくなかった顔が、そこにあった。

 なぜかいつも困っている。なぜかいつも悲しそうで。なぜかいつも力強い。

 相反する何かの間でいつもいつまでもせめぎ合って、とうとう狂気の沙汰にかられたか。ちっ。


「スフレさん、ご苦労様でした。どうぞ、ご自身のお仕事にお戻りください」

「はいっす――」

「させるかクソ野郎!」

「ぴぎゃっ!」


 情けない声を上げた小悪魔の太腿に釘刺して床に打ち付ける。相変わらず喜んでるな。じっとしてやがれ。

 俺は適当な場所にあった椅子に座り直し、改めてフィーネの瞳を見た。

 ああ、いつも澄んでいる。この瞳が曇る時があるとすれば、それは世界の終わりだ。


「なんの用だ、フィーネ」

「……あなたは、私のことをどう思っていますか?」

「なんだ、告白か?」

「お前――」

「スフレ、そのアホ過保護連れ出せ」

「え、ちょ、足、はいっす!」


 思いっきり足のくぎを引き抜き、スフレを解き放つと、漆黒の羽がリエンを連れ去った。

 ふん、邪魔だよなホントあいつ。フィーネが嫁入りするとき最後までごねてそうだ。


「邪魔は消えた。お前のことを、どう思っているか、だな」

「ええ。私は……あなたを裏切ったと――」

「思ってるさ。ずばりいうとお前は敵だ」

「……では、何故私を殺さないのですか? ここは大臣はもちろん、あの王子、殺し屋集団にまでばれている名ばかりのアジト。あなたならば、早々に見つけ出し、殺すことが出来たはずです」


 ぐうの音も言えない。

 俺は取りあえず、指を鳴らして家に戻り、椅子を一脚もってアジトに戻ってきた。


「まあ座れ」


 椅子をすすめると、フィーネは特に疑う様子もなく、そこに座った。


「ちゃんと、線引きしましょう」

「ほう。人と悪魔か?」

「ええ。あなたは……どちら側の人間ですか?」

「どちら側って言うのもおかしいが、人間っていうのもおかしい。悪魔だ。悪魔側に決まってる」

「……そうでしたね。あなたは、それにしてはあまりにも人らし――」


 俺はフィーネに詰め寄り、胸倉掴んで引き寄せた。

 まったく、その顔は恐怖の色すら感じられなかった。

 こいつはもう……大丈夫だろう。何にも屈さず、なににも臆さない。


「俺は悪魔だ。地獄の王だ」

「なにを恐れているのです? 自分が人間から抜け出せない中途半端なところですか?」

「お前……!」

「私は知っています。あなたは本当は優しい。だから……私に協力してください」

「あ?」

「ガリュネイ大臣は悪魔を利用して更に力をつけています。こちら側の対抗手段は、未だ姿を隠している反体制派と、人数の少ない殺し屋集団です。それはもう、絶望でしかない」

「知ったことか。俺だってガリュネイを殺そうとして捕まった。ぶっ殺してやりたいが、問題が他に移動した。古参悪魔ってのがいてな、まあそれはいい」

「……あなたを以てしても、大臣は殺せないのですか?」

「ざけんな。今すぐぶっ殺してやるよ。場所教えてくれたらな。だが……俺としては問題を一か所にまとめておきたい」

「なんですって?」

「ガリュネイが古参悪魔をまとめている内は、魔王をよみがえらせるやつらが一か所に集まるだろう。悪いが、いつでも殺せる奴を今殺して、不安の種を分散させるわけにはいかない」

「地獄の王が魔王の復活を恐れるのですか」

「わかっているのか、魔王が復活すれば、お前らも絶滅するぞ」

「ほら、あなたはやはり優しい」


 不意に向けられた笑みに、俺はたじろいだ。

 なんで、俺に向かってそんな顔できる。俺だって狭義に理解しても人類の敵だ。

 なのに……なんで、そんな天真爛漫な笑顔が出来る。


「お前……なんなんだ」

「なんなんでしょうね。しかし、私はあなたが好きですよ」

「なっ……」

「ふふ。お顔が赤いですね。いやぁ、殿方というのは自己中でナルシストでロン毛で中性脂肪の塊かと思っていました」

「特定の二人と俺を比べるんじゃねぇ。あと、俺を二度と馬鹿にするな。ぶっ殺すぞ」

「あなたは、私と志を同じにするものです」

「自殺願望も偽善意思もねえよ。俺はただ、保身に長けているだけだ」

「いいえ。あなたはそういいつつ、上の世界で混乱が起こらないように動いている。そう、結果的には帝国から王国の魔の手を遠ざけた。偶然でも、私にとっては反撃のチャンス。とても感謝しているのです」


 俺は何とも言えない気持ちを胸に秘めた。

 なんであれ、俺は……


「ですから、これからも私に――」

「姫様! そいつから離れて下さい! そいつは、王国と中央で大量虐殺を行って、戦争を起こした張本人です!」


 リエンが戻り、スフレが笑んだ。

 そして……フィーネの瞳が、冷たく俺を突き刺した。


 パチン――


 帝国の外れの森。誰か人が居るのか、誰も居ないのか、そんなことはわからない。分かりたくもない。


「どーしたんすか、ご主人」


 俺はすぐにスフレに詰め寄り、その胸倉を掴み上げた。


「貴様……!」

「なんすか。大量虐殺の件を聞かれちゃ困るんすか。なんでっすか」

「なに……!」

「いいっすか。ご主人は地獄の王っす! いつまでも、中途半端は困るんす。スフレは、ご主人の命令なら靴も舐めるし犯されるっす。死んだって良い。ネラの子守もしますっす。でも、このまま地獄をどうにもしないならまだしも、たった一人の女のために何もかも巻き込んでんじゃねえっす!」


 スフレに殴られた。

 あの、くそスフレに。

 まったく痛くねえ。だが、突き刺さったよ。


「あんたは王だろうよ! 地獄の、地獄の王っす! だからそんな腑抜けじゃ困るっす。誰も言わないからスフレが言うっすよ。魔王は、魔王派以外の悪魔にとっては脅威でしかない。あんたにゃわかんないだろうっすけど、誰だって、死ぬのは怖いっす! 悪魔でもっす!」

「……ああ、そうだな。お前のお陰で、思い出したことがあったよ。俺は……地獄の王、だったな。だからさ、そこの陰に隠れてるやつ、出てこい」

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