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暗殺者会議

「信じがたいな。我々以外に悪魔の武器の存在を知る人間が?」

「そうだ、レヴィット」


 ミリカは椅子にゆっくり、音を立てずに座り、ボス――レヴィットに応えた。

 基本的にここに居る人間はレヴィットに対してミリカのようなぞんざいな口調で当たりはしない。

 しかしミリカにとってそんなことは些末なことだ。

 この、サタンスロープにとって。


「それだけじゃない。そいつは帝国暗部部隊隊長。大臣も悪魔の武器を持っている可能性が高い」

「それに関しては僕からも情報があるよ。帝国の繁栄に欠かせないのは勇者だけじゃなく、悪魔の武器があったようだね」

「情報屋が欲しいところですね。腕利きが。私たちの情報網ではこれ以上の活動は難しいです」

「そうじゃない、ハーミット。私たちの活動はいずれ嫌でも知ることになる。今は小さいが……革命を望む声がある限り、我々は存在し続ける。しなければならない」


 レヴィットは強迫観念にかられたかのように呟くと、深くソファに腰かけた。

 ここは、サタンスロープのアジト。そして彼らは……暗殺者だ。


「この帝国は腐りきっている。だが、勇者たちならまだしも、悪魔の武器まで確認されたことで輪をかけてたちが悪くなった。簡単に内部のうみを払えなくなった」

「だが、私たちのやっていることは無駄じゃないはずだ。この剣が朽ちるまで、帝国を斬り続ける」

「その気概は買うけどね。僕たちの数はあまりに少ない。僕の情報が確かなら、兵士は城に全て集められているらしいけど……近く、新しい兵士が徴兵されるらしい。ついでに……あの、光の貴公子が戻って来る」

「ベル知ってるよ。慈愛に満ちた勇者。反吐が出る」


 あどけない笑顔と無邪気な嫌悪が入り混じった顔。ベルと光の貴公子アゼルは過去に何かあったらしいが、ミリカは知らない。

 仲間ではあるが、それぞれがそれぞれの過去を持って、今ここに居る。

 でなければ、この若さで暗殺者になったりはしない。

 手に入れるだけで命すら落としかねない、悪魔の武器を。わざわざ取ったりしない。


「問題は山積みだ。一つ一つ片づけるとしよう。ミリカの話が確かならば、帝国内部にも我々と志を同じにする者がいる。そして、悪魔の武器を持つ第三の存在。……工作員を除けば、サタンスロープは最早我々五人だけ。次の一手が欲しい」

「じゃあ、どうしますか? 僕たちを」

「アルベルト、今のナンバーツーはお前だ。フィーネ姫の方は頼んだ。最優先事項だ。他の仕事は捨て置け」

「喜んで」

「ミリカ、ベル、ハーミット。お前たち三人は任務を遂行しながら、可能ならば、ミリカが出会った第三者とコンタクトを取れ」

「ああ」

「はい」

「はーい」

「私は隣国へ向かう。帝国は王国と同盟を組み、中央と戦争をする気配がある。あと数年は戻らないと思っていた光の貴公子も一時的に征伐を中断して戻ってくるようだ。このままでは組織が潰れかねない。一度隣国へ向かい、助力を乞うことにする。いいな、金貨に懸けろ」


 五人は首に下げた金貨のネックレスを出し、頷いた。

 サタンスロープの紋章、金貨に鉤爪が彫られた、帝国の金貨だった。

 これこそが、暗殺者の始まりだった。


   †


「あーもうやっと帰ってきたっす。勘弁してくださいっすよ。あたしゃベビーシッターじゃないんすよ?」


 家に帰って来るなり、ぶーたれたスフレが開口一番そんな言葉を放ちやがった。

 いつまでも眠っているネラの横でうつぶせになりながら頬杖ついて頬っぺた指でつついてる。どうでも良いが、いい加減飽きないのか?


「ああ。よくやった」

「ちょっと褒めないでくださいっす。吐き気するっす」

「このあばずれが、五、六匹の悪魔に犯させるぞ」

「いいっすねぇ。これでも昔はそりゃもうずっこんばっこんっすよ。あ、ご主人の筆おろししてあげましょうっすか?」

「いらねぇよ。今日は仕事してるかどうか顔見に来ただけだ。カップケーキでも食うか?」

「……なーにかあったんすか。まあ、座りなっせ」


 俺は溜息を吐きながらも、頷いて座った。

 スフレが引いた椅子に。

 まぶっちゃけ、疲れたから帰ってきたっていうのが一番だな。


「なんか飲みますか?」

「お前、茶淹れられんのかよ」

「あーっはっは、無理っす。ほら立って、淹れ方教えてくださいっす」

「お前……座れっつったろ」

「だってスフレは悪魔っすよ?」


 俺の手を引き、ウィンクする悪魔。

 どうだって良い存在のはず。なのに、なんで俺はここに戻ってきたんだろうな。

 悪魔は寝ない。食わない。歳も取らない。

 だが……疲れはするんだ。

 久しく使っていないシンクに軽く水を流して、やかんに水を注いだ。ここの水道……どっから来てんのかな。


「紅茶なんて洒落たもんをお前に飲ます気は無いから違うの作るぞ」

「ありがとうございます。愛してるっすよ」

「やめろきもちわりい」

「まあ、紅茶はいいもんすよ。あれで戦争しちゃうんすから。まあ、帝国の台頭でそれも意味を無くしたようっすけど」

「お前、上のことに詳しいようだな。ヨハネスだったか。おっさんが王やってた頃からだったな」

「もっと前っすよ。記憶ないだけっす。もっと前から、スフレは人を殺してた。ああ、犯されもしたっすねぇ。楽しいからいいんすけど」

「悪魔を楽しむってか?」

「まあ、そうっすねぇ……あの、なんでせっかくコップに注いだお湯捨てるんすか?」

「コップじゃねえ、湯飲みだ。まあ待ってろ」


 こういう作法は疎いが、日本茶くらいなら淹れられる。

 生憎と茶葉の中でもいいものは早々見つからなかったが……少量だけ手に入った。

 ワインみたく寝かせといてもなんだし、ちゃちゃっとつかっちまおう。


「ほらよ。めしあがれ」

「相変わらず女子力お湯かけないで!」

「ご褒美だろ」

「はいっす」

「じゃねえか」


 軽く頭を叩いて、飲まず食わずの悪魔に茶を振る舞った。

 スフレは満面の笑みで美味しいと言った。それだけで、ここに帰ってきた意味があった気がする。

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