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異世界地獄の王になりました  作者: 猫子ラノ
地獄の始まり
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普通の家で普通の生活

「さって、じゃあ家に帰る……ああ、俺に家はなかったな」

「ちょっとちょっと、なに初っ端から悲しいこと言ってんすか。地獄の王でしょ? 地獄(ここ)が家っすよ」


 スフレは笑いながら俺の前で手を広げた。ここぜーんぶ、そう言いたいのかもな。

 確かに地獄歴はそこそこ……まあ短いけど長い。だが、一度も家だと思ったことはない。

 適当に周りを見渡せば見える、灰色の地面。歩いていけばいきあたる禿げた山肌。枯れこけた木々の根っ子。

 うん、ちょっとやわっこいもの欲しい。ていうかどこで寝るんだよこんな場所。


「ああ、俺、寝ないんだっけ。でも枕とかほしいよなぁ。ていうか家」

「お家っすか? もー、しょうがないっすね。んじゃあ、ちょっと遠いんで飛びますっす」

「飛ぶ?」

「地獄の王レベルなら瞬間移動できるんすけど、所詮私たちは高速移動しかできないっす」


 言うなり、スフレの背後から漆黒の翼が出現した。生えたわけじゃない、出現だ。

 濡れ烏の羽を辺りに散らし、核となる翼は羽音を立ててゆっくり彼女の周りで落ち着いた。

 なんだこの……漆黒の翼は。


「お前それ……」

「私の専売特許。えへへ、普通のあくまでも持ってないんすよ? じゃあ行きましょうか!」


 どこか楽し気に腕を高く上げ、指を鳴らした。何だこの芝居がかった態度は――

 そして、黒い翼に俺ごと包まれると、あとは身を任せるように腕を組む。


「てっめえ、いきなりなんだこれ!」

「高速移動っす。瞬間移動できないし、お家遠いし。あと、あんま喋んない方がいいっす」

「うっせばか――」


 うわ、口の中になにか入ってきた!? 嫌だ、高速移動怖い!

 不意に襲い掛かった混乱に俺は冷静な判断が下せない。ていうか誰でも無理だろ!

 辺りは羽がぐるぐる回って暗いし、口開いたら不味いし最悪だ。

 地味な面倒くさい移動はしかしすぐに終わり、視界が開けた。


「おっえ、げっほ……うっわ、これお前の羽じゃねえか!」

「私の羽が口に入って……はっ、じゃあ私は、ご主人の口をおか――」


 今しがた落とした羽をスフレの口に突っ込んで黙らせる。口を開けば……全く。

 ていうかスフレの羽が口に入るとか本気で複雑だよ。


「えっほ、げっほ……ごしゅじんが私の口を犯し――」

「お前もう黙れ……ここが家か?」

「ふぁい、ふぉふぉふぁふぁいふぁいふぃふぉふほほ――」

「ああ、すまん」


 あまりにうるさいのでいつものように口を塞いでいたらそりゃぁ喋れない。


「ここは、代々地獄の王が引き継ぐ館っす」

「……あばら家に荒野がか?」


 見た所、小さな木製の小屋に、荒れ果てた広場があるに過ぎない。なにここ。


「そりゃあ、王が引き継がれましたから、初めからっす」

「……ゲームかよ」

「黙示録がレベルアップしたら家の改修ができるようになるので、材料集めて作ってくださいっす」

「ゲームかよ」

「自分好みのお家を作ってわくわくスローライフを送るっす!」

「ゲームかよ!」

「なんで殴るんすか!」

「なんで嬉しそうなんだよ!」


 もう嫌。こいつと話すと疲れる。いいさ、ゲーム世界で。どうするかな……

 取り敢えず、ここに残っていても仕方がない、家の中に入るとするか。

 扉を押して開け、中に入った。別に埃っぽいわけじゃないが、生活感もない。木造に窓が正面と、左にあるキッチンに一つ。正面には他に椅子二脚と机一脚。

 シンクっぽい物に一応家具も揃っている。ほほう……まあ、いっか。


「まさか食材ないとか言う落ちじゃないよな。魔界食材とか。魔界グルメ空気はないぞ」

「わがままっすね~。んじゃあ、ちょっくら上に行って食材取ってきます。これでもご主人の眷属なので」

「上行けんの? お前」

「悪魔としてならこの世界に限って上に行けるっすよ。ただまぁ、聖水とか十字架とかヤバいっす。あと、ご主人の目的みたいに世界間移動も無理っすよ、普通の悪魔は」

「わあったわあった。早く行ってきてくれ」

「了解っす」


 漆黒の翼を纏い、風を残してスフレは消えた。食材とか……あるのかな。

 まあ良い、取り敢えずキッチンがどんな塩梅か――


「まちどーさまっす!」

「速いよ!」

「え!? 早い方がいいじゃないっすか普通!」

「にしても早いだろ。まあいいや。じゃあ貸してみな」


 食材は……なんですでに下処理が済まされた何かの肉? あと、野菜かな。それと、なにかの卵。楕円じゃなくて完全に球体。異世界の食材って怖いな。

 さて腹ごしらえだ。ていっても、俺の料理スキルなんて料理漫画からくらいのものだ。


「おい、火は」

「ほいっす」


 スフレが指を軽くひねると、確かになんか、かまどみたいな場所に火が付いた。上に中華鍋みたいな……おいもう、みたいなものばかりだな。

 鍋を置いて、肉の切り身の油を削いで軽く撫でてやる。熱通るの速いな。


「何作るんすか? マンドラゴラのサラダとかしか喰ってないから何でもいいっすよ」

「その不味そうなサラダ、お前にとってはごちそうじゃないの?」

「私が欲しいのは刺激的な外敵痛みっす。さすがに幸せ求める食べ物くらい美味いのがいいっす」


 理解不能だ。

 卵らしきものを割ると、想像した色の数倍橙色だった。野菜を適当に擦って薬味を作り、卵の中に投じて、あとは……調味料がない。マジかよ。

 仕方がない、このままさっと鍋に通して――加速


「うわ、料理に能力使ったんすか?」

「そうしないとスクランブルエッグだ。ちょっと熱通して温か卵かけごはん……ごはんないの?」

「ああ、米っすか? あー……ちょっと待っててくださいっす」


 せっかく出来立ての卵が出来たのに……勿体ないな……


「米、こんな感じで良いっすか?」

「……水っぽいな。まあ良い、これをかけて……食うぞ」

「はいっす」


 俺たちは悪魔だ。命をいただきますと感謝しない。ただ黙々と、喰らう。

 箸はなぜかあった。お椀も。だからかっくらうのもとても簡単で……


「美味いっす!」


 スフレは米粒を頬につけながら、感嘆の声を上げた。


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