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暗殺者たち

「それで? ガリュネイ大臣はこの地区にも兵を置くと?」

「兵士は全て城に集められています。ですから……いったい誰が来るんです?」

「わからんから聞いている。まったく……」


 とある地方の諸侯とその秘書官が、自らの一室でまさに密会を行っていた。

 この諸侯たちはガリュネイにたらふくむしりとった税と女を納めることで甘い汁を啜っている。

 つまるところ、帝国に潜む悪だ。まあ実際はこんな諸侯ばかりなのだが、この密会に臨む男は少々厄介だった。

 帝国の地方、それは要するに帝国を守るための前線。最初に襲われる防衛線だ。だからこそ、ある程度の人は必要になって来る。

 だからこそ、地方離れを阻止するために苦しいが最低限の生活は出来る賃金。そして、酷く依存性のある薬物をばらまいた。

 これで人はどこかへ行く気力もなくす。その結果として治安は悪くなり、最低限の生活をするための賃金を薬物へ使い、税金と一緒に金を回収する。

 最悪の悪循環。だからこそ、ガリュネイにとって財布の肥やしになるこの諸侯たちは失ったら面倒なのだ。

 だからこそ、彼女の標的となった。


「とにかく、早く大臣に――」

「もう、黙れ、お前」


 辛抱ならないと、ひとりの少女が屋根裏から降り立ち、即座に諸侯の首を斬りはらった。


「ひ、ひぃ――」

「おい、今まで殺した奴らは、もう少しちゃんと言葉を発していたぞ」


 秘書官も殺し、刀を振るって血を払った。

 上等な机に血しぶきが戦場に飛び散った。

 黒髪のショート。動きやすい軽装に篭手を常につけた装束。

 かつて屋根裏でリエンと対峙し、互角の戦いを見せた少女だった。


「……空しいな」


 帝国のうじむしをまた一つ排除したところで、少女の気は晴れはしなかった。

 さっきから観察していたが、情報に違わず、ゴミのような連中だった。殺す価値は端から無い。労力に見合わないまでのゴミだ。


「やあ、ミリカ。いつもより時間がかかったようだね。この間の失敗の傷かい?」


 少女をミリカと呼ぶ、ひとりの青年が闇の奥から姿を見せた。

 茶色の癖毛に優しそうな猫目。よれよれの茶色いコートがワンポイント。両手に黒のグローブをはめた、以下にも暗殺者らしい暗殺者で、その通り暗殺者だった。

 ミリカの仲間だ。


「アルベルト。違う、この間は邪魔が入った。それより何のようだ、任務は順調に消化している」


 青年――アルベルトは肩を竦め、困ったような笑みを浮かべた。

 つかつかと黒のブーツで床を鳴らし歩き、血がまだついていない執務机にすがった。


「その件でボスが話たいそうだ。丁度僕たちも情報を共有する時期だろう?」

「リーダーとして観察役のお前は何でも知っているだろう。私は一刻も早くこの帝国を――」

「浄化だろ。分かってるよ。そのためにも、だ。情報が入った。もうじき勇者が凱旋する」

「なに? どれだ」

「光の貴公子、アゼル」

「……なるほど。私たちは、連中にしてみればウジ虫だな」

「だから早く戻るよ」


 アルベルトは窓をがらりと開いた。夜風は湿っている。浴びるより前に、アルベルトとミリカは部屋を後にした。

 姿かたちと存在を消し去り、次なる場所へと向かっていた。

 闇から闇へ、彼女たちは移動を続ける。闇こそ居場所。闇こそ仲間。そう、どこか達観するように。

 そして、森の奥深くにあった、木造の煙突付の家に、彼女たちは入った。


「やあ、ミリカを連れて帰ったよ」


 部屋に居たのは、男女三人。


「あら、お帰りなさい、ミリカに、アルベルト」


 金髪の長い髪に眼鏡。白いローブの胸元が弾けそうなほどの巨乳の持ち主。読んでいた本から目を離し、ふたりに微笑みかける。


「にはは、おっかえりー」


 茶髪のポニーテール。こんがり健康そうに焼けた肌に、八重歯がひかるボーイッシュな少女。胸と下腹部を最低限隠す超軽装でスポーティーだ。


「揃ったな。全員座ってくれ」


 部屋の奥のソファに腰かける、赤がった長髪に黒いコートを着た男性が、静かに告げた。

 見た目の年齢だけで言っても一番年上、年のころは三十代ほど。

 ミリカも正確な歳は聞いていないが、最年長であることは間違いなかった。

 だからこそ、大人しく従い、適当な場所に腰かけた。元々そんなに物が置いてある部屋じゃない。天井からつるされたランプが落ち着いた光を注いでいる。そんな部屋だ。


「さて。アルベルト、ミリカ、ハーミット、ベル。前線部隊で残ったのはもう私を含め君たちだけだ」

「……あら、そうでしたか? アストラと、カルド―は?」


 巨乳の女性、ハーミットが、ぼんやりと顔を上げた。瞳が鋭く閉じられ、本の背表紙を撫でる指は妖艶だった。


「ガルドー、死んじゃったのか……」


 褐色の少女、ベル悲し気に俯いた。

 アストラもガルドーも、ミリカたちの仲間だった。どちらも男。


「悲しむのはわかるが、そんな暇はない、ふたりとも。死者を弔うのは夜明けで良い。今は帝国の夜を開く。我々、サタンスロープは今日この時から、表立って活動する」

「表立って? 今まで散々活動しているはず。これ以上どうする」


 ミリカの質問に、ボスはたった一言だけ答えた。


「ミリカ。話に聞いた。悪魔は、いるのか?」

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