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人か悪魔か

 やれやれ。殺し屋と元殺し屋が殺し合って、一体何の得があるっていうんだ。

 俺はソファからゆっくりと身を起こした。相手が誰であるか、俺は知らない。リエンがこいつに負けるかどうかも知らない。

 知りはしないが……うるさくて仕方がないな。

 このデブのおっさん、上の殺気と騒動に感づいていやがる。ただのデブじゃあないな。

 何もないかのように装っているが、意識は上に行っている。

 殺気に敏感なのか、実は腕が立つのか……悪魔の武器か。

 まあ、最後のは違うな。俺が感じない。どちらかと言えば……上に感じる。

 やれやれ仕方がない。俺に飛び火しても困るしな。


 パチン――


「よお、止めとけよお二人さん――」


 ほぼ同時に両サイドから刀が落ちてきた。

 暗い中、良く当てるものだよ。両方頸椎に。悪即斬か。

 

「落ち着け」


 二振りの刀を指で挟みこんで、交互に二人の顔を覗き込んだ。こんな薄暗い中で良く戦い合うものだ。

 二人とも納得いかない表情で後方へ下がった。だが、未だに武装解除しようとはしない。

 なんでだよもう。


「貴様……のうのうと、なんの用だ」

「お前の部下のことなら俺のせいじゃないぞ。まあ、案の定地獄に堕ちてきたが」

「なに……彼女たちはまだ……止めておけ、小娘。貴様では――」


 そう。この小娘ではリエンに適うはずなかった。

 だが――

 あまりに早い物理の壁を越えた速度は、リエンも、また俺の目からも小娘の姿を隠した。

 

「つ……なに……!」


 肩口を斬られたリエンが呻き、肩の出血を抑えようと手で押さえる。

 小娘は不満げに口をとがらせ、刀を振るった。

 有り得んな。物理速度じゃない。それに……


「どこで手に入れた。悪魔の武器を」

「……なぜ、お前が知っている」

「知識人なんだ。本を読んで、軒先で日向ぼっこしながら茶を飲むのが趣味でね」

「そうか」


 おいおい。地獄の王に対して悪魔の武器を使うとは、いい度胸だ。

 すでに小娘が使っている武器のネタは割れた。

 なら、そういうものだと思った上で対処すればいい。そうさ、それこそ、ヴァレイドが俺に教えてくれたものだ。

 刀の先端を手の甲で弾き、小娘の肩を掴む。

 このまま制体できれば御の字だったが、そうもいかない。

 肩を掴んだ腕を更に掴まれ、ふと、手にも俺の体にもかかる重みが消えた。

 明らかなヤバさにぞっとして、横に逃げて壁に肩を打ち付ける。

 小娘が背中をぶつけ、舌打ちをしながら後方へ跳ぶ。

 こんにゃろ……


「正気か。天井でドタバタやるなんてな」

「音を出すつもりはなかった。……お前も、そいつの仲間か」

「あ? この幸薄そうで根暗そうな女とか? ざけんな。こちとらせっかく侵入したのにそれを台無しにされかねなかったからな。やれやれ揃いも揃ってなにやってんだ」

「貴様に言う義理はない」


 リエンの表情は見えないが……睨んでるんだろうな。

 こいつにとって俺は、忠誠を誓う姫の敵で、部下を殺した悪魔だ。

 その反応は尤も。構いはしないが……だからと言ってな。


「忠告だ。これ以上薮をつつくな。お前とそこの小娘の目的がなんだろうと知ったことじゃない。だがな、蛇が出れば御の字。他の物を出されちゃ困るんだよ」


 魔王が復活する。

 それで人類が滅亡しようと俺の知ったことじゃないが、俺たちサイドが殺されるのは納得いかない。

 俺はまだ地獄を完全に掌握しきっていない。力も身についていない。

 こんな状況で正気の沙汰とは思えない喧嘩に付き合いたくもない。

 部下だっていないから、こうして地獄の門を開けて地獄に干渉しようとするやつらを排除せねばならん。

 俺は肩を竦め、ふたりを睨み付けた。


「お前たちが知らんことはもちろんあるから言っとくぞ。これ以上地獄に干渉するな。俺の力でねじ伏せることになる」

「やってみろ。今や姫様の力を知らぬ貴様の方が迂闊にも油断している」

「邪魔をするなら排除するだけ」


 どうして……人間はこうも愚かなんだろうね。


「勝手にしろ」


 俺は二人に背を向けた。この二人がこれから殺し合おうと俺の知ったことじゃない。

 無論、この後すぐに二人が俺に襲い掛かったところでそれも知ったことじゃない。

 二人じゃ俺を倒せない。地獄の王とはそういうものなんだ。

 今一度……調子に乗った連中を唾棄しなければいけないな。


 パチン――


「あっれ、ご主人。お疲れさまっす。なにしてんすか」


 家に戻ると、スフレがネラのベッドの横で頬杖ついて、ネラの頬をつついて遊んでいた。起きたらどうするんだ、まったく。

 いや、そもそもこれは起きるのか?

 俺は椅子にドカッと腰かけ、深く息を吐いた。


「……悪魔を殺す」

「何言ってんすか。悪魔どころか、地獄七魔将まで殺したじゃないっすか」

「そうじゃない。最近舐められすぎた。権威というものが持つ顔の一つを見せてやろう。大量虐殺だ」

「それは悪魔を? 人間を?」

「どちらもだ」


 そろそろ、動かなくてはいけない。

 人間たちは急速に俺たちの研究を進めている。地獄の門を開ける方法。その抜け道。そして、何らかの形で悪魔を殺す方法。魔王を復活させてしまいかねない行動を取るかもしれない。

 それは避けたい。

 他の悪魔はどうだって良い。だが、俺だって一瞬で消し炭になりかねないなんて聞いたら……是が非でも止めたい。


「行くぞスフレ」

「この子どうするっすか」

「誰か部下はいないのか」

「冗談。悪魔最弱っすよ。私」

「……んじゃあ、連れて行くしかないな」

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