地獄の終わりと始まり
「……やっと来たか」
ばさばさと降り立った、二対の漆黒の翼。
今では俺の側近として働く下級悪魔、スフレ。そして、地獄七魔将最後の三人のひとり、ツバキだ。
「ちょっと拷問に手間取ったっす。でーも、ばんじうまくいってるっすよ」
「私は貴様に呼び出されたところで必ず来なければいかん理由がない」
「はいはいそーですね。状況を、お前らだけに説明するぞ」
俺はくるっと二人に背を向け、自分の家に戻った。
力を使えばもっと大きく出来るんだろうが、今の俺にはまだこのこじんまりとした家で良い。
二人を椅子に座らせ、特製のレモンティーを振る舞った。最近飯作ってねえな。
「私たちだけに話すんすか?」
「貴様に唯一忠誠を誓っているレーザムはどうする」
「もう話した。さて……知っての通り、ヴァレイドを始末して……」
俺はちらりと、俺のベッドを占領しているネラに目を向けた。あれからちょーーーっと経つが、ネラは今の所眠りについたままだ。
ヴァレイドがそっと扱っていたから、起きやすいのかと思ったけど……。
まあ、どっちにしたって、俺には今や地獄の知識がある。ヴァレイドが封印したらしいから、その一部だが。
「地獄七魔将はネラ、レーザム。そんでお前だけだ、ツバキ」
「知っている。もしあと一人でも死ねば魔王が復活すると」
「もし魔王様が復活すれば、上の世界、人類は全滅っすね。悪魔の天下だキタコレ」
スフレを抱き寄せ、そのままナッツラルな腕力で締め上げる。
「あがががががが」
「おい、貴様まだそんな甘さを――」
「ヴァレイドにも言われた。だが、もういいんだ。人類の滅亡は関係ない。魔王が復活すれば、地獄の王はどうなる」
「そりゃあ、地獄を取り締まるなんて野郎、魔王様が許すわけないっす。むしろ、自分が居ない間に好き勝手しやがったクソ野郎にあぎゃああ!」
肩をふたつとも外してやる。
やっぱそうじゃないか。冗談じゃない。
俺はようやく、ここまでたどり着いた。地獄の王まであと一歩というところでざけんな。
こんな血なまぐさい世界は俺の世界じゃない。どこか別の世界の話だ。
そこでかかわった悪魔がどうなろうと知ったことじゃないが、俺が死ぬのは困る。
「どうせお前らは助かるんだろうが、俺は即死だ。魔王の力ってどうなんだ」
「絶大だ。正直な話、ヴァレイド含めて地獄七魔将全員が束になっても勝てやしない」
「だろうが。それに、悪魔は今の所、この聖冥の剣以外で殺せない。だが魔王はどうせ――」
「もちろん、魔王は悪魔を殺せるっすよ。なにせ、魔王が落ちたこの地が地獄と呼ばれるようになった。つまり、地獄を作り出したんすから」
ほらみろ。冗談じゃない。
悪魔のこいつらは良いが、地獄の王。それどころか元々はここに居ない俺が生かされる可能性は微塵もない。だったら絶対復活させてはいけない。
「そこで、俺は良いとして、レーザムを外に出させん。あと、ネラを守らなきゃならん」
「良い考えだな。少なくとも貴様では魔王を殺せん」
「ああ。まったく。上の連中がこぞってこっちに来ようとしているのは非常に困る。悪魔は殺せないが、魔王の復活に何か手を出されてはかなわない。だからこの俺が! この俺が戦略を考えなきゃいけない羽目になった!」
机を殴った。
嫌だね。悪魔が、悪魔の王であるこの俺が、まさか作戦を立てるなんて真面目なことを。
こんなことならもっと早く色々始末しておくんだった。
「んで、どうするんすか。いきなりお姫様の首を撥ねるんすか?」
「悪魔を差し向けたところで、雑魚はもう退けられてしまうだろうが」
「貴様自ら行けばいい」
「悪いな。やることがある。まずは悪魔たちに俺の存在を教えること。化け物を狩ること。調べること。だから、ツバキに大臣やらあの王子やらを始末してほしいと思ってな」
「興が乗ったらな。私もバランスの歪みを探さねばならない。奴らとの戦いが近い。どのみち私も出張る羽目になるだろう」
「やつらってなんだよ」
「最終戦争を引き起こしたやつらっす。ほんで? ご主人はこれからどないするんすか」
「仕事だ。お前も来い。じゃあ、ツバキ。色々任せた」
指を弾いて移動した。
もう、一々スフレの翼に頼る必要もない。
移動した場所は、地獄の端っこ。今はまだ見ない、悪魔たちの巣窟の一つ。
「悪魔を片っ端から殺すんすか?」
「いや。挨拶がまだだったからな。さて、スフレ。狩るぞ。その後は一度上に行く。あの姫さんとも話をつけなければな」
「っす」
さて……地獄七魔将たちは片付いた。これで……進める。