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王子と王

 こいつ……名前は確か、アイリンヒ・レットビル、だったかな。

 ガリュネイ大臣の傍に居るとか居ないとか。どっちにしろ、帝国の大臣と手を組んで色々悪さしようっていうのは分かる。

 俺だって悪人……悪魔だ、悪人の行動原理は良く分かる。

 このご時世に豪奢な服をまとって、ロン毛をなびかせている。ああ、なんだかそのすっとした瞳。おぞけがする。虫唾が走る。反吐が出る。


「なんのようだ、レッドビルの」

「なんのようだ、とはずいぶんだな、勇者、だったかな? シオン」


 この状況を見て全く驚かないのか?

 ついこの間まで仲間だと思っていた奴らが殺し合っているんだ。

 しかも辺りには色んな死体に、普通の人間が殺したとは思えない色々な跡。

 馬鹿でも分かるし、こいつは馬鹿じゃない。狡猾だ。

 俺は特に隠し立てすることなく、聖冥の剣をちらつかせた。


「おい、しらばっくれるつもりか?」

「ふん、それがお前の悪魔の武器か。どんな能力かは知らないが……勇者というのが嘘だというのは分かった。あれらはそもそも悪魔の武器に頼らない」


 悪魔の武器を知っている、か。まあ、それは気づいて居た。

 俺は酷く沈痛な顔を浮かべるふりをしてやった。

 勇者でないと知られたのが痛い、とでもいうように、な。実際のところ悪魔だし。地獄の王だし。

 今更勇者でないと知られても痛くもかゆくもないさ。

 それより、だ。それがお前の、って言ったな、こいつ。

 やれやれ……どいつもこいつも……地獄って今、ほんと不安定だな。


「そうか。仮にこれが悪魔の武器だとして、どうする?」

「あれの身内に脅威があるとすれば、私の計画が随分と危うくなる」

「そうか。なあ、なんでそんな大切な計画を、俺に話す」

「大方、想像はついているんじゃないのか?」

「大方は」


 レッドビルはそうか、と口の中で呟くと、いきなりマントの中から得体の知れないものを出してきた。

 出してきたというよりは、気付いた時には俺の肩を何かが抉っていた。

 薄いシャツなど一息に引きちぎり、次の瞬間には深々と肩に何か突き刺さりやがった。

 超痛い。ねえ、どうでもいいけどさ、なんでみんな同じとこばっか突き刺してくるの?


「ほう、避けたか」


 あーあ。せっかく喰らってやったのにばれちまったよ。

 俺はすでに何かを引き抜かれてぽっかり穴が空いた肩に手を添えた。

 穴って言うか……なんかもう、皮だけでつながってる感じだな。もう治ったけど。


「……貴様、そんな能力まで。本当に勇者ではないにしろ、何者だ」

「名乗る必要、あるか?」


 瞬間移動――

 背後に迫り、その背中に聖冥の剣を突き立てる。

 何度も言うが、悪魔は殺せん。人じゃあな。

 悪魔の武器も殺せるのはせいぜい化け物か人間かスフレ程度の小悪魔。俺は無理だ。

 じゃあな――


「なんだと――」


 堅い。

 金属か何か……化け物を殺せる剣も結局硬度は金属だ。弾かれる。

 ちっ……

 一度退いて、足払い。

 が、これはシンプルに防がれた。動きが素早いな。変なとこで変な体術を学んだか。


「驚いたな、貴様は一体幾つ悪魔の武器を持っている? いやそれよりも、悪魔の武器をいくつも使って、なぜ死なない?」

「驚いたのは俺だ。何でお前らは悪魔の存在を肯定しているのに目の前の人間を人間と思える」


 ようやくピンときたらしいレッドビルは俺の顔をまじまじと見て、信じられないといったように口を開いた。

 両者間合いだが、レッドビルの武器がなんなのかわからない以上、迂闊に近づけん。

 悪魔の武器でも俺たちは殺せまい。人が悪魔の武器を使ったところで、な。だからまあ、ナーゼみたいなのは厄介だ。でも、それもまた地獄での話。

 そう。簡単な話、地上で悪魔の武器を喰らって死なないかはまだ分かってない。

 以上のことから動けませんはい。


「そうか、お前が悪魔か。聖水かければ火傷するのかな?」

「それってうちの従者が喜びそうなプレイじゃないよな?」

「悪魔のことは研究したが……そうか、存在していたか。なら、悪魔祓いを試してみるか」

「無駄だ。俺は俺で悪魔だ。地獄に落とすことはできないぞ」

「ならここで死んでもらう」


 また、なにか来た。

 俺の動体視力嘗めんな。今度は見逃さん。


「なんだこれは」


 性懲りもなく心臓ぶっさしにかかってきたそれを掴んだ。

 鉤爪のように鋭く尖った先端の後ろに、関節が幾つもついた長い腕……いや、尾が繋がっている。マントの中から出ているそれは蛇のようにうねっていた。

 こいつが、さっき当たったから弾かれたのか。


「掴むとは、命知らずな」


 ワイヤーを撒きつけるような嫌な音が響き、鉤爪が動き出して俺を襲う。

 すぐさま手を離し、剣を打ち当てて相殺した。

 これね……悪いことに……あのくそ女、消えやがった。

 この坊やを殺しても良いが……殺すか。手を返せばこいつの首は回る。


「悪魔が存在するなら、その地獄の扉も本物だな。こじ開けてやる」

「その前に殺してやるよ」

「ふん。悪魔風情が、調子に――」

「僭越ながら、地獄の王。問題が発生しました」


 レーザム……間が悪いな。

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