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異変

「もー、なんで膨れてるんすか、ご主人」

「膨れてねえし」


 俺はふくれっ面なのだろうか。鏡でも見てみないと自分の顔なんざわからんよ。

 にしても……なんだこれは。あのお姫さん、結局何がしたい。

 俺に助けを求めておきながら、俺を突っぱねた。何がしたい。


「にしてもなんすかこの体たらく。あのお姫さん物にすればいいのに、結局契約してないなんて」

「契約は契約書にサインかキスだろうが。お前知ってんだろ。契約書長いんだよ」

「ならさっさとキスなさいな。まーったく、変なとこで童貞なんすか指があらぬ方向に!」


 人差し指を全力で掴んで手の甲に曲げてみた。こいつの指は良く曲がるな。

 まあでも……俺の失敗は認めないといけないな。

 椅子を引いて、卓についた。ちゃちゃっと机の上を軽く雑巾で拭って溜息を吐いた。

 まさか、契約もせんと口約束とは。書面上でなければ契約は解除できるっていつかならったなぁ。

 

「ちっ、まあ確かに俺の手落ちもいいとこだな。これで、上の連中が余計なことしなけりゃいいんだが」


 心配を深めていると、家の扉の向こうから羽音が響いた。帰ってきたかな。


「戻ったぞ」


 男前ツバキがあまり芳しくない表情で帰ってきた。帰って来るなり椅子にドカッと座ってらっしゃる。

 ここ……俺の家。


「お疲れさん。バランスどうのうはどうだった」


 スフレもそうだが、悪魔っていうのは因果関係のバランスに随分ナイーブだよな。

 あれからというもの、ツバキはちょくちょく上へ行っては調査をしているんだとか……。

 はあ……生き残った七魔将はあんまり言うこと聞いてくれんよな。


「ああ。相変わらず、憎悪と策略に満ちていたよ。濃縮されてな」

「濃縮?」

「普通ここまで濃くならん。酷い世の中だな。この世界は」

「今に始まったことじゃないんだろうよ。それよりも……」


 続いて、家の外に雷が落ちた。あいつ、タイミング良いな。


「地獄の王。ただいま、御身の前に」


 レーザムはいつも慇懃。悪魔の鏡だよ。


「お疲れさん。で?」

「はい。まず、悪魔の武器がいくつか魔王の蔵から出ていっております。しかしこれは有り得ない。魔王の蔵は厳重に管理されておりますので」

「誰かが開けた、か。まったく。んで? もう一個は」

「お気持ちは大変ありがたいのですが、我々を殺す以外に魔王を解放する手段は……」

「なら良い。どっかの誰かが魔王を復活させようなんて考えてんなら、お前たちが危ないからな」


 殺させなければいい。

 だがな。

 そうもいかなくなった。ややこしい。なんで俺がこんなにも色々考え、策をねらんにゃ行けんのだ。

 ばからしい。俺は地獄の王だ。怠惰の極みだろうが。


「ちっ。引き続き探せ、レーザム。俺の予想が正しけりゃ、地獄の扉こじ開けようとする人間が二人でる」

「かしこまりました」


 迅雷が空へ駆け抜けた。

 さて。俺の力を考えればたいていのことは対処できる。

 しかし……俺はまだ地獄の王としての力を成しえていない。


「スフレ、ツバキ。地獄の王になるには地獄七魔将を倒すか使役しないといけない。そうだったな」

「その通りっすよ。だから、ヴァレイドとネラだけっす」

「私は貴様につく気はない」

「なら、黙示録に名前を書いていないレーザムはどうなる」

「厳密には使役したことにならないっすね」


 とすれば……あれ、地獄七魔将を殺す以外をやってない。

 くそ。早々に使役しちまえば俺の方で守るなり管理できるが、それはそれで魔王を復活させる。

 魔王の封印が地獄七魔将ってなんなんだよ。面倒な。

 俺は椅子から乱暴に立ち上がり、腰に手をやって部屋をうろついた。考えがまとまらん。


「なんだ、貴様。そのうっとうしい動きは」

「あ? 分かっているのか。悪魔の武器は世界を荒らすぞ。お前たちにわかるか知らんが、ここ数日地獄に来る人間の数が半端じゃない。俺に抱えきれん量の魂だ」

「地獄の王にきちんとなれば、全てご主人の物っす」

「地獄が賑やかになって何が不満だ。貴様、まさかまだ人の情を持ち合わせているのか」


 睨み付けるような視線が嫌になって、俺はツバキから目を離した。


「だったらなんだ」

「捨てろ。それは邪魔だ」

「ああそうかい。じゃあ、さっさと上がるとするかね。地獄の門の傍に何か居る」

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