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「リエン。報告を」

「レッドビル王子ガリュネイ大臣は週に三度も秘密会議を開いています。そして、レッドビル王子が突如力を手に入れたのは、大臣と接触してから。民の貧困は大臣が税を外縁部から徴収し、搾り取ったせいです。その金を元に貴族を買収。権力者、商人、司祭までを自らの配下にしたようです」

「よくもまぁ、私が知らぬ間にそこまで肥え太ったものです。アカデミーでの期間はたったの三年ですよ」


 溜息を吐き、フィーネはようやく替えたばかりのカーテンを閉めた。

 リエンに諜報をさせればさせる程、大臣の悪行が目に見えて眼球が腐り落ちそうだった。

 それに、あの時、辺境の街で出会った母親が言った言葉も気になる。


「我々の他に、大臣に立てつこうとする人間は?」

「確認できませんでした。ですが……大臣がこうまで力をつけたり、民を飢えさせたり、全ての元凶が大臣であれ、そんな流れを……不幸の連鎖を作り上げたものの存在は感じます」

「なるほど。まあ、その存在は大臣でしょうね。では、私はこの武器を使いこなさなくては」

「武器ですか。しかしその杖、一体どのように使うというのでしょう」


 リエンの言う通り。全く使い方がわからない。少しはわかってみても良いようなものだが、見当もつかない。

 しかも、下手に使って何か副作用があっても困る。調べようにも、悪魔の武器についての文献はなぜか城に置いていない。


「リエン、文献を片っ端から探したのですよね」

「古文書まで解読しました。しかし出てきたのは取引用の悪魔。レーザムのような悪魔や、名前のわかる下級悪魔を呼び出す方法に、悪魔の能力を無力化して拘束する呪文くらいしか」

「それを使います。呼び出しましょう」

「誰をですか?」

「馴染みの悪魔です」


 言うなり、フィーネはせっせと机を片付け、悪魔封じと呼ばれるサークルや呪文を書いた。

 なんでもいいのだが、とりあえず城の外装を塗る塗料で賄おう。

 鼻歌交じりにサークルを書き、その間にリエンは盃の中に呪文の材料を混ぜた。死体だの枯れ木だの、良く分からない不気味な材料が多い。

 ようやく完成したが、最後に材料がもう一つ。


「血ですね。人間の」

「では、私が」


 リエンが止めるよりも前に、フィーネは短刀で自分の腕を斬って盃に注ぎ、その中にろうそくを捨てた。

 火がぼわっと立つ。


「へにゃ。あーれー、お二人とも、なんすか、どうしたんすか……って、何のつもりっすか?」


 馴染みの悪魔。スフレが顔をしかめた。

 すぐに、自分の足元に悪魔封じが仕掛けられているのがわかったらしい。


「なんのつもりもあるか。主導権はこっちにある」

「かー。近頃の人間は悪魔をなんだと思ってるんすかね。小間使いじゃないんすよ」

「黙れ。それより、貴様、悪魔の武器に詳しいな。姫様に武器を渡したのだから」

「えー? まあ、詳しいっすよ。ていうかいいんすか? 悪魔について調べると、引っかかるっすよ?」

「なんだと?」

「この世界の不幸はバランスによって賄われている。全てはバランスっすよ。んで、それを知っている悪魔が嗅ぎまわってるっす。まあ、それは良いっすよね。この世界が今不幸だってことはわかってることっす」


 スフレはケラケラと笑うと、そこいらにペタッと座った。随分リラックスしている。


「んで? なにが聞きたいっすか?」

「悪魔の武器はこの世界にいくつある?」

「現状は数えきれないっす。魔王の蔵から幾つも消えてるっす」

「この武器に副作用は」

「武器が認めなければ死にますっす」

「貴様、そういうことは……!」


 しかしフィーネはリエンを止めた。相手は悪魔だ。なにを言ったって聞きやしない。


「この武器の能力は?」

「破壊。ふふ。随分アバウトっすけど、その武器の破壊力は自らも破壊しかねない頂上の物」

「そんなもの、なぜ私に?」

「はあ? レーザムの契約が不履行だからっすよ。その武器が渡ったのも偶然っす。もう良いっすか?」

「では、お話でもしましょうか。あなたの言う、バランスの話でも」


 リエンも言っていた。巨悪の根源。大臣。それらのバランスを乱す人間が居ると。

 だから、その謎にとりあえず着手するとしよう。なにせ、やるべきことは大体済んだ。

 あとは世間話だ。


「そこまでに、しろ」


 いつの間に現れたのか分からない。

 黒い煙でもない。黒い稲妻でもない。黒い羽根でもない。

 音も無く、それはいつも現れる。


   †


「ったく。悪魔封じって……なんでんなもんにかかるんだアホが」

「だって~」


 このアホ。何度も言うぞ、このアホ。

 呪文にひっかかるわ、悪魔封じにかかるわ、このアホ。

 俺は聖冥の剣でサークルを突き刺した。バチン、という音が響いて悪魔封じが解ける。


「ったく。バランスがどうとか言うから見てきたら……こいつは俺の従者だ。地獄の王に敵対することがどういうことか、わかってるのか」


 ツバキの言う通りだ。人間が悪魔に介入し始めた。

 まあ……なってまだ間もないから、この世界の歴史なんて知らないが。


「ええ。どうやら私とあなたの道は交差しているようです。それでは、戦いましょうか?」


 この女……

 なんだ、なにが……狂った?

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