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問題のてこ入れ

「正気の沙汰ではありませんよ、姫様。まさかあの地獄の王と契約するだなんて!」


 本来ならば有り得ないが事が事なせいで、少々興奮気味のリエンがフィーネに食って掛かった。

 それもそのはず、相手はつい最近まで存在しないとされた悪魔。物語や伝承の生物。しかもそれの王だというのだから。

 フィーネは自分の部屋の模様替えを考えながら、リエンの言葉を受け止めた。

 この国について考えること。この帝国について考えることはありすぎてきりがない。だから、まずは身近で荒れ果てた自分の部屋のカーテンでも繕おうと思っていた。


「それはあなたもです。なにをされるかわかったものではありませんよ?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべ、フィーネは新しい布を軸にかけていた。とても皇帝代行の部屋、いいや、皇位継承権一位であり、皇帝代行及び執政権全権兼任者の部屋とも待遇とも思えない。

 この待遇にフィーネは甘んじているが、リエンは不満しか募らせていない。そこへ乗せて自らが忠誠を誓った姫がよくもわからない。いや、よくわかっているが気に食わない男と契約をしたとなれば苛立ちも爆発する。


「それは……それです! いいですか、姫様。あの大臣にあの王子です。もしも姫様が悪魔と関係があると知れたらどう利用してくるか……」

「浅慮ですよ、リエン。私はあなたを買いかぶっていたのでしょうか」

「な……!」

「リエン。あなたは大局を見ようとしたことはあって? あなたが見ているのは、私の未来だけ。それも、自分の考えが凝り固まったせいで誰しもが想像できる範囲の中の中庸をいっている。わかるかしら」

「……私の考えは姫様の崇高な考えに及ばないと?」

「そういうところですよ」


 フィーネは軽く笑んだ。

 リエンは誰よりも大切に思っている人物。唯一心を開き、相談できる人物。

 だからこそ、フィーネも思ったことは口に出す。手ひどいことも言える。それが何よりの信頼だから。


「あなたは私を大切にしすぎです」

「それは……姫様が私を……」

「私はあなたを大切に思っていますよ」

「……勿体ないお言葉です」


 さて。

 フィーネは口の中でそう呟くと、カーテンをかけ直そうと一枚一枚剥いでいく。

 この時に見た光景をリエンが同じタイミングで見たとして何も思わないだろう。

 この……灰色の世界を。

 何もない世界を。


「……早く、しなくてはいけませんね」


 フィーネはカーテンを引きちぎり、壁にぶち投げた。

 それだけで息切れする自分の体に眩暈がしそうだった。フィーネは机から悪魔の武器を取り出した。

 今すぐにこれを使いたい。

 窓の外は灰色。度重なる戦いのせいで木々は枯れ、土地は乾ききっている。奥へ見える町の壁も家の屋根も、なにもかもがかすんでいる。


「……リエン。こんな時のために抜け道はいくつありますか?」

「先の件で五つに増やしましたが?」

「守衛にすら見つからない道は?」

「二つ……どうなさるおつもりですか」

「守衛に見つからないならば、それは城下かその外れに繋がっていますね」

「まさか……いかれるおつもりですか!」

「私は、この国を統べる王になる存在。国民の声を聴く義務があります」


 リエンはこの提案を絶対にのんではいけない。

 主をわざわざ死地へ送り込むようなものだ。地獄にお供しておいていうものではないが。

 しかしここで文句の一つでも言えば、また何か言われかねない。

 いや、そんな理由で下がってしまったらそれこそ元も子もない。

 リエンは揺れていた。なにが浅慮でなにが深慮なのか。仮面の中で瞳が揺れ動いていた。


「……わ、かりました?」

「歯切れが悪いですわね」

「いいえ。例え姫様が危険な目に遭おうと……すべて私が排除します」


 考え方が変わった瞬間だった。

 リエンは仮面の中で瞳を光らせる。

 リエンは過去に剣を一度置いている。それをもう一度握ることになった話はまた今度。


「さすがは私のリエンです。では、行きましょう」

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