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操る

「さあ、ネラ。眠る時間だよ」


 木造の家は木の温かさそのまま。ログハウス風の内装。だから、天蓋付きでピンク色のベッドがあるというのはなんとも不思議でならない。

 ヴァレイドは水の中からネラを取り出すと、そのままベッドに寝かせた。父親か。


「やあ、待たせたね。座ってくれ」

「構わん。この通り、俺は悪魔だ。時間はいくらでもある」

「ふふ。そうか。まあ、茶でも飲んでくれ」


 アンティーク風のティーカップ……って、これほんとになん百年も前のやつだろ。

 深い紅色をしたお茶は揺らめいて俺に飲まれようとしているようだった。


「んで? ヴァレイド。俺の知らないことは何だ?」

「難しい質問をするね。まあ、ほとんどだ」


 ヴァレイドはカップに口をつけると、薄く笑みながら瞳を閉じた。茶を楽しむように。

 香りを感じる以外は必要ないといったように。俺を前にいたくリラックスしながら。


「だろうな。俺が地獄の王になって上の世界じゃまだ数か月ってんだから」

「ふふ。まあ良い。質問に答えようか」

「お前はなんだ」

「悪魔だ。前の地獄の王よりも前にここに居た。いいや……私は魔王がここに来て、この地が地獄となった時に居た」


 ぞっとしないな。なんてやつを地獄七魔将にしやがった、あのおっさん……。

 いや、待て。だからこそ地獄七魔将にしたのか。なにせ、この地獄を治める七人の戦士だ。雑魚じゃ話にならん。

 ……そうか、なるほど。そういうことか……


「あのたぬきおやじ……。ようは、お前さえいれば、地獄七魔将は伝説として語り継がれている。例え残り六人が雑魚であっても、最強の七人という伝説が雑魚を最強に昇華させる、と」

「君ほどに慧眼を持ち合わせると、自分を過信してしまうようだ」


 俺は今、こいつを睨んでいるのだろうか。

 俺は俺を過信している、か。そうかもしれんが、俺は自分を決して顧みない。自分で自分を鑑定するほど愚かな真似はない。


「なんだと?」

「なるほど、信じたものは、信じたかったものとはよくいったものだ」

「なにがいいたい」

「なにも、見えてはいない。第一に、地獄七魔将は地獄を治めるために存在しているのではない。地獄の封印だ」

「封印……だと?」


 封印ってなんだ。

 地獄は一体何を治めている。こいつの知っていることは役に立つことは間違いないが、その真偽を精査する力は俺に無い。

 カップのお茶を全て飲み干し、乱暴に机の上に置いた。

 こいつの言うことを全て信じていいか……


「随分警戒心が強い。私は君に嘘はつかないよ。契約したって良い」

「……話してみろ。なにを、封印している」

「魔王。最初に地獄を作った悪魔の王。地獄七魔将が封印の鍵だ」

「なにを言っている。魔王、だと? ファンタジーも大概にしろ」

「夢ではないよ。魔王は存在する。まあ、会ったことはないがね。なにせ、地獄が出来たと同時に、何者かが魔王を封じた」


 ヴァレイドは立ち上がり、ポットの中に茶葉とお湯を注ぎ、いくらか蒸らすためにジッと佇んでいた。

 まったく、話が大きすぎてついていけない。急になんだ。


「まあ、安心したまえ。私は全て話しはしないさ」

「おい。安心できねえよ」

「地獄七魔将はその魂を鍵とし、魔王を封印する仕組みに過ぎない。私たち全員が死ねば、魔王は復活する」

「ふん。魔王がなんだ。俺は地獄の――」

「魔王は地獄の王を遥かに凌ぐ力がある。君では――」

「これがある」


 聖冥の剣を机に叩きつける。


「これは、超越した物を殺せるんだろ?」

「……ああ。確かに。まったく、どこでそんなものを……まあ、具体的に言うとそれは、不死の能力を殺す。大いなる破壊の力」

「……俺は、魔王を復活させようとしているのか」

「聞いたところ、君は魔王を知らなかった。なのに、なぜ殺してまわった?」


 なぜ、だと? それは、あのおっさんが俺に言ったからだ。地獄七魔将を殺し、俺が地獄の王になれば自由に元の世界に変えることが出来る、と。

 俺は妹を置き去りにしている。さっさと……力を手に入れなければいけない。

 俺の力を試すには地獄七魔将は絶好のチャンスでもある。


「……まあ、いい。俺は俺の道を行く。お前と、その嬢ちゃんの命は取りあえず預けて置いてやる」

「ふ。私や、ネラを殺せるたまじゃないだろうに」

「いいや。俺は地獄の王。お前をいつか殺してやる」


 指を鳴らし、俺はその場を後にした。

 なにかがおかしい。なにかが……この俺を操ろうとしている。

 だが、好きにはさせない。俺は俺のために動く。地獄の王だから。


「スフレ、ツバキ。力を貸せ」

「はいっす」

「それは話し次第だ」

「ふん。まず、生き残っている地獄七魔将、レーザムを」

「御身の前に」


 慇懃に跪き、レーザムは俺の前に現れた。そうだよこれだよ。

 主を小ばかにせず、主を主と思うこういう心が俺には必要なんだよ。

 思い出したように、スフレもまた跪いた。「はっ…!」じゃねえよ。思い出すな。覚えとけ。


「さて。地獄七魔将を殺させようとした。俺を操ろうとした。その報いは受けてもらう。三人とも、あのおっさん。先代地獄の王を探せ」

「御意に。しかし、地獄の王。このようなお手紙を預かっております」


 レーザムが俺に便箋を渡してきた。

 なんだ、こんな時に。

 俺は手紙を読むなり、引きちぎった。


「上がるぞ。ったく、上の時間で……まだ数週間だろうが」

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