ここからの話
「んで? こっからどうします?」
「そうだな……また悪魔が来ても殺さないといけないしな。移動するか」
「たかが悪魔っすよ」
「お前もだろが。……ツバキ、レーザムを召喚しとくから、俺の指示を伝えてくれ」
「私は貴様の小間使いじゃない」
なんてことをいっても漆黒の翼を広げて地獄に堕ちてくれるツバキさん超優しい。
ツバデレだなツバデレ。最高。今度ツバキに眼鏡かけさせよう。
下らないことを考えすぎた。俺は上がると時間を短く感じるんだから、さっさとしないと。
「よし、二人には悪魔の武器についてもう少し教えてもらいたいが、ここじゃなんだ。うちに来るか?」
「フィーネ姫を地獄に落とせるか」
「ならどうするってんだ」
「私の部屋でどうですか?」
「ナイス。そうしよ。スフレに大体の場所教えてやってくれ」
スフレに近づき、具体的な場所を教えるフィーネ。スフレならその辺の悪魔と違って上の地理も頭に入ってるだろう。
「赤外線で交換するっす」
「女子高生か! ていうか世界観!」
後頭部ぶん殴った。こいつ、相当な回数俺の元いた世界に来てたな。あのおっさん、ろくなことしやしねえ。
ようやく場所を理解したらしいスフレはにっこり笑って漆黒の翼を広げた。
この世界だと翼とかあんまりおかしくないのかな。いやでも、悪魔ってだけで大分おかしいか。
三人まとめてくるみ、次の瞬間……随分豪奢な廊下に居た。
背後を振り返ると窓が開いているから、どうやらそこから入ったらしいな。
んで? ここなに? 城? 俺異世界きてようやく異世界らしいとこに来た気がする。
「なんだろうな、プチカルチャーショック。ええとこすんでるやん」
「お姫様っすからね。お部屋どこっすか?」
「お前たちは……もう少し遠慮したらどうなんだ」
「悪魔に遠慮なんて無理っすよ~。部屋こっちっすか?」
「ええ、そうです。リエン、彼らは言わば、他国の方。ここは文化の壁を乗り越えて誠心誠意お答えするのが筋です」
「ならばこちらの様式にも合わせていただきたいものですね」
「お客様ですよ、リエン。シオン様も、どうぞ」
随分物わかりの良い姫君だ。今時こんないい子は居ないぞ。
入っていいのかわからない姫の寝室に入り、取り敢えずきょろきょろと見渡す。
思った通り……生活感があまりない。ベッドと机、一脚の椅子。それ以外はほとんどない。
一応可愛らしい桃色がかった彩色の調度品で誂えられているが、だからなんだ。頑張って女の子っぽさをアピールしているようにしか思えない。
穿った目で見過ぎなのかもしれないが、この部屋も嘘だらけだ。
なんだろうな……いつ襲われても、あの仮面が対処できるように仕立て上げられている。
「申し訳ありません、お客様をお通しする準備が整っておらず、どうかそちらの椅子に」
「私はベッドで良いっすよ~」
「お前はさすがにちとばかし遠慮しろ。んで? そしたらあんたはどうするよ」
「私は立っています」
「リエンは今頃屋根裏でしょう」
あの仮面、普段どんな生活送ってんだ。
まあなんにせよ、俺が何かおかしな行動を取れば即座に殺すって算段だろうな。
さすがに女の子を立たせるわけにもいかないので、礼儀はこの際気にしなくていいからベッドにでも腰かけてくれと頼み、ようやく話あいだ。
「おおよその話は分かっているが一応聞いておくぞ。なんでまた悪魔の武器なんか」
「……この国はもう末期です。お父様は病に倒れ、宰相、将軍は次々前線で命を絶たれています」
「戦争だからな」
「ええ。しかしそれは全て大臣によって行われた所業なのです」
「新たな登場人物を出してくるな面倒くさい。その大臣がなんたって悪魔の武器なんかを使って戦争したのか?」
しかし彼女は首を振った。ありがちな話だと思ったのに違うのか。
俺は取りあえず後を考えるのを止めた。今は話を聞こう。出ないと追いつかない。
彼女、フィーネは膝の上に手を重ね、とうとうと語りだした。
「大臣は帝国を苦しめています。己の利権をむさぼり、既得権益をほしいままに貴族たちを回収し、国を乗っ取るつもりです。そのために、宰相や、皇帝派の将軍は次々戦地で無謀な戦いをせねばなくなり、あえなく……」
「そーれで悪魔の武器が欲しいんっすか? 大臣殺すために」
しかしフィーネは首を横に振った。
「私が戦場に出るためです。この歪んだ戦争を終わらせ、国民に大臣という存在の是非を問うてもらいます」
「封建制が民主主義の真似事か。止めとけ、ろくなことにならん」
「そもそも、貴族とは何でしょう」
「謎解きも趣味じゃない」
なにせ、謎解きなんてやったら俺の性格がフィーネにばれる。簡単にプロファイリングされた上で手の上転がされる運命が目に見えている。
この世界はホント、会う先々の女が面倒くさいな。
気持ちをきり返すために視線をずらし、軽く掌を拳で打つ。
「それで? ノーブルオブリゲーションを知らない貴族、それを好きに操る大臣に腹が立って、疲弊する国や国民を見ていられなくなったと。この悲劇のヒロインが」
「なんとおっしゃってもらってもかまいません。私の命ならいくらでもお支払いいたします。ですから、国民だけは助けなければならないのです」
「そうはいってもな、生憎と俺だって魔王の宝殿なんかに行きたかねえよ」
「でもあなたは……地獄の王なのでしょう?」
「なりたてっすけどね、一応王様っすよ~」
余計な茶々を入れるスフレ。ぶん殴ってやりたいが我慢しよう。
そうはいっても……地獄の魔王だぞ。俺よりも上でしかも会ったことないんだ。万が一見つかれば生き返って家に帰るとかそんなレベルの話じゃなくなる。
最悪俺の世界に乗り込むぞ、その地獄の魔王は。
俺としてもリスクは冒せない。だが……
たったひとつだけ、このフィーネの言葉に嘘でない物が隠れている。
国民のためなら命を投げうつ。それは本物だ。
難しいなおい。どこまでが本当で、どこまでが嘘なんだよ……。
「……仮に俺が悪魔の武器を手に入れたとしよう。どうする気だ」
この問いは鎌かけでもなんでもない。だが、あろうことかこの女、即答しやがった。
「世界平和のために」
惚れた。芯のある、良い願いじゃないか。
話だけ、聞くとしよう。