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いいところで登場

 正直、甘く見ていた。地獄最凶とはいえ、たかが悪魔だ、自分は倒せる、と。

 しかしリエンは考えを早々に改めなければいけなかった。悪魔は強い。


「つ……げっほ」


 大量の血を口から吐き出し、地面を赤黒く汚すリエン。服は破れ、腕はすでにリエンの意識の外へ行ってしまい、だらんと垂れ下がる。

 傷はどうでも良い。そんなこと、リエンにしてみれば日常茶飯事だ。東の大国で戦乱に巻き込まれ、命からがら落ち延びた帝国では奴隷商人にいたぶられたのだから。

 だからこそ……

 ちらりと、背後のフィーネに気配をやった。

 だからこそ、そんな自分を救ってくれたフィーネを守らなければいけない。


「随分と辛そうですね。もう止めますか?」

「……私の命で姫を助けると誓うか」

「ふむ、契約ですか……いいでしょう」

「そうか……」

「な……なにを考えているのですか! リエン! そんなこと、私が許しません!」


 血相変えた様子で前に出ようとするフィーネの足元に小太刀を投擲した。

 姫に対して、最初で最後の無礼を働く従者の覚悟は重い。フィーネもその覚悟を推し量ったようだが、それでも関係ないと突き進む。


「姫様!」

「許しません!」

「美しい限りじゃないか、なあ、スフレ、ツバキ」

「っすね」

「その忠誠は本物だ」


 漆黒の翼が広がり、黒き羽が、舞い散った。


   †


 やれやれ。ようやっと地上に上がったと思ったらこれか……。

 たぶん、あれがレーザムで、こっちの美女と仮面は知らない。知らないが、悪魔が人間を一方的に蹂躙するというのは面白くないことだ。


「お前がレーザムか」

「そういうあなたは地獄の王様。お会いできて光栄に――」

「なってないな。礼が形式ばってる。その上足元に気を配らなかったな。膝が曲がってるぞ。お前、俺に忠誠なんて誓ってないだろ」

「……ばれましたか」

「あはは、今の地獄の王を甘く見ない方が居っすよ。どんな能力も洞察力だけで打開してきたっすから」

「ほう……かつて地獄の王についていたあなたが言うんだ、間違いないのでしょうね。それより、もう乗り換えですか?」

「えへへ」

「うん……ツバキ、あなたもですか」

「私は行動を共にしているに過ぎない」


 レーザムは顎に手をやって、短く考えるようなそぶりを見せると、モノクルの奥からツバキを睨んだ。


「にしては、ネビスは死んだと聞きました。あなたが殺したと」

「ああ。それがなんだ」

「……なるほど、まあ良いでしょう。まさか、黙示録にベルフェゴールの名を刻まないとは」


 ああ、あいつの名前はベルフェゴールだったのか。それは惜しいことをした。

 ベルフェゴールと言えば七魔で名高い存在だ。まあ……あいつを使役する気はないが。

 どうでも良いよ、そんなこと。


「レーザム、地獄に帰るぞ、お前にはきついお仕置きが待って居る」


 俺は仮面の少女? の傍に寄って、患部に手を這わせた。若干の抵抗を試みられたが、最早立って虚勢を張るのが手一杯だったのだろう、黙ってなされるがままだ。


「大丈夫っすよ。あなたの大切な人はご主人が守ってくれるっす」


 もう一人の美少女の方に、スフレが優しく声をかけていた。こういうときは役に立つんだよな。デリカシー皆無だけど。

 少女もスフレを信用したのか、黙って一歩下がった。


「おっけー、これで傷は治った。さっさとそこの人連れて逃げな」

「馬鹿な……悪魔の力だというのか……!」

「そゆこと。さて……レーザム。地獄に戻るぞ」

「私が何をしたと? 地獄の王亡き今、地獄に安定はない。ならば好き放題するのが悪魔の流儀」

「やりすぎだよ馬鹿。お前、魔王の宝殿から悪魔の武器を盗んで、なんだったか……」

「レッドビル王国っす」

「そう、そこに売ったな。いや、その前だ。すでにレッドビルが下したが他の国にも悪魔の武器を売り、魂を荒稼ぎしたろ。そりゃあ買うよな、敵国が尋常じゃない力を持って攻めてくるんだから」

「……いつ、それを?」

「なんだ正解か」


 つまらんな、こいつ。たかが知れている。

 ようやく俺に鎌をかけられたことに気づいて怒気を表情ににじませ、化けの皮を剥がしていくレーザム。ポーカーフェイスが下手だな。頭は良いようだがそれだけじゃいけない。

 道化師には向いていない。失敗をすればたちどころに不機嫌になるタイプ。普段はプライドから冷静に物事を処理し、他人の失敗は許すが、自分の失敗は許せないってところか。


「んじゃあ、そこの二人は帝国の関係者かな?」

「申し遅れました、帝国――」

「後で良い。早く行け。こいつは俺が狩る」

「そんなわけにはまいりません。私が始めたことです」


 俺はポリポリと頬をかいた。なるほど、普段自分勝手な悪魔と接してばかりいると、こういう責任感をおかしく感じてしまうな。

 いや、美しいことなんだけどさ。誰の責任かと言えばあのおっさんの責任なんだよね。

 俺に地獄の王を擦り付けてさ!


「ちっ、思い出したらイライラして来た。さっさと狩るぞ、レーザム。ああそうだ、狩る前に名前を教えてくれ」

「私に勝てばお教えしましょう。そして、あなたに永久の忠誠をお約束します。これは契約、私は絶対に嘘は言いません。まあ、勝てばの話ですが」

「口数多くなってんぞ。お前の虚勢は偉く分かりやすいな」

「そうですか」


 消え――違う、これはもう攻撃か!

 いきなり現れたレーザムの手には鋏が握られている。床屋とかそんな優しい物じゃない。やりようによっては首を断てる代物だ。

 鋏のボディをノックするように叩いて軌道を逸らし、足で何とか衝撃を地面に逃がして下がりながらのボディブロー。

 が、当たらない。ていうかいない。


「ツバキじゃないんだ、物理速度なら見えるんだよ、俺はな!」


 バックダッシュで、次の攻撃を避ける。上手くいった。こいつ執拗に首ばかり狙いやがって――

 見えないってことは物理現象じゃない。本当に見えないんだ。

 面倒だな、神速か? それとも瞬間移動の類か? だとしたら起こりがあるはず。

 起こりすら見えないってことは……なにほんと。


「ちっ……」


 どうやら腕を斬るでなく叩かれたようで、激痛が走った。

 移動しながら数度動かし、折れていない確認する。折れてない。折れてないけど。

 やれやれ、骨が折れそうだ。


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