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罠を仕掛けるは

「神は最初に天使を作った。その後自分に似せて人を作り、悪魔が作られた。貴様らは人間にも劣るゴミクズだ。軟弱で、堕落していて、貧相だ」

「はいはい天子様。俺らをそんなに褒めないでくれ、照れる」


 悪魔封じにかけられたのではどうしようもない。取り敢えず床に座って、フィーネ、リエン、そしてクソ天使のラファエルをぐるっと見やる。

 こいつら共謀して悪魔をはめるとは。罠にはめたのは誰だ? フィーネか。よくやるよ。


「ふん、汚らわしい。貴様が今地獄を仕切っているそうじゃないか」

「大体は。まだ言うこと聞かない連中も居てな。先代が引き継ぎもしないもんだからこうなった」

「ヨハネスは死んだか。目障りな、悪魔が」


 言葉を良く溜める奴だ。自分の言葉に酔って居るタイプだな。

 こういう奴は隙が多い。まあ、多いところで俺は何もできないが。


「故人を悪く言うなよ。二度死んでんだ。少しは悼め」

「冗談言うな。今すぐ貴様を燃やし尽くしたって構わないんだぞ」

「じゃあそうしろ。なんで生かしてる? ほらどうぞ。ああ待ってくれ、死ぬ前に一杯」


 俺は手を小さく広げ、首をかしげる。

 やっぱり、こいつは知ってるんだな? 魔王の存在を。


「ははは、図星か、聡明な天使」

「黙れゴミクズが。貴様を生かしているのは役に立つからだ。下らぬ戯言を吐かせるためではない」

「ああそうかい。ならなにが聞きたい」

「魔王はどこに居る」

「知るかよ。知ってても行きたくないだろ。大体お前たちは勘違いしてんだなぁ、これが。地獄は魔王の檻じゃない。魔王そのものが地獄なんだ。あれが地獄に居る限り地獄は地獄だが、アレがここに来ればここが地獄だ。意味お分かり?」


 ようやっとまともに話が出来る空気が出来上がってきた。

 事の重大さに今まで気づきもしなかった輩は嘆かわしいことこの上ないな。

 魔王は地獄を生み出した。それが地上に上がれば地上は地獄になるだけだ。

 別にそれでも構わないが、魔王がまずやるのは、自分が治めてきた場所を急に収めだしたぽっと出の始末。

 すなわち俺や俺に従う者たちの殺害だろう。それはあってはならない。

 だってみんな生きて居たいし。


「おい天使説明してやれ、そこのお嬢ちゃんに。魔王の復活をさせまいと頑張ってるやつを殺すのは間違いだって」

「ふん、下らん。魔王が復活したところで、我らの勝利は揺るがない」

「じゃあ何か? お前は俺に魔王の復活方を聞きたいのか? 変わったやつだ。教えんぞ」

「いかなる手段を――」

「あのな、俺は地獄の王なんだよ。やるんならやっても構わんが、効かんぞ」

「そうかな?」


 天使が取り出したのは、聖冥の剣によく似た銀の短剣。聖冥の剣より装飾が凝っていて、武器と言うよりは飾りのようだった。まあ間違いなく俺を殺せるんだろうけど。

 どう料理してくれるか見物だったが、ラファエルはその剣を俺ではなく……フィーネに突き刺した。


「がっは……」

「な……!」

「地獄の王。貴様に時間をやろう。ああ違ったな。時間はこれが決めるんだ」

「貴様、執政大臣殿を!」

「人間、お前の出る幕はない」


 リエンを片手を翻しただけで吹き飛ばしたラファエル。

 いいやそれ以上に、なぜ、ここになってフィーネを突き刺した。

 刺されたフィーネは腹を両手で押さえ、苦悶の表情を浮かべる。青い顔は苦痛に必死で耐え、酷くいたたまれなかった。なんだ、これは。

 フィーネの白いドレスが赤く染まり、広がっていく。赤い死が、フィーネをむしばんでいく。

 自分でも思った以上に、いいや、思わなかったほどに、俺は叫んだ。


「フィーネ!」

「ははは、ようやく苦しむ顔を見せたな。魔王の復活方法を言えば助けてやる。貴様相手にはずいぶん簡単な取引だったかな?」

「この外道が!」

「それは貴様だ。どうする? この女は死ねば地獄に行くだろう。そこで好きにするのも良いが」


 フィーネが地獄に堕ちる。考えられないな。

 地獄は想像を絶する苦痛を伴う。悪魔になることを拒めば、その魂はいつまでもいたぶられ続ける。

 それでいいのか?

 ただ焦る。

 焦れば焦る程身動きが取れなくなるだろう。

 思考も停止する。考えを止めた時点で、俺は終わる。


「良いだろう。教えてやる。地獄七魔将、あと誰か一人でも死ねば、魔王が復活する」

「本当か?」

「この期において嘘つくかよ。早く底の女を助けろ。俺を出すだけでも良い」

「その心配はありません」


 フィーネは、何事もなかったかのように立ち上がり、すまし顔で俺を見下していた。

 全てが……演技だったのか。


「大したたまだ。あの時真実に心動かしたんじゃないのか?」

「賢すぎると、思い込みが激しくなるのですね。私が悪魔の味方につくと? ええ、その通りです」


 フィーネは微笑み、魔法陣の一部をナイフで削り取った。

 自由になった俺は、生命の剣でクソ天使に襲い掛かる。

 祝福が無ければさっさとぶち殺していたものを。

 ナイフの先が天使の頬を擦る。


「ちっ……謀ったか女!」

「誰であれ、何者であれ、私の国を脅かす者は許しません」


 俺、そして天使を一度に騙した。

 たいしたたまだよ、本当に。


「さて、クソ天使。お仕置きの時間だ」


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