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9 あのときの借りを

 初めて一人で森に入ったときは、ゴブリンロードを警戒するあまり、歩みが随分と遅くなってしまったものだ。


 しかし今は狩人のスキル「探知」により、敵の息遣いなどを素早く察知することができ、こちらの居場所は暗殺者のスキル「隠密行動」により気づかれにくくなっている。


(これだと、パーティを組む必要もないのかもしれない)


 通常は、スキルポイントボーナスが多ければ多いほど高位の職業を選択するため、スキルポイントに余裕がなくなる。


 それゆえに、補助的にいくつか別の職業のスキルを取るくらいで、ほとんど自分のメインの職業を伸ばしていくことになるのだ。


 だからパーティを組んで役割を分担するのだが、フォンシエに関しては、スキルだけはふんだんに取ることができていた。


 戦力のために人数を増やすならともかく、わざわざ索敵要員や回復スキル持ちを誘う必要もなかった。


(もっとも、どれも本職には及ばないんだがな)


 どれほどスキルをとっても、彼は村人レベル2にすぎないのだ。


 魔力は少なく魔術や回復スキルはたいして使えないし、剣士と剣聖、戦士のスキルを取ってようやく渡り合えるようになったのである。


 しかし、伸びしろは十分。


 フォンシエは早足で歩いていくと、ゴブリンを見つけるなり、背後から接近して一撃で仕留める。


 この程度の相手を急襲することなど、もはや流れ作業と化していた。


 それから何度も何度も敵を切り倒し、随分深くまでやってきた。相変わらず見えるのはゴブリンばかり。


(本当に調査に来たんだろうか?)


 ゴブリンを大量に仕留めていたが、その後に急激にゴブリンが繁殖したというのは考えにくい。


 それからなかなか数が減らないため辺りをうろうろしていると、フォンシエは気がつくことがあった。


(おや? この辺りのゴブリンは倒したはずなんだがな)


 見れば、同じところを移動していたというのに、またしてもゴブリンがいるのだ。

 探知スキルがあるため、うっかり見落とした可能性は低い。


 となれば……


(どこかに隠れていたのか?)


 フォンシエは木陰から、こちらに気づいていないゴブリンをまじまじと眺める。


 おそらく、ゴブリンを観察するなどという者はそうそういないだろう。集団ならば、さっさと倒さないと、置いていかれてしまうから。


 そうしていると、ゴブリンはあちこちで木の実をつまんだり、生えているキノコを咥えてみたり、とりとめもないことをしている。


 ゴブリンにたいした知能はない。無駄だったかと思い始めた頃、ゴブリンは欠伸をしつつ、岩肌へと向かっていく。


 そして壁面に生えている草木をごそごそといじると、その奥へと消えていった。


(うわ!? どこに行ったんだあいつ)


 驚きつつも、フォンシエはそこに赴くと、慎重に剣を使いながら草木をかき分ける。すると、裂け目があり、奥に続いていることがわかる。


 どうやら、ゴブリンの巣があるようだ。


(そこから補充されていたってわけか。道理で探しても見つからなかったわけだ。ゴブリンロードはここからずっと出てこなかったんだろう)


 ここがゴブリン全体の巣だとすれば、そこにゴブリンロードがいるはずで、ゴブリンだってたくさんいるはず。


 けれど、そんなことで怯えてなどいられない。


 フォンシエは勇気を出して、その割れ目に入っていく。


 奥に行くほど暗くなっているわけではないことから、この向こうは洞窟ではなく、上から光が降り注いでいるのだろう。


 日が沈み始めていることもあって中は薄暗く、どこかに潜んでいた敵が襲ってくるのではないか、と不安にならずにはいられない。


 探知スキルを最大限に利用して警戒すると、向こうに二つの存在を感じ取った。


 息を殺して近づいていくと、ゴブリンよりも大きな魔物、ホブゴブリンが見えてきた。それは警戒しつつ辺りを移動している。


 どうやら警備しているようだが、身が入っていないため、隙だらけであった。


 遠くにはゴブリンがいるため、大声を上げて増援を呼ばれたら奇襲ができなくなる。


 フォンシエは小刀を取り出し、機を見計らって、二体のホブゴブリンがそれぞれ別の向きを向いた瞬間、一気に飛び出して背後から組みついた。


 片手で口を押さえつつ、もう一方の手で首をかき切る。

 かつてあれほど苦戦したはずのホブゴブリンはあっさりと血を噴き出し、そのまま倒れていく。


 フォンシエは息をつく間もなくホブゴブリンから離れ、もう一体へと接近。先ほど倒したホブゴブリンが地面に倒れて音を上げるよりも早く、剣を振るった。


 刃はごくあっさりと首をはねる。


 二体のホブゴブリンがドサリと音を立てるが、他のゴブリンは場所が遠いため、聞きつけてくるものはなかった。


 そこらのゴブリンはまったく警戒心もなく、寝ころがっていたり、なにかを食っていたりする。


(多少数は多いが……遮蔽物はある。やれるはずだ)


 フォンシエは素早くルートを決めると、草木の合間を移動し、岩の上を飛び越えていく。そして眼下にゴブリンを見つけると一気に急降下して背後から飛びつくと同時に首をへし折った。


 さらにすぐさま近くで寝ていたゴブリンを断ち切る。


 そうして片っ端から見えたものを倒していく。

 一体、二体……。百を超えるゴブリンとホブゴブリンを仕留めた辺りで、ほとんど近くに魔物はいなくなった。


 だが、その最奥に辿り着いたとき、にわかに場が騒がしくなった。

 草木の影から僅かに身を乗り出してそちらを窺うと、多くの緑色の小鬼の姿がある。


 二十体ほどのゴブリンが集まっており、それらをまとめているのは、かつて見た大敵。

 ゴブリンロードが大きな棍棒を、得意げに振り回していた。


(一体ずつおびき寄せるのは無理そうだ。となれば、一気に打ち倒すしかない)


 ちまちまとやっていて、すべてが一気に襲ってきてはどうにもならなくなる。

 ならば敵が動揺しているうちにできるだけ仕留めてしまったほうがいい。


 フォンシエは手を空に向け、炎の魔術を用いて火球を放つ。

 二つ、三つと空へ舞い上がったそれは、一気に降下して地上で弾け、ゴブリンを吹き飛ばした。


 突如放たれた攻撃に、ゴブリンどもは右往左往し、散らばりながら襲撃者を探す。


 爆風がゴブリンロードにも命中したこともあって、その魔物は激昂してゴブリンを怒鳴り散らしていた。だが、それはますます混乱を助長する。


 その隙にフォンシエは暗殺者のスキル「気配遮断」を用いると、魔力を消費し、ゴブリンに察知されにくくなる。


 彼は剣を抜いて切り込み、混乱でまともに状況を把握できない敵の集団を駆ける。

 剣は幾度となく翻り、小鬼どもを血に染めていった。


 そして、眼前に見えてきたゴブリンロードを見据えると、一気に跳躍して切りかかる。


 キィン!


 甲高い音ともに、剣と棍棒が交差する。

 ゴブリンロードはしっかりとこちらを見ていた。


(……ちっ! 思った以上に冷静だな!)


 フォンシエはさっと距離を取ると腰から連弩を取り出し、片手でレバーを操作して、うろたえている周囲のゴブリンを狙い撃つ。


 連弩は携帯用の小さなもので、威力に乏しい。だが、急所を狙えばその欠点を補うこともできよう。


 矢は正確に眼球を貫き、その奥深くに刺さっていた。

 ゴブリンが絶命する中、立て続けに数度レバーを引く。


 半分は失敗に終わるが、残りはすべて狙いどおりに敵を打ち倒す。


 やがて連弩を戻したときには、ゴブリンロードが炎の魔術を使用しようとしていた。

 フォンシエは素早く移動するも、狙いはしかとつけられており、少し動いたところで外れない。


 そして火球が放たれた。


 迫ってくる炎に対し、フォンシエはゴブリンを引っつかんだ。慌てる小鬼を全力でぶん投げる。


「こいつを食らえ!」


 炎は彼に当たる前にゴブリンにぶち当たって爆発し、辺りに光を撒き散らした。

 その間にも、フォンシエは次のゴブリンのところに走っている。ゴブリンロードは二度目の攻撃を行わんとしていたのだ。


 そして炎が放たれると、フォンシエはこれまた逃げるゴブリンを掴んで火球へと放り投げた。


 それが遅れたため、爆風は近くで生じ、フォンシエは飛ばされてごろりと転がりながらも、立ち上がった。


 ゴブリンロードは棍棒を片手にたたずみながら、フォンシエをしかと睨みつけていた。


 ぱちぱちと爆ぜる炎の中、ゴブリンたちは恐怖ですでに逃走し始めている。

 ゆえに、今はゴブリンロードと一対一になった。


「さあ、あのときの借りを返してやる!」


 フォンシエは剣を構え、気を吐いた。


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