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83 光の海



 魔王メザリオ討伐を終えたフィーリティアは、都市に戻ってきていた。

 戦いが終わったのだから、勇者の役目もこれでお終いになったはずだ。となれば、いったん西の都市に戻って、フォンシエと会うこともできるはず。


(フォンくん、大丈夫だよね。きっと元気になってるよね)


 フィーリティアは別れてきたときの彼の姿を思い浮かべる。

 新規に出現した昆虫の魔王との戦いの後、眠っていた彼はいつ目を覚ますかわからない状態だった。けれど体力のある彼のことだから、今頃はきっと、起きて元気になっているはずだ。


 そんなことを考えていたフィーリティアであったが、礼拝堂が見えると、中に入ることにした。


 そうして祈りを捧げると、レベルとスキルポイントが表示される。


 レベル51 320


 おそらくレベル60以上はある魔王メザリオを倒したことで大きくレベルが上がっていた。そしてスキルポイントが溜まったため、ようやく次のスキルが取れる。


 フィーリティアは300ポイントを使用して、スキル「光の海」を取る。これは魔力を消費して勇者の能力を上げるものだ。


 かつて酔っ払いの勇者アルードが使ったときに影響を受けてからずっと取りたいと思っていたものだ。そして図らずも魔王メザリオ討伐において、そのスキルの恩恵を受けることになった。


 そのときの力強さの正体を知るためにも、このスキルを確かめたいと思ようになったのだ。


 けれど、フィーリティアが元々親しくしていた勇者はアルードくらいのものだし、この都市には彼女の実験を手伝ってくれる者もいないだろう。


 それゆえに、フィーリティアがこのスキルを得られたのはちょうどよかった。


 彼女は早速、礼拝堂を飛び出すと都市の外に向かっていく。魔王を倒したばかりだというのに、またしても魔物がいるところに行こうとするフィーリティアに、帰ってきた勇者たちは呆れ気味だ。


 けれど、フィーリティアはいてもたってもいられなかった。力がある勇者になれば、それだけできることも増えるから。


 そうして外に出ると、彼女は光の矢を放ってみる。狙い通りに、はるか遠くにいた昆虫の魔物ホワイトラーヴァをあっさりと貫いたが、それだけの効果しかない。あたかも同時に使用したと錯覚するほど早くに発動することはできなかった。


 そして彼女は深呼吸してから、光の海を発動する。

 すっと、なにかが失われていく感覚があった。これが魔力を使う感覚なのだろう。


 これまで魔力を消費しない勇者のスキルしか使ってこなかったため、使い勝手は違っている。けれど、魔力も豊富に持つ勇者であれば、そこまで問題もなかった。


 光に包まれると、フィーリティアは身体能力が上がっているように感じる。そして光の矢を使用すると、ほんの一瞬で発動することができた。


 感覚としては、慣れたというのが一番近いかもしれない。

 ごく自然に、手足を動かすかのように用いることができるのだ。


(勇者のスキルに集中力が必要だったのは、慣れていなかったから?)


 それらのスキルを使うのには、すべて集中力を要すると考えられていたが、もしかするとそういうことではなかったのかもしれない。


 集中していなければ、スキルを発動させる手順でノイズが混じり、うまくいかないだけだったのではないか。手足を動かすのに悩まないように、スキルを使うのにも完全に慣れきっているのなら、集中せずとも、ほとんど意識することもなく用いることができるのではないか。


 集中力も上がっているのは違いないが、勇者の適性はスキルの技術をも上げるのだろう。そしてその効果も。


 フィーリティアは光の矢を用いているうちに、確信を得る。


(やっぱり、勇者の適性で身体能力だけでなくスキルの能力も上がってる。そして、光の海の効果も)


 勇者の適性は光の海の効果において、他人に与える影響のみならず、自分が受ける影響にも補正がかかるのだ。そして元々自分自身の能力に補正をかける効果もある。


 たとえば仮に、「光の海は能力を100%上げるもので勇者の適性がスキルの効果を2倍にする効果がある」なら、フィーリティアの光の海は、他人には200%、そして自分には400%の効果があるということになる。さらに勇者の適性は自分の能力そのものにも影響があるのだから、普通の勇者の800%の能力上昇を持つことになるということだ。


 とはいえ、さすがにそこまでの差になってはいない。

 勇者の適性が光の海を自分に使用する場合、二度補正がかかるため強くなっているのは確かだが、元々勇者の適性はそこまで大きな影響を及ぼすものではないからだ。そんなに優れた固有スキルであれば、話題になっていたのは間違いない。


 そしてもう一つ問題がある。

 たとえ勇者の適性が能力を2倍にするものだったとしても、光の海の効果が能力を10%しか上げないものだったなら、そのスキルによる恩恵は4倍でもせいぜい40%にしかならない。元々の2倍と合わせても2.8倍だ。


 光の海の効果は魔力の量や訓練などによって左右されるようだから、取り立てのフィーリティアではうまくできない。


 けれど、このスキルをうまく活用すれば、途方もない能力を引き出すこともできるかもしれない。


 フィーリティアは可能性を見いだすと、再び都市に戻っていく。

 魔王メザリオを倒したため、その話をしなければならないのだ。


 面倒だと思うフィーリティアだったが、倒した本人なのだから仕方がない。


(フォンくん。待っててね。もうすぐ行くから)


 彼の姿を思い浮かべると、フィーリティアは会議の場に赴く。すると、そこにはすでに勇者たちが集まっており、彼女が最後だった。


「おせーぞ、フィーシエ。なにやってたんだ」

「す、すみません……」


 フリートは待たされて機嫌がよくないようだ。それゆえにフィーリティアも名前を訂正する気分にもなれない。


 そしてそんな雰囲気に周りの勇者たちは怯え、フィーリティアに不満そうな視線を向ける。


 しかし一方で、フィーリティアも「どうかしている勇者」に片足を突っ込んでいた。だから面と向かって文句を言う者もいない。


「お集まりいただき、誠にありがとうございます。魔王メザリオ討伐、お疲れ様でした」


 一人の男が頭を下げる。国から派遣されてきた文官だろう。


「たいした疲れてもいねーけどな。こいつら、ろくに戦っちゃいねえし」


 フリートはそんな調子だから、勇者たちはすっかり萎縮している。

 男はそんな様子を見ながら続ける。


「これで北の脅威はひとまず去りました。しかし、魔物がいなくなったわけではなく、北東には魔王セーラン、南には魔王フォーザンが控えています。当面は戦いが続くでしょう」


 そう告げられるなり、フリートは立ち上がった。


「そいつらはほとんど表に出てこねえからつまらない。見つかったら連絡をくれ」


 ユーリウスだけが彼に声をかける。


「フリート。どこに行くんだ?」

「飯食って寝るんだよ。魔王もぶっ殺したんだ。やることもねえ」

「そうか。……では私もそれまでは自由にさせてもらおう。失礼する」


 好き勝手な勇者二人はそうして会議の場から去ってしまった。

 実際、魔王討伐という大きな仕事でもないなら、彼らがいないほうがうまくいくことのほうが多いかもしれない。


 残された勇者たちはほっと一息ついた。

 それから今後の予定を告げられることになる。


「魔王の調査は現在行われております。発見し次第ご連絡いたしますので、それまではご自由にお過ごしくださいませ。また、遠方へ外出されます際は、お声がけください」


 ひとまずは慰労するということになったようだ。

 だからフィーリティアは、西の都市に戻ろうかと思いながら、都市の者にあらかじめ聞いておく。


「カヤラ領内の現状はどうなっていますか?」


 勇者たちは自分たちの仕事でもないと聞いていなかったが、そもそも、フィーリティアが開拓村から逃げてきたのは、カヤラ領が三方から魔王の攻撃を受けたからだ。そのような状況が続いているなら、開拓村に着手しても仕方がない。


「南の魔王はあまり積極的に攻めてきてはおりませんが、東寄りの土地では、ヘルハウンドにより襲われており、数日前に討伐されたと聞いています。また、水棲の魔物に奪われた東の都市は、本日奪還作戦が行われる模様です」


 そう聞いたフィーリティアは、かつてこの土地がカヤラ国であったときに、アルードたちと調査したのを思い出す。


 そしてそのときに、水棲の魔物や魔獣の動きを察知できていれば、このような現状になっていなかったのではないかとも思う。


 人任せにするのではなく、自分で動いてもいい。


「では、私はそちらに向かいます。なにか手伝えることはあるでしょう」


 もう二度と、フォンシエが築き上げたものを壊される心配がなくなるように。

 フィーリティアは東へと向かうことにした。



    ◇



 そしてその頃。

 フォンシエは都市奪還作戦に参加する兵たちの前に立っていた。


「これより、魔物どもに奪われた土地を取り返す!」


 彼の宣言に呼応した兵たちが勇ましく声を上げた。

 そして都市の奪還に当たるものと、その上流をせき止めるものに別れて移動し始める。


 あのヒュージタートルのところに攻め込むフォンシエが率いている部隊には、戦士や狂戦士など、腕力に優れた者がいる。


 彼らと比較するとフォンシエは小柄に見えるが、誰一人として侮るものはいなかった。

 すでに彼の扱いは、勇者同然であったから。


 彼の背中を見ながら、男たちは東へ向かっていく。


 そうして部隊を率いるフォンシエは、人々の前に立つプレッシャーを感じてもいなかった。すべきことは一つ。魔物を切ることだけだと。


(さあ、魔物ども。覚悟しておけ。俺がお前たちを倒してやる)


 フォンシエは探知のスキルを用いて敵を探りながら、東へと向かっていく。そして水気が空気に含まれてくると、ヒュージタートルのいる湖が見えてきた。


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