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66 勇者四人と村人一人

 早朝、日の出とともにフォンシエたちは村を出ていた。

 都市からの増援はまだ来ていないため、彼らがいない間は傭兵たちになんとか頑張ってもらわねばならない。


 勇者四人と村人一人はメタルビートルのところへと向かっていく。頼りになるのはフォンシエの方向感覚のみ。


 それゆえに彼が先頭を行くのだが、当然魔物に出くわしたとき最初に目標にされることになる。


 が、勇者たちが出る幕はない。


 フォンシエは魔物が気づく前に飛び込んで幻影剣術、あるいは光の剣で切り殺し、遠くに見つければ光の矢で撃ち抜く。魔術も使えるが、音が響くため控えていた。


「おいおい、これが村人ってマジかよ……俺ら、光の翼すら取ってねえってのに」


 ヨージャは光の翼まで取得していたが、ヴェリエもティモも光の盾までしか取っていない。


 しかし、彼らは別に弱い勇者というわけではない。スキルポイントボーナスが多くないだけで、固有スキルが別にあるのだ。


 ヴェリエは太った体に相応しい「筋力増強」があり、武器も合わせて大剣だ。光の剣で威力を上げられる勇者では、そういったものを使うのは珍しい。


 そしてティモは「敏捷性強化」の固有スキルを持っている。光の翼こそないが、かなり素早く動き回り、相手を翻弄することができた。


 ヨージャも「耐久力向上」の固有スキルがあり、光の翼も取っている。


 けれど、誰も光の矢までは取っていなかった。それゆえに、平気でそのスキルを交えて敵を倒していく村人は、とても異質に思われた。


 フォンシエはけれどなにも気にすることなく、淡々と魔物を仕留めていく。ある意味、彼の最も優れた才能は、そうした戦いを確実にこなしていく精神性だったかもしれない。


 しばらくはそのような状況が続いたが、やがてフォンシエの手が入っていない遠方までくると、彼らものんびりしていられない。


 あちこちで魔物が出るのだ。

 フィーリティアは狐耳を動かして積極的に敵を探し出しては光の矢で貫く。残りの勇者たちは、大きな魔物が出ると協力して倒していた。


 この三人、性格的にはさほど合わないのだが、結構長い付き合いらしく、連携はうまく取れている。


 そんなこともあって自然と、フォンシエとフィーリティア、その他勇者たちという二つのグループに分かれつつあった。


「もうそろそろ、メタルビートルも見えてくるはずだ」


 フォンシエが告げると、勇者たちも気を引き締める。

 ここまでは、特にフォンシエとフィーリティアの二人で困るような状況ではなかったのだ。しかし、上位職業の者でも苦戦するメタルビートルが複数いるとなれば、光の剣がどうしても求められる。


 なにしろ切れないため、狂戦士のスキルで力任せに叩きつぶすような形になるのがほとんどなのだ。


 そんな魔物がいるところへと、彼らは慎重に進んでいく。

 そして、木々の合間に黒光りする影を捉えた。


(いた……!)


 フォンシエが合図を出す前に、誰もが剣を抜いていた。


 そこにいるのは、数体のまとまったメタルビートルだ。南に向かって動いているが、そこに魔王の姿は見られない。


 ならば、急襲すべきだろう。敵は多いが、好機ではある。

 念には念を入れて周囲を警戒。そして覚悟を決めると一気に飛び出す。


 一番後ろの二体のメタルビートルが、ややほかとは距離がある。片方は勇者たちに任せ、フォンシエとフィーリティアは一体に狙いを定める。


 フォンシエは気配遮断のスキルを用いて、一気に敵の背後に迫ると、光の剣を瞬間的に使用して後肢を叩き切る。


 バランスが崩れたところに、フィーリティアが光の翼で一気に飛び込んでくる。そして剣を一閃。


 数本の足を一気に切り裂き、もはや敵が動けなくなる。

 同時にフォンシエは回り込み、すべての足を断った。


 羽を広げて飛び立とうとすると、フィーリティアが光の矢で腹から背へと貫く。

 そしてフォンシエは幻影剣術を用いて敵を突き刺し、鬼神化のスキルを用いて膂力を強化し、敵をあたかもひっくり返すかのように動かす。


 すると、フィーリティアは光の剣を用いて敵の羽を切り裂いた。動けなくなった敵の頭を、フォンシエは光の剣で切り落とす。


(よし、まずはこれで一体……!)


 二人がそうして仕留める中、ヨージャはメタルビートルを引きつけ、ティモが動き回って足を落とし、ヴェリエが大剣による一撃で頭を無理矢理叩き落としていた。


 このような硬い魔物に対しては、その大剣がなによりも有効だった。


 二匹が仕留められた時点で、メタルビートルは敵の接近に気がつき羽ばたいて、距離をある程度取ったところから威嚇してくる。


 羽音が包囲するように動き始めると、フォンシエはすかさず「中等魔術:炎」を発動させる。敵が分断されるように、それらの中心で発動させていた。


 爆発音とともに木々が折れ、メタルビートルも吹き飛ばされていく。


「今だ!」


 孤立した一体を見つけると、ヨージャたちが群がっていき、そしてフォンシエはこちらに気がついて迫ろうとしている一体へと狙いを定める。


 今のところ、状況を把握しているのはたったその一体なのだ。ならば、それを凌げば、いや、そいつを打ち倒せば、合わせて四体の敵を仕留められることになる。


 光の翼を用いてフォンシエは敵へと飛び込む。が、うまく制御がきかず、敵へとぶち当たる形で距離を詰めた。


 メタルビートルもフォンシエもともに、予想外の至近距離に、咄嗟に攻撃を繰り出す。


 昆虫の前足が彼の頭目がけて放たれると、衝撃の瞬間に神聖剣術を用いて受け流す。が、相手のほうが足の数は遙かに多い。


 あたかも彼を掴み、圧死させるかのようにそれらの足が迫ると、フォンシエは呼吸を整える。


 そして「神剣一閃」のスキルを発動。

 弧を描くような軌跡は、黒い影を振りまいていた。


 幻影剣術により強化された一撃は、メタルビートルの足を切り裂いていく。が、一番太い前肢にぶち当たると、そこで弾かれてしまう。


(くそっ。さすがに切れないか……!)


 勇者のスキルはただその一つを使うだけでも難しく、ほかのスキルと併用すれば、成功する確率はぐんと下がる。


 それゆえに、確実にいける幻影剣術との組み合わせを用いたが、魔力の消費は大きく、そして威力も光の剣には劣る。


 敵の足すべてを奪うには至らなかったため、フォンシエはさっと後退する。そして入れ替わるように飛び込んでいったフィーリティアは、光の剣で敵の頭を貫いた。


 それでもなおメタルビートルは動き続けるが、幾度となく剣が翻ると硬い外骨格を細切れにされ、原形をとどめてすらいなくなった。


 ヨージャたちもしっかりと役割を果たし、ここまでは想定どおりにきた。

 しかし、五体のメタルビートルがこちらに狙いを定めてきていた。


「もう、数で押さえ込むのは無理そうですね」


 フィーリティアが敵の集団を見て告げると、ティモがおどける。


「一人一体、仕留めりゃいいだけだ。簡単なことだろ?」

「そう言って油断する者から、命を落とすことになるんです」

「へいへい、ヨージャは真面目なのはいいが、もう少し遊び心があったほうが……いや、いつも遊びに狂いすぎているくらいか」


 これ以上、ギャンブル狂いになられても困る。

 ティモは追求を避けて、代わりに剣を敵に向けた。


「それでは、皆さんお願いします」


 村人のフォンシエが彼らに告げ、それから敵を見据えた。

 やがて、敵が勢いよく向かってくる。強力な角の一撃が迫ってきていた。


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