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6 市民ギルド

 田舎者のフォンシエには、大きな都市の光景はすべて珍しく感じられた。

 家々だってレンガ造りだったり、集合住宅だったり、コナリア村の掘っ立て小屋とはまるで違う。


 どこもかしこも賑やかで、あちこちの店で昼食を取っている光景が見られる。

 しかし、フォンシエには食事に金を使う余裕はなかった。


 なんせ、田舎の村では自給自足が常であり、貨幣が普及しているとは言いがたい。

 それに都市で仕事にありつけずに、長く滞在することになるとは思っていなかった。


 空腹感を抑えるべく、近くの店で安くて硬いパンを買ってかじりつつ、通りを進んでいく。


 とりあえず大きな通りに礼拝堂があるだろう、という雑な考えだ。


(……魔物の影響なんて、どこにもありゃしないんだな)


 フォンシエはそう思わずにはいられない。

 ここにいる人々は市壁に守られて、外のことなど知らずに生活している。


 もちろん、魔物が出て討伐隊が結成されれば税金が増えたり、間接的に関わってくるのは間違いないのだが。


 小さな村で、魔物が出れば村人総出で戦った経験もあるフォンシエからすれば、どうにも彼らが呑気に見えたのだ。


 やがて、向こうに大きな建物が見えてきた。

 看板には市民ギルドと書いてある。


 そこには裕福そうな婦女から年老いた貧相な老人まで、様々な人が出入りしていた。

 フォンシエもそこに足を踏み入れると、広々としたホールに所狭しと掲示板が設置されていた。


 どうやら、市民からの依頼が張り出されているようだ。

 さっと眺めていくのは、請負人だろう。


 依頼にかかる時間や仕事の種類、金額や募集内容などによって分類されているようで、人によって見る場所が違っている。


 とりあえずフォンシエは受付に行って、手続きを行うことにした。


「すみません。仕事がしたいのですが」

「はい。どこのギルドに所属しておりますか?」

「いえ、ギルドには所属していません」

「それですと、お仕事のほうは少々厳しい感じになってしまいますね……」


 受付嬢は困ったように眉をひそめた。


 しかし、仕事がないというわけでもないようだ。条件が悪くて買いたたかれているようなものがほとんどだそうだが。


「では、登録をお願いします。すぐに済みますので」


 書類を差し出されると、フォンシエは筆を走らせ、項目を埋めていく。

 それが終わると、早速仕事を探し始めた。


 見れば、納屋の修理だとか、家畜の世話だとか、雑用ばかりだ。


 そもそも、魔物が関わってくる依頼というのは多くないのかもしれない。始末しきれない魔物が出たなら、都市から派兵されるだろうから。


 さて、そうしていると、一枚の依頼が目にとまった。


 私有林に住み着いたコボルトリーダーの討伐だ。やつらの存在があるため、採取ができなくなり困っているらしい。


 コボルトは犬面の魔物だ。力はゴブリンと大差ないが、上位種であるコボルトリーダーがいれば、統率が取れている可能性もある。


(……だが、都合がよくもある)


 多くの魔物がいるならば、一気にレベルを上げることもできよう。

 弱い魔物でもレベルを上げられるフォンシエにとって、雑魚であるコボルトがわんさかいる状況は望ましかった。


 報酬はあってないようなものだ。一人で行くには危険があり、かといって集団で行くとすればまったく割に合わない。


 だからこの依頼はいつまでも残っていたのだろう。


(パーティか。誰も組んでくれやしないだろうな)


 そんな諦めもあったが、わざわざ強い相手に挑まずとも、レベルを上げていくことができるため、時間あたりのレベル上昇を考えれば一人のほうがいい。


 それに、フィーリティア以外の人物と合わせて戦うことができる気もしなかった。


「これにします。手続きはどうすればいいでしょう?」

「依頼主を介さず、すべてこちらで行いますので、こちらにサインをいただけますか」


 フォンシエは言われたとおりに済ませると、早速、仕事に取りかかることにした。

 けれどその前に、


「すみません、もう一つ聞いてもいいでしょうか。この近くに礼拝堂はありますか?」

「はい。通りを中心に進んでいくと、小さなものがございます」

「ありがとうございます。では、早速行ってみますね」


 言われたとおりに進んでいくと、小さな礼拝堂があった。

 聞いておかなければ、見落としてしまいそうなものである。


 早速、人のいない礼拝堂に入ると、祈りを捧げる。


 レベル1.30 スキルポイント80


 道すがらオークを倒しただけだが、それなりにレベルは上がっている。

 次に取るべきは、集団戦で必要となるスキルだ。


 しかし、一対多に向いたスキルはどれも要求スキルポイントが高く、前提となるスキルを取っている必要があるものも多い。


 となれば、次善策で遠距離から仕掛けられるものがいい。


 狩人のスキルならば弓を用いて遠距離から仕留めることもできるが、剣と一緒に弓まで持っていくのは少々かさばる。


 それにじっくり狙いをつけるには、かなりの距離と時間が必要だし、多数を相手にするには向いていないだろう。


(魔術師にするか)


 魔術を使うにあたって力を増幅する装備があるが、なにもなしでも発動することはできる。


 距離はそこまで稼げないが、剣を使いながら魔法が使えるなら都合がいい。

 フォンシエは早速、魔術師のスキルを取得する。


「初等魔術:炎」を取ると、スキルポイントが50消費される。


 これにて残りは30ポイント。


 僅かでも身体能力が上がるものを探していく。すると、武道家のスキル「格闘術」が身体能力のほか、近接格闘における能力が上がるようだった。


 ホブゴブリンに力負けしたことを思えば、悪くない選択だ。

 フォンシエは迷うことなくスキルを取得する。


(よし、やるか……!)


 魔術がどの程度の威力かは使ってみないとわからないが、最悪、剣技だけでなんとかすればいい。


 街を進んでいき門を出ると、あらかじめ確認しておいた林へと向かっていく。


 魔物の被害があるとはいえ、農地を市壁で囲むわけにもいかないため、畑を耕している農民を守るのは、心許ない柵ばかりだ。


 彼らを眺めながら、外れにある林に到着する。

 私有林と聞いていたから小さなものだと思っていたが想像よりはずっと広く、はした金で依頼を受ける人物がいないのも当然だと納得する。


 こんな土地を持っていることから、結構な資産を持っているのだろうが、なかなかにケチである。


 フォンシエは警戒を強めながら、林の中を進む。

 そして付近から見えなくなった辺りで、軽く炎の魔術を使ってみた。


 体の中から力が抜けていく感覚がある。

 魔術を用いるには魔力と呼ばれる力を消費するとされていた。


 そして彼の手のひらの近くには、火球が浮かび上がっている。

 これは通常の炎と異なり燃え広がることがないため、こうした林でも問題なく使うことができた。


 意識を集中させると、炎は彼の手を離れて飛んでいき、近くの地面に当たって衝撃で土を舞い上げた。


 なかなかの威力だが、練習不足のせいで、狙いが定まらない。

 それに村人レベル1では魔力も乏しいらしく、多用はできそうもなかった。


 魔力がなくなっても、代わりに体力を消費して魔術を使うことができるが、それでは本末転倒だ。


 それらのことを念頭に置きながら進んでいくと、うろうろしているコボルトが見えてきた。


 どうやら警備しているらしく、警戒を強めている。

 幸いにして一体しかいないため、フォンシエは素早く移動を開始。


 隠密行動のスキルによって、敵が気づくことなく背後に達すると、剣を一振り。


 すっかりこの戦法にも慣れたもので、しくじることもなくなっていた。とはいえ、毎回剣を握ると緊張せずにはいられないのだが。


 それから証拠となるコボルトの一部分と魔石を回収し、次の目的へ。


 そうして敵を倒しながら、コボルトが多くなってくるほうへと向かっていくと、やがてコボルトが十数体いるのが見えてきた。


 やつらの中央には、座ったまま槍を手にしている大きなコボルトであるコボルトリーダーの姿があった。


(見つけたはいいが、随分数が多いな)


 だからといって、逃げるわけにはいかない。

 フォンシエは策を考えると、すぐに実行に移すことにした。

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