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59 開拓を進め

 日の出からしばらくして、フォンシエは村に戻ってきていた。

 背嚢を担いでいるため、帰り道は魔物との戦いを避けており、そこまで時間はかからなかった。


 すでに村人たちは起きてきており、伐採も始まっている。

 村は徐々に広がっており、今は都市との間に道も作られ始めている頃だった。


 とはいえ、村はここに一つ作っておしまいというわけではない。いくつかの村を拠点にしていく予定なのだ。


 通常、村は半日以内に移動できる距離のうちにできるが、ここでは魔物も出るため、もう少し距離が近くなる。


 やがて発展して行くにつれ、大きな都市ができて、そちらに合わせて村々の規模や位置も変わってくるだろう。しかしなんにせよ、それはまだまだ先のこと。


「あ、フォンくん。お帰り。その荷物、どうしたの?」


 フィーリティアは朝から見回りをしていたらしく、靴が泥で汚れている。


「ちょっと都市まで行ってきたんだけど、新鮮な果実とか、毛布とか、保存食とか……必要なものもついでに買ってきたんだ」

「じゃあ一緒に食べようよ。朝ご飯もあるから」


 そうしてテントに戻ると、ルミーネが荷物をまとめていた。


「あれ、この場所使っていたらまずかったんですか?」

「いえ、ここから少し離れたところに数カ所村を作るそうなので、そちらに移動することになりました」


 あらかじめ村づくりの計画は知らされていたが、予定より随分早い。

 確かに言われてみれば、傭兵や木こりたちの姿がかなり減っている。すでに作業は進んでいるのだろう。


 魔王のいる領域に近づけば近づくほど危険は大きくなるため、できるだけ都市に近いところにとどまろうとする者もいるが、国からの援助の額を考えると、そうした前線にいるほうが生活は豊かなようだ。


 といっても、こんな辺境では金の使い道もないし、物資も豊かとはほど遠いのだが。


 なんにせよ、そういうことになったようなので、フォンシエもさっさと朝食を済ませることにした。


 フィーリティアとルミーネはすでに済ませているため、フォンシエが朝食を口にしている間、腐りやすくてこちらではあまり得られない果実などを優先的に頬張る。


「フォンシエさん、ありがとうございます」

「いえ。それより移動は大丈夫なんですか?」

「ええ、昼頃には移るそうですよ。フォンシエさんはどうするんですか?」


 このままここに残ってもいいが、魔物を倒すことを考えれば、遠くのほうが都合はいい。それにきっとそちらに行ったほうが、役に立てるだろう。


「一緒に行きますよ」

「それはとても頼もしいですね」


 ルミーネは嬉しげに黒の尻尾を振っていた。

 フォンシエは村人となってからは、頼もしいなどと言われることもあまりなかったため、なんだか気恥ずかしくなってしまう。


 けれど、褒められるのは悪くない。


 それからしばらくして、傭兵が連絡のために来ると、ここにいる住人の多くが移動することになった。


 フォンシエは傭兵たちとともに、ルミーネのほか数十人の移住者を引き連れて森の中を進んでいく。すでに傭兵たちが辺りの魔物を駆除し、危険もかなり減っているのだが、それでも油断はできない。


 案の定、フォンシエは早速魔物を見つけてしまった。


「ちょっと待っていて。見てくる」


 不安を与えないようにそう告げたのだが、フィーリティアは察してついてきてくれた。

 木々の中をかき分けていくと、ごろごろしたホワイトラーヴァが十数体。


「初等魔術:炎」を使えばあっさりと駆除できるが、爆発音は立てないほうがいいだろう。

 フォンシエが剣を抜くと、フィーリティアも光の刃を振るっていく。


 瞬きをする程度の時間で片づくと、再び二人は移住者たちのところに戻って、移動を再開するのだった。


「幼虫のうちに倒せれば、ほとんど被害もなくせそうだね」

「そのためにも、見回りを頑張らなくちゃっ」


 フィーリティアが尻尾を揺らしながら張り切る。フォンシエも、誰一人被害に遭わねばいいと思う。


 かつて、彼が所属していた傭兵団は壊滅した。

 けれど今は状況が異なる。それに、彼自身も強くなった自負があった。


 そうして何度か魔物とは遭遇したものの、無事に次の村へと到着する。移住者たちはほっと一息。


 そこでフォンシエはふと、伐採が早い理由に気がついた。

 傭兵の中に伐採を手伝っている者がいるのだ。戦闘のためのものとはいえ、刃の切れ味を上げるスキルがあれば、作業も楽だろう。


 たぶん、元々そうした田舎での生活をしていたが、職業を得たことで傭兵に鞍替えしたのだろう。

 フォンシエのように、職業を得る前から魔物討伐を行っていた者は多くない。


 さて、そうなると彼もまた、邪魔な切り株を「初等魔術:土」で掘り起こすことにした。


 そうして魔力を使用する一方、さらに追加で「魔力回復強化」を使用する。

 戦闘時ならともかく、村での作業なら、瞬間的に大量の魔力を使うこともなかろう。


 スキルをどんどん使っていったフォンシエは、あるとき木の根のあたりからムカデなどがわらわらと溢れ出てきて、思わず後じさりする。


 けれど、これはいい機会かもしれない。

 蠱毒のスキルを使用すると、それらの虫の近くで魔力が高まり、動きがおかしくなる。そして虫同士が争い始め、強い虫がぶくぶくと太っていく。


 最後の一体になると、フォンシエは剣でとどめを刺した。

 剣の周囲にもやのようなものが取りついてくる。これを敵に投げれば攻撃に使え、放置すれば魔力になるようだ。


 魔力の回復を確認したフォンシエは、


(……多少面倒だけど、この森くらい虫がいれば便利かもしれない)


 と、作業に精を出すのだった。


 しかし、彼の職分は傭兵。すぐに新しい仕事が入ってくる。


「向こうでレッドアントの巣が見つかった。まだできたばかりだが、今のうちに叩かねえと、あっという間に増えちまう」


 レッドアントは強い魔物ではないが、巣穴を掘って、そこを拠点にしてしまう。そのまま放っておけば、レッドアントの女王は次々と産卵して働き蟻を生み出し、この一帯が支配されるだろう。


 人がこうして移住者を送り出したように、昆虫の魔物もテリトリーを取るべく、刺客を送ってきたのかもしれない。


 あるいはもっと単純に、より深い領域で魔物が増えすぎたため、こちらに溢れてきたか。


「勇者殿。ご助力願えませんか?」


 フィーリティアの戦いを見ていたらしく、勇者と知っている傭兵が協力を求めてきた。フィーリティアにも断る理由はない。


「では、行きましょう」


 村を守る者と、戦いに赴く者の二手に分かれ、傭兵たちは移動し始める。

 いかなる魔物だろうが、勇者がいれば問題なく片づくだろう。彼らはそんなことを思っていたに違いない。


 そして実際、フィーリティアがいれば困るような相手でもなかった。


 フォンシエとフィーリティアは巣に辿り着くと、木陰から様子を窺う。働き蟻はまだほとんどいないらしく、ときおり巣の外に出てくるのが数体いるだけだ。


 レッドアントは膝くらいまでの高さしかないが、その顎は強力で、油断していれば肉を食いちぎられかねない。


 フィーリティアが後ろに視線を向ける。傭兵たちが彼女の合図を待っていた。


「突撃します!」


 彼女は宣言とともに、光の翼を用いて飛び出した。

 そして迸る光は、二体のレッドアントを一瞬にして断つ。


 遅れて続いたフォンシエは、なんのスキルを使うこともなく、丁寧に一体仕留める。

 それから傭兵たちがどっと襲いかかると、レッドアントはあっさりと屠られていった。


 さて、ここからが問題になる。

 レッドアントの巣は深くないとはいえ、中には多くの個体がいるだろう。どこから襲われるかわからない。


 けれど、誰も怯えてはいない。輝く勇者の光が、道を照らし出していた。


「さあ、レッドアントを倒しましょう」


 きっと、レッドアントからすればこれは侵略なのだろう。

 だけど敵と定められている以上、これ以外の方法はなかった。


 フォンシエはフィーリティアとともにレッドアントの巣へと足を踏み入れた。


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