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5 手探りのまま

 翌日、フォンシエが目を覚ますと、階下が騒がしかった。

 そちらに近づいてみると、どうやら事件があったらしいことがわかる。


「立ち入り禁止って、どういうことなんですか!」

「ですから、我々のほうで調査を行うため――」


 そんな言い合いを聞きながらフォンシエは、


(思った以上に早かったな。昨晩、狩りに赴いていてよかった)


 と感じずにはいられなかった。


 どこかのギルドに所属していれば、都市を移った先でも仕事を斡旋してもらいやすいかもしれないが、彼にはそんな当てがない。


 ひたすら魔物を倒すのでもいいのだが、それだと懐具合が少々心許なかった。

 なんにせよ、先立つものは金である。ホブゴブリンの魔石はいい値段で売れそうだった。


 状況を把握すると、彼は喧噪を肴に軽く朝食を済ませ、宿を出る。


 それから礼拝堂に入ると、まだ誰も来ていなかった。


 おそらく、朝出かけて、日没前に帰ってくる者が多いため、余裕を持ってその日のうちに来ることができるからだろう。


 フォンシエは女神マリスカに祈りを捧げる。


 レベル1.22 スキルポイント 170


 どうやらホブゴブリンを倒したのが大きいようで、レベルが大きく上がっていた。

 この調子で上がっていくのなら、スキルをあまり遠慮せずにとってもいいだろう。


 いずれ要求スキルポイントが多い職業のスキルを取ろうと思うが、まずは現状を改善するほうが先だ。


 聖職者のスキル「癒やしの力」を70ポイントで取得。これにより、怪我をした際などの治癒能力が高まる。


 それから、暗殺者のスキル「隠密行動」に100ポイント。敵に気づかれにくくなり、素早く移動できるようになる。


 すべてのスキルポイントを使ってしまったが、単独で狩りを行うのには望ましいスキルを取ることができた。


 フォンシエはその足で、魔石を売っている店に行くと、ホブゴブリンの魔石を換金する。


 魔石は市民が手軽に購入できるよう、あちこちで販売されているため、値段さえ気にしなければ時間はかからなかった。


(さて、これからどうするかな……)


 まず、この街を出ることになるだろう。

 行き先としては、田舎のほうか、それとも王都に向かうか。


 王都に近づけば近づくほど治安はよくなり、仕事も得やすくなる。しかし、魔物はあまり出ないといってもいいだろう。


 反対に田舎に行けば仕事は少なくなるが、あちこちに放置されている魔物がわんさかいるはずだ。


 どちらがいいかは判別がつかないため、とりあえず情報を集めることにした。

 といっても、どうやって情報を仕入れればいいのかも手探りなのだが。


 なんせ、フォンシエがこの街で知っている場所なんて、礼拝堂と宿屋くらいしかない。


 ということで礼拝堂前にて、祈りを捧げてきたらしい男に声をかけてみる。


「すみません。おたずねしたいのですが」

「ああ? ……なんだ新米か」

「はい。近くの森が立ち入り禁止になって、どこに行けばいいかと困ってまして……」

「それならギルドで聞けばいいだろう」

「それがその……村人でして……」


 フォンシエが言うと、男は仕方なさそうに頭をかくと、以外と面倒見がいいらしく答えてくれた。


「ったく、しょうがねえなあ。この街じゃ、あの森以外に魔物の住処はねえから、仕事もなくなるだろうな。ギルドに入ってないんじゃ仕方ねえ。この近くだと、西に行った街に市民ギルドがある。そこに行くのがいいんじゃねえか。向こうじゃ魔物も出るらしいぜ」


 市民ギルドは、市民が他のギルドに依頼などを出す際に不利益を被らないよう、交渉役を買って出た人々によって作られたものだ。


 それゆえに、組合として仕事を請け負うというよりは、窓口としての性質が強い。

 そこならば、村人であっても仕事が受けやすいだろう。


「ありがとうございました!」

「おう、ほどほどに頑張れよ!」


 フォンシエは頭を下げると、早速、宿屋に戻って準備を済ませる。

 少年らはまだなにかを言い合っているようだったが、フォンシエは構わずに宿の主人に尋ねた。


「西の都市に行きたいのですが、どれくらい時間がかかりますか?」

「そうだねえ……馬車で半日ってところかな。乗り合い馬車があるから、それがいいかと思うけれど……」

「なるほど、ありがとうございます。一日お世話になりました」


 フォンシエは話を聞いていたが、馬車を探すこともなく、都市の外に飛び出した。

 それから門番を見つけると、


「この外套、ありがとうございました」


 と、返却するのだ。

 門番は外套を受け取りつつ、フォンシエをまじまじと眺める。


「森なら行けないぞ」

「はい。ですから西へと行こうと思いまして」

「馬車ならまだ時間じゃないが……」

「お金もないので、走っていこうと思います。街道も続いていますから」


 呆れる門番の視線を受けつつ、フォンシエは駆けていく。

 野盗の心配がないわけではないが、わざわざ一人で走っている、金もなさそうな人物を狙うこともあるまい。


 そうしていくと、隠密行動のスキルのおかげか、心なしか走るのが楽になっている。

 とはいえ、長く走り続けていると疲れてくるのはどうしようもないが。


 一息つこうと歩を緩めると、遠くの草陰に見えるものがあった。

 豚の頭を持った、人型の魔物オークだ。


 ゴブリンよりは強いが、そこまで警戒すべき相手ではない。力があるものの、動きは鈍いのだ。


 すぐ近くに別の個体がいないかと探してみるも、見つからない。はぐれた個体なのか、それとも目的があってここに来たのか。


 旅人を襲って味を占めた可能性もある。


(……なんだろうと、大事なのは倒せるかどうか。よし……!)


 フォンシエは息を整えると、ゆっくりとそちらに近づいていく。背丈は低いが草木があるため、気づかれないで近寄ることも可能だ。


 隠密行動のスキルが功を奏したようで、敵に気づかれることなく一気に接近。すらりと剣を抜いた。


 そして背後から音もなく飛び出すと、一閃。オークの首が落ちる。


 フォンシエはすぐさま、物音に反応した魔物がいないかと探るが、そのような気配はなかった。


 オークから生じた魔石を拾い上げると、すぐにその場を離れる。

 せっかく綺麗にした衣服に返り血がついてしまった。


 残念に思いながらも、すぐにその考えを振り払うことにした。なんせ、進んでいくとオークはいくらでも見つかるのだ。


 こんな街道でわざわざ魔物を倒してやる善人などいないということなのかもしれない。

 なんせ優れた兵は前線に行っているだろうし、そうでなくとも、報酬もなしにやるのは割に合わない。


 しかし、それすらも丁度いいと、フォンシエは片っ端から仕留めていった。


 その結果、西の都市に辿り着いたときはすでに血まみれになっている。

 門番は彼の姿を見て眉をひそめた。


「お前、その血……」

「ちょっと、魔物に襲われまして」


 そんな言い訳がいつまで続くものかとも思ったが、案外すんなりと理解してもらえたのは、魔物が多くなっているせいか。


 なんにせよ彼は中に入ると、街の活気に驚いた。

 前の都市もなかなかだと思っていたが、田舎者だったからそう思っただけなのかもしれない。


 狩りをするときの外套を買うべきか、と思いながら、彼はまず裏路地に入って宿を探す。表通りのものは値段が高いと相場が決まっているのだ。


 相場もいまいちわからないが、手当たり次第に尋ねていって、なんとか泊まれそうなところに宿を取る。


 部屋に入ると、先日用意してもらった宿はそれなりに立派なのだった、と知ることになる。


 おんぼろの部屋で、ベッドはきしみそうだ。

 とはいえ掃除がされているだけマシである。


 血のついた衣服を洗うと、今回は替えの衣服に着替えて、フォンシエは街に繰り出した。


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