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48 首都侵攻


「進め! 臆するな! ここを落とせば戦いは終わる!」


 先陣を切る聖騎士の叫びに呼応する、数多の雄叫びが上がっていた。


 首都の市壁の前には、骸骨兵やグールが徒党を組み、そのすぐ近くにはボーンハウンドが控えている。


 それらの背後にはリビングメイルがずらりと居並んでおり、その上方には大量のゴーストが浮遊していた。


 しかし、なにより不気味なのは、最前列にいる人々の姿だった。

 死者もいれば、生者もいる。だというのに彼らは一様にうつろな目を向けてきている。


 このような状況では、それらを区別することは難しかった。


 死霊の魔物に支配されている場合、切ったとしてもペナルティがあるわけではない。すでに扱いが魔物と同じになっているのだ。仮にそうでなくとも、取りつかれて意識を奪われるほどレベルが低い者であれば、ペナルティなど微少だ。


 しかし、それと精神的な影響は別問題だ。

 多くの兵は人間を切ったことがない。この戦いでも、なんとか気絶させて死霊の魔物だけを殺すことがほとんどだった。


 いかに相手は魔物に囚われているとはいえ、人であることは間違いない。

 それに対して、本気で剣を振ることができるのか。躊躇せずに首を落とせるのか。


 きっと、多くの者が不安を抱えていただろう。

 けれど、この戦いに勝たねばならない。なんとしてでも、首都を奪還しなければならないのだ。


 真っ先に飛び出したのは、勇者たちだった。

 先陣を切るのは大剣を掲げた勇者アルード。今日は大事な局面ということで、素面しらふであった。


「よし、まずは門をこじ開けるぞ。邪魔なやつらをぶっ飛ばせ!」


 彼が言うと、近くにいたフィーリティアは本当にそれでいいのかと不安になる。するとヨージャが生真面目に説明してくれた。


「我々がすべきことは、力を示すことです。それにより士気を高めることが役割でしょう。ただでさえ、人を相手にしていて士気が下がりやすいのですから。できるだけ、派手にやればよいのです」


 作戦よりも、見た目を重視する。

 それは確かな実力が備わっていて、相手との力量差を見極められるという前提があってこそ成り立つものだ。


 アルードのほか、ヨージャやグロウは実力が確かだからいいが、フィーリティアなどそうでない比較的若手は、やはり不安が残るようだった。


 が、勇者の一人が光の矢を放つと、それに合わせてアルードは光の翼を使用して一気に切り込んだ。


 敵中に入ると、腰に下げた剣とは別に用意してきた大剣を一振りするだけで魔物を数体切り裂いた。身の丈よりも大きなそれを軽々と扱い、彼が通るあとには魔物一体すら残らない。


 そして彼を取り囲もうと死霊の魔物が動き出すと、ヨージャとグロウがすかさず背後を守る。


 フィーリティアはそこに加わり、骸骨騎士を薙ぎ払い、グールを叩き切り、ボーンハウンドを踏み潰した。


 彼女は余り派手な戦いは得意ではない。こぢんまりとまとまりつつも、そつのない剣技が特徴だった。


 しかし、ただ剣を振っているだけでも光の軌跡が右に左に動き回り、金色の尻尾を揺らしながら舞う彼女の姿と相まって幻想的にすら思われる。


 そして、その後方でヴァレンが叫ぶ。


「勇者に続け! 後れを取るな!」


 傭兵たちが駆ける中、フォンシエも比較的前方にいた。

 それゆえに、誰よりも早く「鎮魂の鐘」を使用する。からんころんと音が鳴ると、敵の動きが鈍くなる。そのときには、一番乗りの聖騎士が敵中へと飛び込んでいた。


 神聖剣術があれば、そこらの雑魚など問題にもならない。

 傭兵たちも一気に流れ込むと、ぞろぞろと続いていく。


 フォンシエはできるだけ魔力を使わないように基本的には「清めの力」を用いた剣で切り裂きつつ、ときおり破魔の羽で援護していた。


 新たに取った「神霊の加護」により、ほとんどの死霊の魔物はあっさりと仕留めることができる。だから最小限の魔力だけを使い、今は節約しておくべきだった。

 なにしろ、調子に乗っていれば村人の魔力はすぐに切れるのだから。


 フォンシエは次々と敵を打ち倒していく。

 だが、もちろん快進撃ばかりが続くわけではない。


 傭兵たちが市壁に接近した瞬間、降り注ぐものがあったのだ。それはゴーストが放った「初等魔術:炎」だ。


 火球は敵味方問わずに吹き飛ばしていく。


「ぐあああああああ!」


 爆発音に交じって傭兵たちの叫び声が上がる。入り乱れた状況で回避などできやしなかった。


 敵は死霊の魔物だ。それゆえに、肉体がバラバラになろうがそこまで問題はなかった。そして人が死ねばその分だけ、素材が増えることになる。


(くそっ……! やらせるか!)


 フォンシエは聖職者のスキル「聖域」を使用する。

 彼を中心に円が広がっていき、その中に入った炎は僅かに勢いを弱めていった。それにより、時間的な猶予が生まれる。


 フォンシエは魔物を盾にしつつ、衝撃で吹き飛んだ個体にとどめを刺していく。

 凌ぎきれないほどではない。しかし、このままでは魔力が――


「怯むな! やつらを狙い撃て!」


 後ろから続く狩人たちが射程内に入ると、号令が下された。

 一斉に放たれた矢は、市壁の上にいるゴーストどもを貫き、あるいは空を切りながら都市の中へと飛び込んでいった。


「キィイイイイ!」


 ゴーストが金切り声を放ち、やたらめったらと魔術を乱発してくる。

 そうなると、傭兵の集団にぶち当たったかと思えば、次の瞬間にはリビングメイルを吹き飛ばしている。


 攻撃の激しさに、このままでは共倒れになってしまいかねない。

 策を講じようとした瞬間、市壁の上に飛び上がる存在が複数。


 光の翼を纏った勇者たちだ。彼らは光の矢でゴーストを撃ち抜き、それが使えない者は飛び降りて、門をこじ開けた。


「よし、このまま中に入れ!」


 ヴァレンは邪魔をするリビングメイルを叩き切ると、自ら道しるべとなるべく突き進んでいく。勇者のほとんどが先に行ってしまった今、彼は確かにこの隊の隊長であった。


 フォンシエは聖域の使用を止め、彼のあとに続く。

 そうして都市の中に足を踏み入れたフォンシエたちは、首都の中心へと進んでいく。


 狩人たちは市壁の上に上がってゴーストを狩り、そうでない傭兵たちは、中に入ってしまえば市壁が機能するため、ひたすらに足を動かす。


 勇者が先駆ける中、傭兵たちが大通りを進んでいく。華やかだったはずの都市の面影はすでになく、荒れに荒れていた。


 あちこちから魔物が、そして死霊に操られた人が現れてくる。

 勇者たちは倒されることがないとはいえ、足止めを食らわずにはいられない。


 なかなか進むことができずにいたが、後ろからは次々と傭兵が都市の中に入ってきて、いよいよ最後の一人が門をくぐり抜けた。


「門を閉じろ!」


 数名の傭兵が力任せに引っ張ると、閉まろうとしている隙間へ、数匹のボーンハウンドが無理矢理挟まってきた。


「構うな! 閉じちまえ!」


 力任せに引っ張ると門が閉じて、ボーンハウンドの頭が千切れてごろりと落ちた。

 傭兵たちはかんぬきをかけて、背後から追撃がこなくなったことに安堵する。


 しかし直後、激しい爆発音が響き渡った。


「なんだ!? なにが起きた!」


 混乱しつつも傭兵は辺りを見回す。すると、爆破された家々によって、大通りの左右の道が完全に封鎖されていた。


 つまり、前後しか道がない。

 そうなった途端、今度は市壁の上でゴーストや外の魔物と交戦していた者たちが叫ぶ。


「おい! 向こうから魔物が押し寄せてきているぞ!」


 王城のあるほうから、すさまじい勢いで押し寄せてくる魔物がある。

 全身に腐肉をくっつけた四足獣、ドラゴンゾンビだ。


 たった一体でも強力なそれが、何十体と群れをなして迫ってくる。もはや敵味方の区別もなく踏み潰さんとする勢いだ。


 しかし、どこにも逃げ場なんてありゃしない。


「覚悟を決めろ! あいつらをぶっ倒して、俺たちは先へ行くんだ!」


 ヴァレンが背後の傭兵を鼓舞する。勇者はすでに前に向かって進んでいた。

 フォンシエもまた、進むヴァレンや聖騎士たちとともに覚悟を決める。


 かつて、フィーリティアと二人がかりで倒した相手だ。それを今度は、自分の力だけで倒さなければならない。


 傭兵たちと協力するのはもちろんだが、即席でそこまで息が合うとも思われなかった。


 フォンシエが剣を構えたとき、勇者の先頭にいたアルードがほかの勇者たちに視線を向けた。


「お前ら、離れるなよ! とっておきをを見せてやる!」


 アルードが告げるとともに、彼を中心とした光が一帯を包み込んだ。

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