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6 外の結末


 四人を光の翼に乗せて飛んでいたフォンシエは、向かう先に漆黒の海を見つけた。


「こんなところまで、神使は来ているのか……」


 彼の呟きをミルカの狐耳がさっと拾った。


「すでに人類の生存可能領域はほとんどありません。ですから、どうにか神使がいない場所を探して旅をする必要があったのですが、フォンシエさんが倒してくれるというので助かりました。世界の平和は守られました。めでたしです」

「まだ、侵食神を倒すとは言ってないんだけど……」

「大丈夫ですよ。フォンシエさん押しに弱そうなので、頼み込めばなんとかしてくれます」

「ひどい言われようだ」

「そうだよ。フォンくんは頼まれなくたって、なんとかしちゃうんだから」

「否定したいの、そこじゃない」


 賑やかな話をしていた彼らだが、


「あれか。まだ生き残りはいそうだ」


 アートスが目を細めると、視線をそちらに向ける。


 いくつかの車はすでに漆黒の中に沈みつつある。

 一方、まだ無事な者たちもいるようだ。数百の車が見える。しかし、すでに囲まれてしまっていて、どこにも逃げ場がない。


 このままでは死を待つだけだ。


「よし。じゃあ、俺が道を作るから、避難を手伝ってくれ」

「任せとけ。早速、フォンシエからもらった力を生かさないとな」


 アートスが自分の手を見つけながら口角を上げると、シーナが口の端を下げた。


「もう、調子に乗らないでよね! いつも、それで失敗するんだから。自分の安全をまず確かめて。無理しないって約束して。敵がいたら、突っ込んでいかないこと。それから――」

「わかった、わかったって!」

「まったく。二人は仲がいいな。けど、いちゃつくのはアレを倒してからにしてくれよ。いくぞ!」


 フォンシエが急降下すると、皆が着陸に備える。


 神使が気づいた。泥のような漆黒が人の形を取ると、フォンシエのほうへと蔓のような腕を伸ばしてくる。


「フォンくん!」

「ああ! 蹴散らすぞ!」


 彼が腕を振ると、光の剣が振り抜かれる。

 一瞬にして神使を切り裂くと、蒸発するかのように、存在が消えていく。


 意識を傾ければ、わずかな神の力が流れ込んできた。


 眼前には一筋の道ができあがっている。陸路でも救出にいけるだろう。


「アートス、行け!」

「おう!」

「ティアもミルカとシーナを守りつつ援護を!」

「任せて!」


 彼らに指示を出すと、フォンシエは自身を光で覆うと、敵中へと飛び込む。

 黒い大地は彼を呑み込もうと腕を伸ばすが、触れる前に光に遮られてしまう。


「居場所が丸わかりだ!」


 神の力を隠そうともしておらず、探知に引っかかるところへと片っ端から光の矢を打ち込んでいく。


 神使はそのたびに弾け飛ぶが、動きは変わらず、ずっと追い続けてくる。


「やはり、意識なんてものはないか!」


 ならば、ひたすら倒し続けるのみ!


 フォンシエが戦う一方で、フィーリティアは人々のところへと飛び込んだ。

 今にも襲われている人を見れば光の矢を撃ち込み、光の盾で防いでいく。彼女の姿を見て、人々はあっけに取られる。


「皆さん、こちらへ! 神使の隙間を移動します!」


 半信半疑でありながらも、わずかな期待を見せつけられては、縋らずにはいられない。


 少しずつ、車が動き出す。


 そうして脱出を図る列ができあがるが、そこへも神使が手を伸ばしてくる。悲鳴が上がる中――


「させるかよ!」


 アートスが銃を構え、引き金を引く。


 音はなく、噴出したのは赤黒い光。

 それは神使をも貫く威力があった。


「よし……!」

「アートス、後ろ!」


 シーナの叫びに、拳を握った彼が振り返り、顔を引きつらせた瞬間、頭上から光が降り注いだ。


 まばゆいそれに、人々は目を奪われる。


「おお、なんという……」


「アートス、またシーナに怒られそうだな」


 上空から見下ろしながら、フォンシエが声をかけた。


「助けられるなら、最初からやれよ」

「敵の数が多かったんだよ。あとは埋まってる人だけど……」


 すでに神使の中に取り込まれてしまった人は、どうすべきか。

 彼がそちらに目を向けると、ミルカが駆け寄ってくる。


「フォンシエさん、とりあえず引っこ抜いてみましょう。まだ生きてるかもしれませんよ」

「そうなのか?」

「わかりません!」

「じゃあなんで言ったんだよ」


 こんなときに、ふざけているのかと思いきや、そういうわけでもないらしい。


「そもそも、前例がないんです。神使を倒せる人は、これまでいませんでしたから」

「……やってみる価値はあるか」


 フォンシエは早速、探知で人を探す。

 そして狙いを定めると、光を放った。


 人を貫かないように気を使いつつ、敵だけを吹き飛ばす。

 そして黒い液体状のそれが薄くなったのを確認すると、無数の半透明の手を伸ばし始めた。


「フォ、フォンくん……それなに?」

「精霊の神の力だけど、相手の精神や生命力に関与できるみたいだ。弱っていたら、回復できないかなって」

「そうなんだ」


 混沌の地での決戦以降、激しい戦いがあったわけでもなく、神の力を使いこなせていたわけではないが、少しずつ試してみてもいい。


 彼は地下に埋まった人を引き上げていく。

 地上に現れた人のところへと、シーナは駆け出そうとするが、フォンシエはそれを手で遮った。


「どうして止めるの!? すぐに手当てしないと……」

「……残念だけれど、彼らはもう」


 その体はすでに溶けて、黒い液体を噴き出しつつあった。神使と同化しているのだろう。


「せめて、どうか安らかに」


 フォンシエは腕を振るう。

 辺りに光が撒き散らされ、それを浴びたところから体がかき消えていく。


 ほとんどの人は起き上がることもなかったが、一人、うめき声を上げて彼を見る人がいた。


「う、うぅ……」

「大丈夫。そのままでいいですよ」


 精霊の手で触れると、彼に安らぎを与えていく。少しずつ、表情が和らいでいく。

 と同時に。彼の思考が流れ込んできた。


「くっ……!?」

「フォンくん!?」


 大丈夫だとフィーリティアに示しつつ、予想外のことに、心を落ち着かせていく。

 見えてきたのは、無数の意識。膨大な光景。


(こいつが神使の目的か)


 人の脳では処理しきれないと見て、処理を神の力に委ねる。

 その下で見えたのは人の願望。


(……いや、どちらかと言えば、この精霊の力に近いか)


 もしかすると、精霊という種族がいたのかもしれない。

 だから、その力が呼応してしまったのだろう。


 精霊の力は他者の精神に触れることができるが、言葉ではなし得ない、完全な理解ができるものだ。感情や思い、考えがすべて、完全に再現される。


 それゆえに精霊たちは深く互いを理解しようし、いつしか究極の形として、同一の存在となろうとしたのだ。


(……神の力を求めて争い、手に入れた結果がこの世界か)


 フォンシエはそれ以上、追及するのをやめた。

 この力を使い続ければ、自分も同じ考えに取り込まれそうになったから。自己と相手の距離が近づき、垣根が消えてしまいそうになったのだ。


 そして同時に、神使がただ這いずり回っていた理由も明らかになる。

 あまりにも多くの精霊の考えを、一つにまとめ上げることは不可能であった。結果、なにも考えていないのと同じことになった。唯一の理想、一つになることを除いて。


 であれば、侵食神も似たようなものだろう。

 力はあれど、神使たちと大差ないはず。意識を辿れば、侵食神の居場所と思しきところも特定できる。


 かなり遠くではあるが、行けない距離ではない。


「……フォンくん、大丈夫?」


 フィーリティアに声をかけられて、はっとする。

 少し、時間がたってしまっていたようだ。


「俺は大丈夫。それより、手助けできなくてごめん」

「いいってことよ。その辺の神使は片づけたぞ」

「アートスも悪かったな」

「フォンシエがいないから、俺でも大活躍だ」


 そんな冗談を言うアートスであった。

 フォンシエが立ち上がると、ミルカが駆け寄ってくる。


「フォンシエさん、なにがあったのですか? 面白かったですか!?」

「心配じゃなくて、ただの興味かよ」

「大丈夫そうですし。それより、なにか得られたんですね? そういう顔をしています!」

「どんな顔だよ。……まあ、そうだな」


 ミルカがごくりとノドをならす。


「俺もティアもミルカも、皆別の人だからいいってことさ。人は同じになれやしない。もちろん、同じ考えを抱くことも」

「……なんですかそれ?」


 首を傾げるミルカを見つつ、フォンシエは告げる。


「けど、皆で同じほうを向いて進んでいける。きっと、中の世界も、外の世界も、関係なく。さあ、侵食神の場所がわかった。あいつを倒して、皆で復興だ」

「なんと! 大発見ですね! わくわく!」


 緊張感のないミルカにため息をつくと、フィーリティアが彼の隣でぐっと拳を握る。


「頑張ろうね、フォンくん」

「ああ」


 二人で見つめ合っていると、


「えっと……こっちも頑張ってほしいんだけど」


 シーナの声が聞こえる。

 彼女は負傷者の手当てや、人々への説明などを一人で行っていた。


「ご、ごめん! 今行くよ!」


 フォンシエは駆け出す。

 そして話をしながら、考えるのだ。


(……やはり強すぎる神の力がもたらすのは破滅だ。人の欲望にはキリがないから)


 だからこそ、平凡な生き方でいい。

 今もほとんど神の力を使っていないが、不都合もない。人は自分の力だけでも歩いて行けるはず。


 もし戦いが終わったら、この力をどうしようか。フォンシエはそんなことを考えるのだった。


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